暴れん坊シキ
出番を取られた。
六角の鉄棒を振り回す赤葉羽シキの前に、お相撲さん体型の悪角たちは軽々と吹っ飛ばされていく。
いや、うん……いいんだよ。
僕は暴力的な人間ではないからね。
ないからね!
だから、シキが横から掻っ攫う形で現れたって怒ったりはしないさ。
しないよ!
だけどね……モヤッとはするよね。
だから……シキに後ろから突っ込んでいった悪角にサンドスライムを使った技、スネークウィップで首を捉えて引っ張るぐらいはやる。
「グエ」
息が詰まって上げたその声で、シキは後ろを取られたことに気付く。
そいつを六角棒で吹っ飛ばした後で、僕のことをすごく不満そうに睨むのはどういうことなんだろうか?
「なんでしょう、あの態度」
「まぁまぁ」
真白がぷんぷんと怒っている。
宥めつつも、すっかりやる気を失った僕は、ボロボロになった運転手ヤンキーを守る位置で戦いを見守ることにした。
決着はすぐに付きそうだったんだけど、そのせいか手下に戦いを任せていた親分っぽいのが逃げようとした。
再びスネークウィップで拘束する。
今度は両足をまとめて絡め取り、すっ転ばせる。
「まさか逃げられるとでも?」
「断鬼の〜……」
足を縛られていながら親分悪角はバタバタともがきながらこっちに罵倒を飛ばしてくる。
「この! 蛇野郎! なんのつもりだ!」
「なんのつもりって……そっちの企みを教えてくれたら、教えてもいいかな?」
知り合いが攫われていたから助けに来ただけなんていう偶然イベントを、もったいぶって隠してみる。
「ふざけるな!」
と言い返したところで親分悪角の頭に六角棒が落ちた。
六角棒は打撃とともに呪符を撒き散らし、それが親分悪角に張り付いて動きを縛ったようだ。
僕を動けなくした時と同じ感じかな?
よく見れば、他の悪角たちも同じような状態になっている。
「ふん」
満足そうな、もう終わったことがつまらないような、微妙な息を溢したシキが六角棒を収める。
「グオオオオ……」
するとあちこちに転がっていた悪角たちが一斉に声を漏らした。
悪角たちの全身に張り付いた呪符がギシギシと奇妙な音を上げていると気付き、そしてある瞬間で一気に変化した。
いきなり悪角たちが丸まり、伸ばされ、一枚の呪符に収まってしまった。
ギュッという擬音が聞こえそうぐらい、あっという間の出来事だった。
「なにあれ?」
「封印されたんです」
「封印?」
そんなことができるのか。
さすが退魔師。
「おい」
感心していると、シキが俺に六角棒の先を向けてくる。
そうしていると、シキはやっぱり鉄釘バットを持ったヤンキーに見える。
「なんでお前がここにいる?」
「え? それは……」
「もしかして、そいつが目当てか?」
「目当てって……」
「お前もそいつが欲しいって言うんなら……ここで殺るぞ」
ちょっと嬉しそうなのやめてくれないかな。
「……ただ人助けをしただけだよ」
僕は面倒なと思いつつ、ここに来た流れを説明した。
「人助けね。はんっ!」
納得したのかどうかわからないが、シキはつまらなそうに六角棒を消した。
「そいつに助けてやる価値なんてあるのかね?」
「よくわからないけど、知らないことで他人をどうこう判断する気はないけど?」
「つまり、知ったらどうなるかわからないってことか?」
「そりゃね。家族を殺した犯人だと言われて仲良くする気はないよ」
まぁ、両親を殺した犯人ですと言われたら、感謝状を送るかもしれないけど。
「ちっ」
シキが舌打ち。
言い合いがめんどくさくなったな。
「お前、帰りの足は?」
「……そういえば、ないね」
アクション映画みたいなことして来たから帰りの手段がないな。
タクシーを呼ぶか?
それとも堂城さんのところに迎えを頼むか?
悩むところだな。
「おい」
「は、はい」
僕が考えていると、今度は運転手ヤンキーに話しかけた。
「お前、助けてもらったんだ。こいつを家まで送ってやれ」
「うっす」
「アタシは帰る」
それだけ言うと、バイクを店の外に出して一人で帰ってしまった。
そして僕たちはボコボコにされた状態の運転手ヤンキーに悪角たちのワゴン車を運転してもらって団地まで連れて帰ってもらった。
怪我がひどいので途中で気絶するんじゃないかヒヤヒヤしたけど、なんとか無事に戻ることができた。
「ちょっとそこで待っててください」
本当に怪我がひどいので、さすがにこのままにしておくわけにもいかない。
僕は部屋に戻ると、アイテムボックスから姉の了承を得てポーションを一つ持ち出し、運転手ヤンキーに渡した。
「あの、これは?」
「傷薬です。いま、飲んでください」
喋るのもキツそうな感じの運転手ヤンキーに勧める。
運転手ヤンキーは疑わしそうな顔をしていたけれど、それでも飲んだ。
その変化には僕も驚いた。
映画やアニメでしか見たことがないようなボコボコ状態の運転手ヤンキーの顔が、見る間に元に戻ったのだ。
「うわ、すご」
思わず言ってしまった。
車のミラーで自分の状態を見て驚いている運転手ヤンキーに説明するのが面倒だったので、空き瓶を回収するとすぐにお休みを言って別れたのだった。
あ、ルーズリーフを買いに行くんだった。
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