優しさに触れて
「アオリ嬢……」
「……っく、……う」
お礼も十分に伝えられないまま、嗚咽ばかりが漏れる。
「ーーそうか」
ルカニア様は頷くと、片手で私の涙を拭った。
「なにがあったかはわからないが……、あなたが傷ついていたことはわかる」
温かく穏やかな声でルカニア様は続ける。
「俺たちはあなたを大切にする。あなたは、尊重されるべき人だ」
……尊重されるべきひと。
ルカニア様の言葉がまるで、雨の様にじんわりと私の胸に染み込んでいく。
「……っう、……!」
優しい言葉によって、余計に漏れ出る嗚咽を、唇を噛んで止めようとすると、ルカニア様は微笑んだ。
「無理に止めようとしなくていい。自分の傷と向き合う機会は大切だ」
出会ったばかりで何も知らない私にも、こんなに優しい言葉をかけてくれる。
私が特別というわけではなく、ルカニア様は優しい人なのだ。その優しさが、どうしようもなく嬉しかった。
◇
ーールカニア様は泣いている間、まるで私をあやす様にずっと抱き抱えながら歩いていた。
「……もう、大丈夫です。ありがとうございます。そして、お見苦しいところをお見せしました」
「いいや、そんなことないさ。それに、ちょうどついたよ」
柔らかく微笑み、ルカニア様は私を下ろした。
泣いている時は目を配る余裕がなく、慌てて周囲に視線を向ける。
その部屋で真っ先に目に入ったのは本棚だ。これでもかと、沢山の本が綺麗に並んでいる。
「わぁ……」
先ほどまで泣いていたのも忘れて、本を眺めていると、くすりと笑う声がした。
「ルカニア様?」
「ああ、いや……あなたは本が好きなんだね」
「はい」
心の中で、とても、と付け足す。
チェムター国での私の癒しの時間は本を読んでいるときだけだった。その瞬間なら、私はただの妹でしかないことを忘れられたから。
『僕も本すきー、読んでもらうほうだけど』
シュバルツは気が合うね、とぱたぱたと尻尾を振った。
「そうなの……それなら、今度、私でよければ読みましょうか?」
『うん!』
嬉しそうに私に擦り寄ったシュバルツの背中を撫でる。
大きな犬……というよりも狼くらいの大きさのシュバルツは、やっぱり神秘的で、それでも口調が砕けているせいか、親近感がある。
「アオリ嬢……そのことなんだが」
ルカニア様が改まった仕草で咳払いをした。
「このシュバルツは、帝獣ーー将来的にこの国、リーフデの武を担う存在だ」
武を担う存在……。あれ、でも、隣国リーフデで獣が武を担当するなど聞いたことがない。
私が知っていることといえば。リーフデは、とても強い国だということ。そして、いつも王の傍らには、強い武人がーー。
「もしかして、シュバルツ……さまは、人の形も取れるのですか?」
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