森の中
(アオリ視点)
ーーもうどれだけ歩き続けただろうか。
空を見上げる。
森の中に差し込んでいた明るい光は、いつのまにか、オレンジに変わっている。
「隣国まで……あとどのくらい……」
この森を抜ければ、隣国に着く。
日が落ちるまでにつかなければーーううん、怪物が出るまでにつかなければ、私は隣国にたどり着く前に……。
その瞬間を想像して、ぶるり、と身震いする。
怖くてたまらない。
魔の森に怪物が出ることは有名だ。でも、それがどんな怪物なのかは、詳しく知らない。
ーー怪物が出るから、魔の森は通らない。
それは常識であり当たり前であり、だからかどんな怪物なのかについて、考えたことはなかった。
「……寒い」
日が落ち始めた森の気温は、急速に下がっている。
寒くて震えているのか、恐怖なのか最早わからない。それでも歩みを止めずに、ただ進み続ける。
ーーグオオォオオン
低い唸り声が聞こえた。
その音と共に枝に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ。
何か来る!
恐怖で歯がカチカチと鳴る。その音を怪物に聞かれないように、口を強く押さえた。
なるべく息を殺して、木陰に身を潜める。
ーーグオオォオオン
声が徐々に近づいてきた。
……早く、早く過ぎ去って。
ーーグォオン?
声が止まる。
私の近くだ。ぎゅっと強く目を閉じた。
どうかーー。
「…………?」
しかし、一向に痛みはないし、唸り声も聞こえない。
もしかして怪物の力で、一息に殺してくれたのだろうか。
そう思い、おそるおそる目を開ける。
「ーーえ」
青銀色の瞳はとても美しかった。そして、日が落ちた森の中でも輝く銀の毛並みは、神々しい。
……これが、怪物?
とてもーーとても美しいと心からそう思う。恐れも不安も恐怖も感じない。ただ、美しいものに対する憧憬だけを感じた。
「……きれい」
口から自然とその言葉がこぼれ落ちる。
「シュバルツ? 危ないーー!!」
人の声がしたかと思うと、急に視界が真っ暗になった。
人の熱を目元に感じる。
つまり、誰かに目を覆い隠されているようだ。
「あの……?」
「ああ、どうしよう。シュバルツのせいで、人を狂わせるなど、こんなことーー」
「え……私、狂ったんですか?」
「!」
視界が急に明るくなる。
「狂ってないのか!?」
真っ先に飛び込んだのは、先ほどと似た青銀色の瞳だ。こちらも美しい瞳だけれど、先ほどよりも、温かみを感じる瞳だ。
そして深い海のような青い髪は、風に吹かれてさらさらと揺れている。
「ええと……?」
狂ったか、狂ってないかで言えば、狂ってはない……とは思う。
でも、自分が正気かなんてどうやって証明すればいいんだろう。
「俺を見て」
言われた通り、青年を見つめる。
「俺が何に見える?」
「人間、でしょうか……」
まさか、悪魔か死神だったりはしない……というか、そうだったら困る。
「髪は何色?」
「青色です。素敵な髪色ですね」
「瞳は?」
「青の中に銀の光がまざっています。綺麗ですね」
「…………!」
急に青年の顔が朱に染まる。
「あの?」
「いや、急に口説かれたからーーって、そうじゃなかった! 本当に狂ってないな。……帝獣の幼体を直視したのに」
……帝獣?
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