欲しかったもの
「……無礼を申し訳ございません!!」
まさかこんなところにいるとは思わなかったとはいえ、王族相手の態度ではなかったと思う。
「いや、あなたが謝る必要はないよ」
ルカニア様はそう言って微笑んだ。
「無礼だとは思わなかった。それに、あなたは俺とそう変わらない立場になるわけだし」
王族たるルカニア様と変わらない立場ーー?
それはもしかして、シュバルツと契約した?ということと関係があるだろうか。
「それはどういう……」
「もちろん説明するよ。……しかし、日も暮れてきた。移動しようと思うんだがーー……」
ルカニア様はそこで言葉を止めて、私を見つめた。
青銀の瞳は真っ直ぐに私を映している。
「一つ、今確認しておきべきことがある」
「……何でしょうか?」
「アオリ嬢は、チェムター国と縁が切れても問題ないか?」
「ーー……」
チェムター国。私が生まれ育った国。そして、私が愛したくて愛されなかった国だ。
「はい」
小さく頷く。
祖国への未練は最早ない。
「そうか、それならよかった。この森にいるということは、リーフデではなくチェムター国の民のようだったから、心配だったんだ」
息を吐いた後、すぐにルカニア様は表情を曇らせた。
「いや……でも」
「?」
「きっとあなたを傷つける何かが、チェムター国であったのだろうな。ーーアオリ嬢」
ルカニア様が急に私の目の前に跪く。
「!? あの……」
王族を跪かせるなんてーー!!
焦る私とは裏腹にルカニア様は、強い意志を持った瞳で私を見つめている。
「約束する。リーフデは、あなたを傷つけない。あなたという人を尊重する国であり続ける」
「……!」
私という人が尊重される。
それは一番、私が欲しかったものだ。ずっと諦めながらも欲し続けた、私の願い。
「だから、どうか俺たちと共に来てはくれないだろうか?」
「はい」
強く頷いた。
祖国で私は追放されており、未練も居場所もない。それに、ルカニア様は私が一番ほしいものをくれると言ってくれた。躊躇う理由が一つもなかった。
「ありがとう、アオリ嬢。あなたの決意に応えるリーフデであり続けよう」
ルカニア様はそう言って微笑むと、私の手を取りーー。
『話まとまったー? 僕、お腹すいちゃった』
その存在をすっかり忘れていた。
シュバルツは、ずっとおとなしく私たちのやりとりを聞いてくれたようだ。
「シュバルツ! お前は本当に……」
立ち上がったルカニア様は、少し呆れたように息を吐いた。
『珍しく、ちゃんと王太子らしくカッコつけてたね』
おうたいし、王太子?ーーえ。
「ルカニア様は……いえ、ルカニア殿下は……」
「言ってなかったか? 一応、リーフデの王太子だよ」
……王族しかわかっていなかったわ。
「あなたなら呼び方は好きにしてくれていい。呼び捨てでも、あだ名でも」
『そうだよ。ルカぴょんとかでもいいってさ』
「それは流石に恐れ多いです」
王太子をルカぴょんと呼ぶ、隣国出身の娘ーー、うん、すぐに処刑されそう。
「そうか? あなたが逆に困るなら無理を言わないが……」
「ルカニア様、でもいいですか?」
こっそり心の中でそう呼んでいたので一番呼びやすい呼び方だ。
「もちろん」
ルカニア様は頷くと、私に手を差し出した。
「それでは、行こうか。我がリーフデへ」
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