文化祭に向けて〜蛙を添えて
文化祭準備のための話し合いが行われた結果、水風船ダーツというゲームが行われることになった。
水風船をベニヤ板に吊るしてダーツで割るというゲーム。
中に入れたクジで景品がもらえるというもので、景品は生徒が家から要らないものを持ってくるということで決まった。
割れた水風船から出る水はビニールプールとブルーシートで受け止めればいいだろうとのこと。
ビニールプールにダーツが刺さって破裂する未来が見えた。
後、店員役は男女問わずメイド服を着ることになった。
「それなら普通にメイド喫茶にすればいいんじゃないの?」
「飲食物の許可をとるのは役所の手続きとかが必要よ。するの?」
クラスから上がった疑問に、モーちゃん先生がやや面倒そうに答えた。
いや、それ以前に何やるか決まらなくて、モーちゃん先生が高校生の頃に文化祭でやったという水風船ダーツの話を聞いて「じゃあそれでいいじゃん」っていう流れで決まったんだからさ、ここで喫茶店とかいう新しい提案だしてんじゃないよ。
なら最初から言えと言いたい。
言わないけどさ。
波風立てたいわけじゃないし。
そんなことより男子もメイド服を着ることに文句を言えと言いたい。
どうしてその件には誰もなにも言わない?
執事じゃダメなのか?
実はみんな、メイド服が着たいのか?
「許可取ったって、どうせレンチンかインスタントしか出せないんだから、これでいいんじゃないの?」
「異議な〜し」
「それじゃあ、一番の問題はメイド服をどうやって用意するかなんだけど……」
「先生」
ここで堂城さんが手を挙げた。
「あら、堂城さん?」
モーちゃん先生が驚いた顔をする。
みんなもそうだ。
堂城さんが自分から発言するのはとても珍しい。
「知り合いの伝手で揃えられるかもしれません。お時間をいただけますか?」
「それは助かるわ。なら、まずは堂城さんに頼んで、無理ならレンタル衣装に頼むか、みんなで頑張ってそれっぽく縫うしかないってことで」
モーちゃん先生がささっと決めていく。
誰もなにも言わなくて前に立っている文化祭委員が涙目になったから、モーちゃん先生が進めているのだ。
僕としてはなにをやるかよりも、ここに真白が来たときにどうすればいいかを考える方で忙しい。
ていうか、真白から離れないようにするためにはむしろなにもやらない方がいいぐらいもあったんだけど。
……決まったことに文句を言う気もないけどね。
「それじゃあ、メイド服以外に必要な物を挙げていこうか」
モーちゃん先生に促され、委員が黒板に必要なものを書いていく。
それから、準備に向けての班分けが行われた結果、僕と堂城さん、そしてシキが買い出し班となった。
まぁ、大体100円ショップで揃いそうなので、このまま学校が終わったら店に行くことになった。
で、三人で堂城さんを迎えに来た高級車に乗せられて移動することになったんだけど。
「班分けで、なにかした?」
車の中で堂城さんとシキ、どちらに向けたとも言えるような感じで聞いてみた。
なんか作為的な班分けになったからさ。
ただ、どっちがなにをしたのかまでは僕にはわからない。
「ええ」
認めたのは堂城さんだ。
「他の人との交流なんて求めていませんので」
あっさりと他人を拒否してしまった。
なにをどうしたのかはわからないけれど、堂城さんやシキが他のクラスメートとうまくやっている光景が想像できないし、文句を言いたいわけでもない。
100円ショップに買い物するだけで文化祭の準備が免除になるんだから、これほど楽なこともない。
ただ、疑問を解消しておきたいだけでしかなかったんだけど……。
堂城さんの言い方は、少し気になる。
「はん」
そんな堂城さんの呟きを、シキが鼻で笑った。
「人間嫌いの蛇人姫か? やっぱり、大人しく社の中にいる方がいいんじゃないのか?」
うんそれ。
言い方はともかくとして、堂城さんが高校にいる意味はなんなのだろう? という疑問が僕にも浮かんでしまった。
僕たち普通の高校生とは違って、彼女の道はもう決まっている。
義務教育も終わっているのだから、もう高校に通う必要はない。
惰性でっていうのはあるのかもしれないんだけどさ。
まぁ……。
「それを言ったら、シキもそうなんじゃないかと思うんだけど?」
退魔師って人生が決まってるんだから、高校に来る必要はなかったよね?
「アタシは上の命令でしかたなくだよ」
「あなたは汚物臭い裏路地がお似合いですしね」
「ああんっ⁉︎」
ううん、堂城さんのシキへの毒舌が止まらない。
「はん! そうやって人を悪し様にして、それで自分を守ったつもりか?」
「それは自分にも跳ね返る言葉でしょうに」
ため息でシキの言葉をやり過ごし、堂城さんは前を見た。
「ただ……普通に人として生きていたらどういうことになっていたのか、それが気になっただけのことですよ」
と、少し寂しそうな顔で言った堂城さんは、前を見た。
バタン!
そんな視線の先にある車のフロントガラスに、いきなりデカイ蛙が降って来た。
走行中の車にだ。
それでも一切運転に乱れがなかったのは、運転手すげー案件だと思う。
「蛇姫よ、話がある」
車内に知らない男の声が響いた。
そして……。
ちょっといいことを言った感じを出していた堂城さんは、静かにキレていた。
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