舎弟
「兄貴! おはようございます!」
朝、部屋を出ると運転手ヤンキーが待っていた。
「いや、兄貴って……」
「兄貴は俺の命を救ってくれました! ぜひ、恩返しさせてください!」
明らかに運転手ヤンキーの方が年上なのに。
なに言ってんだこの人?
「とりあえず、学校までお送りしますので、どうぞ!」
後部座席を開けてニッコニコでやられて、僕は入ることにした。
周りの目があったからね。
こんなところで揉めたくなかったし。
「シキの送迎をしてるんじゃないんですか?」
「シキさんは必要な時しか連絡が来ませんので」
すっごくハキハキと答えてくる。
なんかヤクザの兄貴と舎弟みたいな関係になってない?
「ええと、僕にこんなことしてて、シキに怒られません? 昨日はなにか、秘密があるみたいなことを言ってましたし」
僕に付き纏っていたらシキに怒られるんじゃない? っていうことを遠回しに言ってみたのだけど、運転手ヤンキーには通じなかった。
「大丈夫っす! それに兄貴は赤葉羽の人間が認めるような人なんですよね? それなら問題ありません。むしろ知っておいて欲しいぐらいです」
いいのかそれ?
あっさり秘密をばらしそうだけど?
「実は俺、百鬼夜行の贄に選ばれてしまっていて」
「……は?」
百鬼夜行の贄?
運転手ヤンキーは駅を通り越して国道を走っていく。
あれ? これってもしかして学校まで直行コース?
間に合うのか?
別の方向にドキドキし始めているのに、運転手ヤンキーは構わず自分の事情を語り出した。
聞いていないのに!
運転手ヤンキーの家は広い畑を持つ農家で、古い蔵をいくつも所有していた。
その蔵の一つを片付けるというので人手として駆り出されていた彼は、そこで漆塗りと思われる高そうな木箱を見つけた。
隙間はお札らしき紙が直に糊付けされ、その上から太い縄でしっかりと縛られており、箱そのものの高級感に対して扱いがひどく乱暴で……見つけた運転手ヤンキーと同年代の親戚は興味を持った。
つまり、こっそり開けてしまったということだ。
持ち運んでいた時は中にぎっしりとなにかが入っているような重量感があったというのに、開けてみるとなにもない。
そのことにがっかりしていたその日の夜から異変は始まった。
窓に奇妙なモノが張り付いている。
それはガリガリに痩せた老人であったり……。
あるいは人の顔を貼り付けた蜘蛛であったり……。
目のように動く模様をした芋虫であったり……。
そしてその異変は、他の家族には見えていなかった。
運転手ヤンキーが布団に潜り込んで震えながら見ないふりをしている間に、親戚の方が動いた。
キレて外に飛び出し……そして帰ってこなくなった。
いよいよ我慢の限界が訪れた運転手ヤンキーが家族に泣き付いたが、両親も祖父母もそんな箱のことは知らない。
困り果てた末に近所の寺に相談し、そして話が流れに流れ、赤葉羽シキがやってきた。
家に群れていた怪しげなものはあっさりと払われたが、それだけでは終わらなかった。
「お前の中に百鬼夜行を呼び寄せるナニカが入った。それを抜き取るまでは同じことが繰り返されるぞ」
そう言われ、いまは抜き取る方法を探る間、シキと行動を共にすることでいざという時に対処してもらう、という関係になっているのだそうだ。
「じゃあ昨夜の悪角に攫われたのは?」
「まったくわかんないっす。隠してるって言われてわけがわからなかったんすから」
「ふうん」
蔵の中にあるものを開けるっていう余計なことをしたこと以外は、完全に被害者か。
家族の誰も知らないっていうんだし。
「大変なんですね」
「っす」
僕の言葉に運転手ヤンキーは短く答える。
「……正直、兄貴みたいなすごい人に助けてもらいたいんです。あのシキさんは……なに考えてるかわかんないところもあるっすから」
「あはははは……」
まぁ、真摯に対応してくれるタイプではないよね。
でも……それは僕だって同じだと思うんだけど……。
う〜ん。
「ええと……そういえば、お兄さんのお名前は?」
僕がそう尋ねると、運転手ヤンキーは嬉しそうに名乗った。
二十田速人だって。
土地持ちそうな苗字にご両親も走り屋っぽいお名前で。
「マッハって呼んでください!」
まぁでも、人生楽しそうでいいよね。
「一応言っておきますけど、僕自身に霊視みたいなすごい調査能力があるとかじゃないです。ただ、伝手があるので聞いてみるぐらいはできます。後はまぁ、あんな感じのこともできます」
あんな感じっていうのは、昨夜の夜でのことを指している。
変身を見られているからね。
「はいっす!」
「それと、昨夜は偶然に目撃しましたけど、僕にはマッハさんの危機を感知する能力もないんで」
ダウジングアイで、いなくなった後で探すことはできるかもしれない。
だけど、危機になったのを感知して駆けつけるってことはできない。
それをしたのはシキだ。
「僕がいるからってシキはもう断るとかはやめてください。最悪、マッハさんが死にます」
後、依頼を横取りしたとかで襲いかかってきそうでもある。
「うっす。わかりました」
ちょっと神妙な感じでマッハは頷いた。
これはもしかして、シキを断るつもりだったか?
危ないなぁ。
ああそうだ。
学校に着いたらシキにこのことを説明しとかないと。
無駄な厄介ごとを背負い込んでしまったかもと思いつつ、僕は後部座席に体を預けた。
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