嗚咽
差し出された手に自分の手を重ねる。
「わっ!」
その瞬間、強い風が吹き思わず目を閉じた。そして再び目を開けるとーー。
「……え」
毛足の長い絨毯に、キラキラと煌めくシャンデリア。磨き上げられた窓からは、夕陽が差し込んでいる。
「ついたな。我がリーフデの城へようこそ」
ルカニア様が、満足そうに頷き首を傾げる。
「アオリ嬢、酔ってはいないか? おそらく、初めての転移だろう?」
「……はい。あの、転移ってーー」
物語の魔法の様な力がリーフデ国にはあるの?
「誰でも使えるわけじゃないよ。使えるのは、王族くらいだ」
「そうなんですね」
でも、すごく便利な力だ。その力があるからこそ、魔の森にいたのだろうか?
他にも聞きたいことや知りたいことがたくさんある。
……でも、説明してくれるって言っていたし、今は待った方がいいだろうか。
「すまない」
戸惑いながらルカニア様を見つめると、苦笑された。
「落ち着ける場所に移動するからもう少し待ってくれ」
……私の考えが伝わったらしい。
「わかりました」
「ありがとう。……シュバルツ、そろそろ霊体化ーー」
『アオリと契約したから必要ないでしょ』
「そうだった」
……契約をしたから、霊体化が必要ない?
そういえば、帝獣の幼体を直視すると狂ってしまうとかなんとか、言われていた気がする。
霊体化とは、人に見られないようにすることなのかな。
「ああ、すまない。これも後で説明する」
「わかりました」
それならば、別に問題はない。
ルカニア様に続いて、城の中を歩く。
それにしても……ルカニア様たちに見つけてもらえてよかった。
窓から見える夕陽はかなり沈んでいる。
まもなく、完全に夜になるのだろう。そうなれば、私はーー。
「……」
想像して、少し身震いする。
「大丈夫か?」
ルカニア様は首を傾げた。
「え?」
先頭を歩いていたのに、私の姿が見えたのだろうか。
「いや、すまない。そうだよな、その靴で森にいたんだ」
ルカニア様はそう言いながら、私の方へくるとーー、私を抱き上げた。
「る、ルカニア様!?」
「あなたがいたのは、森の中でもかなり奥の方だ。足が痛むだろう? ……気づかなくて悪かった」
確かに、ヒールで長距離を歩いたので、足は痛んでいる。でも、そんなこと今の今まですっかり忘れていた。生死の危機に、体が麻痺していたのかもしれない。
「ルカニア様が謝られることでは……」
そもそもの原因は、私を追放した陛下だ。
それに、もしかしたら、私にももっと上手い立ち回り方があったのかもしれない。
いずれにせよ、ルカニア様が謝る理由は何一つなかった。
「言っただろう。あなたを尊重すると。アオリ嬢の痛みに気付けない俺たちではありたくないな」
「! ……あ」
胸が、苦しい。
感情の波が暴れ出す。
それは悲しいんじゃなくてーー。
「ど、どうした!? 気に障っただろうか?」
『アオリを抱き上げる前に、許可とらなかったからじゃない?』
「たしかに! 申し訳ない、アオリ嬢! 不躾だったな」
違う。
そうじゃない。私はーー。
「嬉しかった……のです」
まるで、透明人間のような日々だった。
私が何をしてもしなくても、その行き着く先は、番のスカーレット様だった。
だから、他ならぬ私を見ようとしてくれたのが、嬉しかったの。
そう言葉にしたいのに、声にならない。
代わりに漏れたのは、嗚咽だった。
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