間接キス未遂と妖怪弁当ゆすり
今日も下駄箱に藁人形が入っていたよ。
五寸釘じゃなくて、細い釘でハリネズミみたいにされてる。
なんかこんなの、ホラー映画に登場してなかったかな?
そんな有名キャラクターがいたようなと首を傾げつつ、職員室前の忘れ物ボックスにシュートしておく。
マッハさんに送ってもらって、今日はいつもより遅くなってしまった。
始業時間がかなり近い。
やばいやばいと急いでいると、ぐいっと制服を引っ張られた。
「おい」
シキだった。
「あれはどういうことだ」
廊下の端に引き寄せられ、問い詰められる。
「なにが?」
「なんで、あのポンコツがお前を送ってきたんだよ?」
「昨日のお礼みたいだよ。怪我も治してあげたし」
「ちっ」
「後、シキに保護されてる理由も教えてくれた」
「余計なことを、おい、関わんなよ」
「そう言うだろうと思った」
「それなら……」
睨んでくるシキの目は怖いけど、怖くない。
不思議な感じ。
僕自身に戦闘能力が付いたからかな?
それとも、シキのことを少しは理解したからかな?
自分のおもちゃを取られまいとする幼児のように見えてしまっているんだよな。
「お願いされたから調査的なことはするけど、本体? 最後のバトル? みたいなのはちゃんとシキに譲るから」
「本当だろうな?」
「僕らに迷惑がかからない限りにおいて、本当」
あっちから襲ってきたら知らないよ。
「ちっ」
それで納得したのか、シキが手を離した。
「調べなくていい」
「え?」
「あいつの調査だよ。なにが憑いているかなんてわかってるんだよ」
「そうなの?」
「ああ」
と、シキが頷いたところで視線が動いた。
そこにはこちらに向かってくるモーちゃん先生がいた。
「こらー教室に入りなさい」
通りがかりにモーちゃん先生に言われて、僕らも教室に移動する。
「昼休憩な」
そう言ってシキは席に着いた。
その呟きは隣の堂城さんにも聞こえていたわけで。
昼休憩は元茶道部の部室にして現堂城さんのランチタイム空間に集合させられた。
もちろん、シキもいる。
「真白から昨夜のことは聞きました。それで尾羽くん、追加情報があるのですか?」
授業の合間に真白と連絡してたのか。
真白も無理に隠したりしないよな。
隠すようなことでもないし。
「そちらの赤葉羽の者が、うちの真白のお楽しみタイムを奪ったのだとか?」
「堂城さん?」
そして真白?
一体どういう情報を伝えたのかな?
「は? なんだ? お前らアタシから獲物を奪うっていうのか?」
「外部の者が偉そうに、ここが誰の縄張りか……」
「はいは〜い。やめやめー!」
猫騙しの気分で二人の間で手を叩き、無意味な争いを止める。
「情報の整理です。そのためにここにいまーす。戦争反対」
「……そうですね」
他の人にはわからないぐらいの微々たる表情の変化で『スン』を表現し、堂城さんは正座を直した。
ちなみに、シキは胡座だ。
目のやり場に困るからスカートでするでないよまったく。
「真白に報告しておきます」
「やめてください。いやほんとに!」
視線の動き一つまで報告されたらたまらないよ。
「いいから早くしろよ」
そう言いながら、シキは売店の焼きそばパンの袋を開け、食べ始める。
「そうね。食事をしながら、報告を聞きましょう」
堂城さんも自分の弁当を開き始めた。
説明するのは僕だよね?
食べながらできるかな?
とりあえず、昨夜のことを話した。
「なにかに憑依された青年と、それを攫う悪角。連中は百鬼夜行と言ったと」
「そう」
説明が終わり、僕はようやく自分の弁当に箸を付けられる。
中身は牛カツ弁当だ。
この間の、姉がまた魔物を増やしたから、ちょっと消費量多めにしたくて贅沢にファイアブルの肉で牛カツを作った。
それをご飯の上に乗っけるという非常に雑な弁当。
彩として卵焼きとブロッコリーが横にあるだけ。
ちょっと甘めなステーキソースをかけておいたんだけど、冷めても美味しいな。
シキの方を見ると、二個目の菓子パンの袋を開けながらじっと僕を見ている。
「あげないよ?」
「いらねぇよ!」
そんなことを言いながら、それでも弁当を見ている。
「じゃあ、一切れだけな」
「……」
ああ、いらないって言わなかった。
箸で牛カツを一切れ摘んでシキの方に持っていく。
シキはそれをパクッと食べた。
「美味っ!」
「箸に口を付けるなよ」
牛カツの美味さに感動しているけど、それよりも箸に口が当たったことが不満な僕。
ティッシュを出して箸を拭く。
「よかったわ尾羽くん」
「え?」
「そのまま使っていたら、浮気の現行犯逮捕をするところだったわ」
「どういう逮捕理由?」
「間接キスね」
堂城さんはとても真面目な顔で言い切った。
「もっとくれ!」
そして一口食べたらシキから遠慮が消えてなくなった。
それだけ美味しいのは知ってるけどね。
「これやるから!」
そう言って開けかけた菓子パンを押し付けてくる。
中身はメロンパン。
「いらないけど!」
全部取る気かこいつ。
「むう……それなら、明日からアタシのも作れ!」
「なんで⁉︎」
「ちゃんと金は払う」
「あら、それなら私もお願いしようかしら」
「堂城さん?」
「この間のお土産のお肉も美味しかったし。あの人の獲ってきた素材なんでしょう?」
シキは飢えた野獣の目で。
堂城さんは蛇のような冷たい眼光で、僕の弁当を狙ってくる。
「……わかったよ」
別のことを話すんじゃなかったかなぁ?
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