犯した罪(レナード視点)
「……スカーレット」
胸が苦しい。
まるでナイフで何度も突き刺された様に心が痛い。
なぜ? なぜだ、スカーレット。
混乱する頭でもその体を突き飛ばさなかったのは、信じたかったからだ。
この喪失の穴は、もしかしたら何かの間違いで、私が番を誤認したことが誤りなのではないかと。
……そんなことはないと知りながら。
「はい、レナード陛下。あなたの愛しい『番』はこちらに」
スカーレットが私を案じる様に私の背に触れる。触れられるといつもは多幸感に包まれていたはずの心は、何一つ踊らない。
まるで、感覚が一切遮断されてしまったかのようだ。
ああ、そうだ。そうに違いない。
なぜだか、胸は暴風雨のように痛むけれど。
スカーレットへの愛が痛みに変換される魔術でもかけられたのかも。
だって、スカーレットは、スカーレットが番でなければ、私はーー。
「ーーちがう」
「陛下?」
「ちがう、違う違う違う……なぜだ? なぜ、私はーー」
あの予言が間違っていた?
ウィルソン男爵家に私の番がいるというその予言。予言を告げた神官とスカーレットが示し合わせ、私を貶めようとした?
いや、違う。
私の心の中にある真実のたった一つ。
その真実を認めるのが何よりも恐ろしい。
「レナード陛下」
スカーレットが微笑む。妖艶で美しい微笑みで。
「大丈夫です」
なにが大丈夫なのか。大丈夫な要素など何ひとつない。だって、私はーー、私がいままで過ごした10年間でしたことは。
「大丈夫ですよ、レナード陛下」
子供をあやす様に何度も大丈夫、とスカーレットは繰り返した。
「あなたが誰に怖がられても」
ああ、そうだ。
あの怯える様な黄色がかった青の瞳。
一面の銀世界であの瞳に映った時に、確かに幸福感を覚えたのに。
「あなたが嫌われても」
違和感を覚えた時に引き返すことはできた。
それなのに、私は番を守るために何をした?
「あなたが許してもらえなくても」
一方的に悪だと決めつけ、首を絞め、その果てにーー。
「あなたが殺してしまっても」
国外追放を命じたのは、私だ。しかも、ただの追放ではない。何ひとつ携行させず、魔の森に追いやった。
美しい黄金の髪に黄色がかった青の瞳。
私を見るたびにいつも怯えた顔をしていた。私は、それが気に食わなくて極力視界に入れない、どころかその存在を無視したことさえある。
私は、私は、どうして。
あんなに近くにいたのに。愛する誓いを果たすために生まれてきたのに。それが私の生まれた意味なのに。
「……、あ、ああ……」
私は、なにをーー。
何をしてしまったんだ。何時間経った?
一面の紙吹雪の中、日は高く上っている。
それは彼女を怪物のいる森に彼女を追放してからかなりの時間が経過したことを示していた。
「私は……私のせいで……」
何よりも大切にすべき至宝が。
「陛下、言ったでしょう」
心が、体が、悲鳴をあげる。
生きる意味がない。その意味を私が壊してしまったから。
一度だって微笑みかけられたことはない。
私が微笑まなかったから。
番ではないと思っていても、傷つけないでいたことはできたはずだ。だが、私は彼女を傷つけ、そしてーー。
「大丈夫ですよ」
慈愛のこもった様な笑みでスカーレットは微笑んだ。
「あなたが何をしようと、私はあなたを愛します」
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