真白はお怒り
犬のお墓参りを済ませて外に出ると、家の前に車が停まっていた。
どうやらシキの世話をしている人だったようで、その人の運転で駅まで乗せてもらえた。
駅まで歩くのは億劫だなって思っていたから助かったけど……。
車種まで知らないけどやんちゃしてる人たちが好きそうな車で、運転手をしている人が、これまた収入の大半を車にかけていそうなタイプのヤンキーだった。
そしてそれに乗り込むシキの堂々としたことと言ったら……似合いすぎて笑いが出る。
ただ一点、不思議なのがそんな運転手の人が僕にまでなんかヘコヘコしていたことだ。
なぜだろう、逆に怖い。
シキと同類だと思われていたのだろうか?
納得いかないなぁ。
電車の中でそんなことを考えつつ、真白に帰りが遅れることと、遅れた理由をメッセージで告げておいた。
それなのに、帰るとなぜか仁王立ちの真白に出迎えられたという……。
なぜ?
「他の女と一緒にいるなんて、浮気です!」
ああ。
怒りの原因はそっち?
「いや、シキだよ?」
あの戦闘狂の赤葉羽シキだよ?
ないよ。
「旦那様がそうでも。あっちの女が旦那様の強さに惚れたとか言って押し倒してきたらどうするんですか⁉︎」
どうやら僕は襲われる側だったらしい。
「そうだとしても、押し倒されたりしないよ」
その前に逃げるって。
「別に押し倒されることはいいんです!」
あ、いいんだ。
「できれば夫の貞操について、もっと真面目に考えて欲しいんだけど?」
「考えています! なので、旦那様の初めての相手は真白でなければならないのです!」
重要なのはそこだったかぁ。
「まぁ、それはもっと先の話ということで」
「もっともっと近い未来の話にしましょう。具体的には今夜これから!」
「まぁまぁまぁまぁ」
大興奮の真白を落ち着かせつつ、鞄を置くとまずはアイテムボックスの中に入った。
事故物件に入ったんだし、またエクトプラズムとかが残っているかもしれないしって思ったんだけど。
おや、ないな。
まぁいいか。
もう一つ姉に聞きたいこともあるから、今度はそっちの質問をって……。
なんか、でかいのがいる。
骨?
ちょっと狭めの一軒家ぐらいの頭骨と、それに比例した骨があるんだけど。
形的に四つ足の獣かな?
「姉ちゃんこれなに?」
「すっごいでしょ!」
即答されたけど、それは答えじゃないんだな。
「前に言ったでしょ? 魔物が攻めてきたって」
「ああ、うん」
「今度はそのでかいのを差し向けてきたのよ。だから倒してゲットしてやったの」
「それはすごいけど……で、これはなに?」
「ボーンゴーレムなんだけど、使われてるのが古狼族の骨っぽいんだよね」
「フェンリル」
さすがファンタジー。
トリックスターの子供の名前が種族化してしまった。
「お姉ちゃんだってまだ生きたフェンリルは見てないのよね。こいつをボーンゴーレムにした奴にはどこで見つけたのかなんとしてでも聞き出さないと」
「見つけてどうするのさ」
「? でっかいワンコを飼いたいっていうロマンがお姉ちゃんにはあるの」
「デカすぎるだろ」
なんでわかんないの? みたいな感じで言うんじゃない。
こんなでかいのが犬動画で見るようなわんぱくだったりしたら、散歩するだけで街が滅びたりしそうだよ。
「お姉ちゃん、人相手だと長く一緒にいるとストレスだけど、犬なら大丈夫な気がするのよね」
その夢想にはあえてツッコムまい。
なんか悲しくなりそうだから。
とりあえず、この骨は素材エリアに移動させるとして……。
「姉ちゃんに聞きたいことがあったんだよ」
「お、なにかな? なにかな?」
「この間の黒いネバネバ、僕の体にくっついていない?」
事故物件で飼い犬の怨霊? と戦っている時、咄嗟に伸ばした手から黒いなにかが出てきた。
怨霊を倒した時には姿を消していたんだけど、あれって前に姉ちゃんが見つけた黒いネバネバだった気がするんだよね。
もしかして、僕の体に引っ付いて外に出たんじゃないかって、ちょっとドキドキしてるんだけど?
「うん? んん〜〜おおっ!」
しばらく唸っていた姉がなにかに気付いたらしく声を上げた。
「いるね。アキヤに引っ付いているよ」
「うげ。取ってよ」
どこにあるんだよそんなの。
自分の体をあちこち触ってみるけど、どこにも見当たらない。
「たぶん、寄生されてるね。あっはっは」
「笑い事じゃないでしょ」
「いや、大丈夫じゃないかな」
「なんで?」
「ん? もう研究は終わっててね。これゴーレムなのよ」
「は? ゴーレム?」
「そう。ええと、魔法で作られたロボットみたいなものよね。知ってるでしょ」
「いや、知ってるけど」
こっちのファンタジー知識とそっちの知識が完全一致するとは限らないだろうに。
「で、あの砂鉄っぽいネバネバはゴーレムだったのよ。寄生して魔物を従わせたりするのが役目だったみたいね」
「じゃあダメじゃん!」
え? 支配されたの、僕?
「大丈夫。もうマスター情報を書き換えたから。アキヤの中に入ったのはアキヤがマスターってことになってる」
「それなら、外に出せば……」
「寄生させてないと、そのうちエネルギー切れで動かなくなるよ?」
「いや、動かなくていいでしょ」
「役に立ったでしょ?」
「え?」
「姿を見せたってことは、アキヤを守るために姿を見せたってことでしょ? そいつは」
「あ……」
怨霊を止めようと手を伸ばした時に出てきたんだった。
あのまま怨霊を直接触っていたらどうなっていたのか?
黒いネバネバはそうならないように僕を守った?
「とりあえずサンドスライムって名前にしたから。個体名はアキヤが考えてあげなね」
「ああ、うん」
「じゃあお姉ちゃんは、あのフェンリルがどこの土地で育ったか調べてみるから」
「わかった。ちゃんとご飯は食べなよ」
「はいは〜い」
姉は巨大ワンコを飼うことを夢想して鼻歌など口ずさんでいる。
さて……僕は……。
サンドスライムがとりあえず危険ではないことがわかったし……。
「まずは真白の機嫌を取ることを考えないといけないか」
夕食はちょっと頑張らないと。
なにを作ろうかとアイテムボックスの中の食材を眺めた。
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