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運命の番の妹様は、溺愛されて幸せです!~今更、私が番だったと言われても困ります~  作者: 夕立悠理
一章

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過去の夢

 ーー蕩けるような美しい声がする。

「私の番、愛しい番」

 甘いその言葉と共に、瞼を開けた。

 豪華絢爛なその部屋は、竜王陛下の番たる姉に与えられた一室だ。


「…………」

 私は……何をしていたんだっけ。

 そうだ、姉に呼び出されて部屋を訪れたのだった。

 しかしーー。

「きみさえいれば、他はいらない。きみだけがいればいい」

 視線一つとっても溶けるほど甘い。その甘さの全ては姉のものだ。

 世界の中心をその唯一を、姉一人に定めたその人の目に私が映ることはない。


 名前も知られず瞳にも映らないどころか、二人きりの空間に置かれた石程度の扱いだ。


 なぜそこにいるのかという疑問すら持っていないことが窺える。

 意識すらしていない。



「私だって、レナード陛下がいればなにもいりませんわ」


 姉が微笑む。その目にも私は映っていない。

 公然といちゃつく恋人とはそんなものかもしれないけれど。私はなぜ呼び出されたのだろうか。



「陛下は、私を愛していますよね」


 姉の質問に、その人はもちろんと頷いた。


「スカーレット、君だけを愛している」


 レナード陛下、スカーレット、と互いの名前を呼んで愛を確かめ合う二人。

 いや、本当になぜ私は呼び出されのだろう。


 しかし、ここで声をかけようものなら、邪魔をしたとして殺されてしまうかも。

 なるべく部屋の隅に寄って、二人の逢瀬が終わるのをじっと待つ。

 嵐を耐え忍ぶような長い時間は、陛下を連れ戻しにやってきた侍従によって終わりを告げた。


 名残惜しそうにこれまたたっぷり時間をかけて、二人は別れ、ようやく姉と私だけが部屋に残される。


「どうだった?」


 陛下の姿が完全に消えた後、私を見た。

 どうやら、私のことを忘れていたわけではないらしい。

「……どう、とは?」


 わざわざ呼び出しておいて、存在を無視したことだろうか。それならいい気分ではない。


 しかし、姉は私の質問には答えず、微笑んだ。


「私、陛下に愛されてるの」

「そのようですね」


 他人の目から、愛されていると確認したかったのだろうか。あれだけ愛を告げられて、安心できないとは思えないけれど。


「私が陛下の特別なの」

「? そうですね」

 姉が番なのだ。だから、私はその番の妹という付属品になったのに。一体なにがいいたいのかさっぱりわからない。


「ねえ……」


 姉は、私の手を握り、微笑む。


「私は幸せよ? こんなに愛されて、大切にされて、幸せじゃないはずない」

「……よかったですね」



 愛されることだけが幸せではないとは思う。

 でも、自分も大切に想う相手に、望む愛され方をされているのならば確かに幸せだろう。


 目を閉じれば浮かんでくるのは、一面の銀世界。

 硬いパンも、一緒にもぐりこんだ薄い布団も、頬を膨らませながら着たお下がりのドレスも。


 私はもう、失くしてしまったけれど。



「そうなの。私がレナード陛下の最愛で幸福で全てよ」


 過去を思い描いた私の前で、姉は美しく微笑んだ。


「私は、あなたみたいにならない」

「……?」


 私みたいに? 

 姉が名前を失くした透明人間にはなるはずがない。

 だって、この城は、この国は姉を中心に回っているのだから。


「優しさで慈悲をかけないし、気遣わない。その慈悲がどれだけ傲慢で、殺したいほど腹立たせるのか知っているもの」

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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