裏切り
「……?」
なぜ、そんな言葉を姉が言うのかわからない。
それに私は姉に慈悲をかける側ではなく、かけられる側ではないだろうか。
それに、いつだって家族も国も何もかも姉が中心だ。その中心に私がいたことは一度もない。
「何か……ご不安なことでも?」
姉を見つめる。
黄色がかった赤の瞳は姉だけのもの。
「スカーレット様は、愛されておいでですよ」
それは紛れもなく、事実だ。私にあの人の寵愛が奪えるとも、欲しいとも思えない。
「そうよ、私は愛されてるの」
姉は私に微笑んだ。姉の瞳に困惑した私が映る。
「この愛の為なら、すべてを捨ててもいい」
ーー熱烈だ。
姉の愛は、周囲を灰燼に帰しても燃え続ける、激しい愛。
私の中にそんな愛はない。私は誰かを愛するなら、その周囲も守りたいと思う。
だから、相手だけにひたむきな姉が少しだけ眩しかった。
眩しさに思わず目を細めると、姉はふっと、表情を変えた。
「あなたには理解できないでしょうね」
そういうと、姉は口角を上げた。
「だから私はあなたをーー……」
「?」
姉が何かを呟いた。
低く小さな言葉は、完全には聞き取れない。
「スカーレット様?」
「いいえ、なんでもないわ。……ねえ」
姉は握った手を小さく揺らすと、私の肩に顔を寄せる。
「……ごめんね」
小さく囁かれた謝罪は何に対する謝罪なのか。
疑問に思っているうちに、するりと姉は手を離して、私の脇腹に触れた。
「痛い?」
姉が触れたのはちょうど、私の幼い頃からある、あざのあたり。
まるで、何かに貫かれたような形のあざは、服に隠されて、誰の目に触れることもない。
「? いいえ」
何かが当たってできたわけでもなく、物心ついたときからずっとあったあざだ。別に痛むことはない。
……そんなこと、姉も知っているはずだけど。
「……そう」
それでも姉は、しばらく、私の脇腹に触れていた。
まるでーー懺悔するように。
「スカーレット様……?」
「どうして、あなただったのかしらね……」
あざは、特に人を選ばないのでは?
誰だってぶつければできるし、ぶつけなくても生まれつきあることもある。
「そうでなければーーこんなことしなくて済んだのに……」
「え?」
あれ?
おかしい。姉はこんなことを言っていただろうか。
これは、夢だ。
だって、過去に姉と話したことだから、それはわかる。わかるのだけれどーー。
頭が割れるように痛む。
「……!」
ーー強い、耳鳴りがした。
喉を揺らすだけのか細い息が漏れる。
脇腹の傷跡から溢れ出る血が止まらない。
痛い、怖い、苦しいーーなんで、どうして。
私は、何もしていない。私は、なにもーー。
「なぜ、私を裏切った?」
恐ろしい声がする。
違う、と心が叫ぶ。
私は、誰も裏切ったことなどない。
なんで。どうして。他ならぬあなたが、信じてくれないのーー。
言葉にしたいのに、声にならない。
か細い呼吸だけがこぼれ落ちる。
ーーその、ときだった。
「アオリ嬢!!」
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