蛇神の嫁の魅力とハムカツ弁当
姉から言質を取った翌日。
また下駄箱にあった藁人形を忘れ物ボックスにシュートする。
さすがに連日放り込んでいたせいで見張られていたのか止められてしまった。
「君、こういう悪戯を」
「悪戯をされているのは僕の方です」
「む」
教師が言いたいことを言う前に、こちらが言う。
「ここ数日、ずっと僕の下駄箱に放り込まれているんです。誰が間違えているのか知りませんが、迷惑です」
「う、む……そうか。ええと、噂を聞いたのだが、君は堂城さんの親戚と……」
「ああ、はい。婚約しました」
「……そうか、気をつけてみるよ」
「お願いします」
さすが千館高校に出資しているだけあって、堂城さんの名前だけで教師は僕を叱るのをやめてしまった。
実際、僕は被害者なので怒られても困るんだけどさ。
ていうか、あの藁人形を放り込んでいる奴はどんなつもりなんだろうな?
呪いが効果を示している様子もないし。
そんなものが本当に僕を襲っていたとしたら、真白がそれを放置しているはずもない。
それに、アイテムボックスの中に入ってもエクトプラズマが体に張り付いていることもない。
誰の仕業か知らないけど、完全に予算と行為……つまりは時間の無駄だな。
それにしても……。
昼休憩。
昨日の約束の通り、二人の弁当を持ってきている。
中身はハムカツ弁当。
悪の組織から没収したっていう物資の中にハムがあったので作ってみた。
異世界ハムだから気になったんだ。
オーク肉のハムらしいので、ビッグボアやファイアブルの脂身部分から取った油で揚げてみた。
間にチーズを挟んだチーズハムカツだ。
そういえば連日で揚げ物だな。
「昨日のほどじゃないが、美味い」
シキは遠慮なく僕の作ったハムカツ弁当に点を付けていく。
「まったく、人が作ってくれた物にそんな言い方をするなんて」
「美味いって言ってんだからいいじゃねぇか」
「その前の言葉が余計でしょう」
そんなことを言いながら、堂城さんもハムカツ弁当をパクパク食べている。
お嬢様然とした堂城さんがハムカツ弁当を食べる。
同じくお嬢様な真白にも食べさせているんだけど……あっちは小さいから「しっかりお食べ」って気持ちで見守っていられる。
「ただ、以前にいただいたお肉ほど力は感じられませんね」
と、堂城さんもはっきり言う。
まぁ、この場合ははっきり言ってもらった方がいいんだけどね。
真白も同じことを言っていたし。
異世界の食材でも、あっちで加工されると力が失われるのか?
それとも素材のオーク肉が良くなかったのか?
まぁ、向こうの加工品はそこまで価値がないと判断した方がいいかも。
食べ物には困っていないんだし、姉に売るとかしてもらおう。
……するかな?
しないな。
倉庫の肥やしになる未来しか見えない。
ともあれ……。
「明日は美味しいのにするよ」
そう言いながら、僕は堂城さんを見る。
「どうかした? 今日はずっと見られている気がするのだけど……」
「ああ、いや……」
「だめよ、尾羽くん」
「はい?」
「義理の母と息子の関係なんて、マニアックすぎるわ」
「なんの話? いや、なんで堂城さんってこんなに人気なんだろうなって思ったから」
美人であることを否定する気はないんだけど、アイドルや女優だからってそこにいる男子全員を魅了するなんて普通はないと思うんだ。
そうじゃないと、アイドルのグループ売りなんて商売はこの世にないと思うんだよね。
一人いればいいじゃんってことになる。
「へっ」
僕が首を傾げていると、シキが鼻で笑った。
「こいつが美人に見えているのは、霊力のおかげだよ」
「霊力の?」
「霊力ってのは大雑把に言えば次元上昇の力だ。つまりたくさん持っている方が上位の存在ってことになる。上にいる奴らはみんなすごい、美しい……そういう幻想を感じさせられているってことさ。そして、綺麗なものはみんな欲しくなる」
「ふうん」
つまり、蛇神の嫁として獲得した霊力が堂城さんを魅力的に見せている。
それが堂城さんの人気の正体ってことか。
「なるほどねぇ」
わかったらちょっとスッキリした。
とはいえ、それでいまの困った状態がなくなるわけではないんだけどさ。
真白が印を付けてくれたり、シキや堂城さんが文句を言ってくれたおかげで嫌がらせは沈静化している。
残すはあの藁人形だけなんだけど。
「なんであんなにしつこいんだろうね」
出来が似ているから、既製品を使っているか、同じ人が作っているかだと思うんだけど。
「まぁ、素人のくせに本気で呪いに手を出すような奴なんて、もうどっかが壊れているのさ」
とシキが、食べ終えた弁当箱に箸を投げながら言う。
ううん、行儀が悪い。
持って帰って洗うのが面倒だから、使い捨ての弁当箱にしてるからいいんだけどさ。
いや、行儀の悪さと物の扱いの悪さは比例するか。
「私が美しすぎるのが罪なのね」
「そうだよ。大人しく社にでもこもってろ」
「だけどお断りよ」
シキに吐かれた毒舌を、堂城さんは涼やかに受け流した。
二人とも唇周りが油でテカってるけどね。
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