懲りてない
「それで……」
飢えた獣から弁当を守りつつ完食。
ようやく本題に入ることができる。
「マッハさんの事情ってどうなってるの?」
「古い蔵から封印の箱が出てきたとか……どこの誰か知りませんが雑な事後処理をしたものですね」
「誰がやったかなんて知るか」
「箱を調べれば時代ぐらいは調べられるでしょう? やったのですか?」
「は? そんなのアタシが興味を持つと思うか?」
僕の問いに堂城さんが乗っかって、そしてシキとなにやらやり合っている。
言外のやりとりみたいなの?
部外者の僕にはわからないなぁ。
「ねぇ、よくわからない言い争いはいいから、なにがどうなってるのか教えてよ」
こっちはなんか、ちょっとした善意で人助けをしたらヤンキーっぽい人に霊能者だと思われて懐かれてしまってるんだから。
あの人にとって、たぶん怪談話に出てくるできる霊能者みたいな立ち位置になってるんだから。
さすがに寺生まれの●さんほどじゃないと思うけどさ。
「とりあえず、俺としてはマッハさんが自由になればそれでいいよ。別に、マッハさんは悪くないんでしょ?」
話を聞く限り、蔵の中にあった誰も詳細がわからない箱を開けただけ。
怪談好きからすればフラグ満載の自爆技にしか見えないけど、そうじゃないなら開けるのも仕方なしではあるよね。
「……まぁ、そうだな。あいつは悪くない……かもな」
なんか渋々っていう感じでシキが認めた。
「……箱の中に入っていたのは夜行さんだ」
「やぎょうさん?」
なんでさん付け?
いや、待って。
なんか聞いたことがある。
「あ、ゲゲゲの人のか」
そうだ。
ゲゲゲの人のアニメで見たことがあるな。
「首なし馬に乗る百鬼夜行の先導者です」
堂城さんがそう言った。
「夜行さんがいるところに百鬼夜行は集う。その夜行さんがマッハという人物に憑依しているのであれば、彼の周りで怪奇が起こるのは当然のことです」
「そもそも百鬼夜行ってなに?」
「単純に説明すれば、そこらにいる魑魅魍魎がきっかけを得て集団で大暴走する迷惑行為よ」
「ざっくりしてるなぁ」
「詳しく説明しても、どうせ理解できないでしょう? こんなものは核心の部分を理解していればそれでいいのです」
堂城さんは言い切った。
でも、それはそうかもしれない。
しれないけど、後でまた真白にも聞いてみよう。
「で、その百鬼夜行が起きたらどうなるの?」
「大変なことになる……と言いたいけれど、どの程度のことになるかは実際に起きてみないかわからないわ」
「そうなの?」
「こんなのは自然災害と同じよ。台風だってすごいすごいと言われていても、過ぎてみたらそこまででもなかったということはあるでしょう?」
「ううん、まぁ……でも、備えていたからってこともあるんじゃない?」
「そう。そして今回に関しては未然に防ぐ方法があるのだから、それを行うことが防災行為に繋がるということでしょう?」
「ふっざけんなよ」
防災の方向で堂城さんが話していたというのに、シキがそれに待ったをかけた。
とても不満そうな顔で。
「アタシは、百鬼夜行を止めないぜ」
「……なに言ってるの?」
あ、なんかやばい。
「おいおい、百鬼夜行なんて何年ぶりだ? そんなレアな祭りが起こるかもしれないのに、楽しまないで止めようとするなんてバカのやることだろ?」
あ〜あ。
懲りてない。
懲りてないよ、こいつ。
姉の遺体を使って化け物を作った時からなにも懲りてないよ。
「私の……我が家の縄張りで」
「おっ!」
堂城さんの表情が氷点下の怒りに満ちた。
見た目には目がちょっと座ったかもぐらいかな?
危険を察知した俺はそそくさと二人から距離をとった。
そして……何気に一緒にいた厳里や柚木やwith男子とか、断鬼の蛇たちに体を奪われて堂城さんの取り巻きになっている人たちも逃げた。
「そんな好き勝手を許すとでも?」
「はっ!」
シキが嬉しそうに立ちあがろうとしたけど、もう遅い。
「うおっ!」
なにかに邪魔されたシキが体をつんのめさせる。
堂城さんの冷気がシキのスカートを凍らせて、畳にひっ付かせていたのだ。
氷は簡単に壊れたけれど、その時の抵抗で立ち上がるのに失敗した。
床に手を突いたシキの頭に、堂城さんの手が置かれる。
「あなた如きを殺すことに、私が躊躇するとでも?」
「……アタシらと喧嘩しようっていうのか?」
「加茂家には『お宅のバカが同じバカをしようとしたので殺しました』と報告するだけです。再教育もできていない者を送りつけた向こうの非を、逆にこちらが問いただすだけですが?」
「この……蛇女〜〜」
「頭が足りないようですね。やはり氷付けにして東京に返送した方がいいのかも……」
「あの〜〜」
堂城さんが本気で手に力を込めたのがわかったので、僕は咄嗟に口を出してしまった。
「なんですか? 尾羽くん」
じろっと睨まれた。
うわ〜怖い。
「とりあえず、起こす必要のない殺人事件を起こすのはやめよ?」
「では、他になにか解決方法が?」
「ううん……」
僕はシキを見る。
シキも、頭を抑えられたまま僕を見た。
「妥協案を探そう」
まずはそう言った。
「その話し合いに応じてくれたら、三日間、弁当はタダにしてあげよう」
まだ値段交渉もしてなかったけど、これぐらいはいいかな。
「で、実際に妥協案でお互い納得できたら、文化祭まで弁当をタダにする」
咄嗟に出てきた文化祭。
なんかキリがいい時期ってなんかあったかなって考えたら、すぐに浮かんだのがこれだったんだから仕方がない。
「これでどうかな?」
「ふん、いくら美味くたって、アタシが弁当如きで……」
「あ、真白が言うには、僕の弁当に使っているとある食材は霊力を増進する効果があるそうだよ」
「っ⁉︎」
「その食材を手に入れられるのは、たぶん僕一人だけなんだけど……」
「わかった。受ける」
即決だった。
決断力はすごいな。
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