呪術合戦
次の日の学校は殺気に満ちていた。
下駄箱には五寸釘や画鋲で武装した藁人形が突っ込まれていた。
盗難防止に上履きを持って帰っておいてよかった。
靴、どうしようかな?
下駄箱に入れておくべきか?
真白が対策してくれているし、信じて下駄箱に入れておくか。
あちこちから野次馬やら犯人候補の視線が刺さる。
藁人形はどうしようかな?
職員室の前にある落とし物コーナーにでも放り込んでおこう。
教室に行くと机とイスにも画鋲罠がセットされていた。
どちらも全面にびっしり。
セロテープで固定する徹底っぷりだ。
なんか、これはこれでそういうファッションみたいでカッコ良くもあるかもしれない。
世紀末トゲトゲファッション?
まぁ、このままだと使用不可だから剥がすけどさ。
あ、セロテープだから、剥がすと一緒に取れるからこれはこれで楽かな?
「あら」
椅子のセロテープを剥がしていると堂城さんがやってきた。
「やられているわね、尾羽くん」
「ははは」
淡々と言われてしまって、僕としては乾いた笑いを返すしかできない。
「ごめんなさいね、私が《《美しい》》ばかりに」
「真正面から自分のことをそう言える堂城さんはすごいよね」
「あら、真白も可愛いでしょう」
「それはそう」
「真白を産んだ私が美しいのは当然なのよ」
まだ朝で、近くにクラスメートがいないからって、堂城さんがぶっちゃけすぎる。
これはそのうち、秘密管理が杜撰になるフラグかな?
「でも、これだと学校生活が不便ね」
「まぁ、そのうち落ち着くんじゃないかな?」
「……そういえば、もうすぐ文化祭ね」
どうして話題がいきなり飛んだのかな?
「まぁ、六月にあるね」
そろそろなにをやるかとかをホームルームで決めるんじゃないかな。
「そうよね」
……なにを考えているのかな?
いや、僕も昨日考えたからさ、なんとなくわかるけども。
「真白を連れてきましょう」
「ほら、やっぱり言った」
「それが一番、誤解を解く早道では?」
「別の誤解が発生しそうで嫌かな」
真白を連れて来たくないわけじゃないんだけどね。
だって絶対にロリ疑惑が発生するし。
それっていまより酷くない?
「ああ、そういえば尾羽くんは真白が子供に見えるのでしたね」
「思い出してくれたようでなにより」
「それなら、他の人には違うように見えるはずだから大丈夫よ」
「違うって、どんな風に?」
「そうね……中学生ぐらいには見えるのではないかしら」
堂城さんが小首を傾げながら答える。
中学生。
この間、僕が見た真白ぐらいか。
高校生と中学生。
まぁ……おかしくないか。
「私の可愛い真白を招待するのであれば、文化祭の出し物にも気合が出るというものよね」
「う〜む」
なんかもう確定の流れになっているような。
そっか。
周りには中学生ぐらいに見えるのか。
だとしたら、なんで僕だけその見え方で安定しないんだろ?
謎だな。
「お〜う」
イスの画鋲を取り終えて机に取り掛かっているとシキがやって来た。
その頃には他にもクラスメートがいて、堂城さんもいつもの静かな堂城さんに戻っていた。
「なにしてんだ?」
「なにしてるように見える?」
シキはじぃっと僕と机と、イスの上で丸まった撤去済みセロテープ付き画鋲の塊を見る。
「もしかして……イジメか?」
「ううん……当たらずとも遠からず」
「……誰だよ?」
「え?」
「誰がこんなことした?」
「いや、ちょっと?」
「嫌いなんだよ」
「うん?」
「アタシは、こういう陰険なことをする奴が大嫌いなんだよ!」
突然の大爆発に教室が静かになった。
「陰でこそこそするようなクソは誰だ!」
それから教室にいる連中を睨みつけるが、みんな「違うし」と小声で言うだけだ。
僕としてはこの中に犯人がいるのかどうかはあまり気にしていない。
原因はシキが迂闊なことを言ったからなんだけど……それはシキがこの学校での堂城さんの人気を知らないからだし。
それに関しての「余計なことを」っていう感情は、シキの大爆発で吹っ飛ばされてしまった。
「赤葉羽さんの言うとおりね」
と、堂城さんまで口を開く。
「こんな陰険なことをしておいてそれで好かれるとでも思っているのなら、人生からやり直した方がいいのではないのかしら」
なんでそんな便乗毒吐き?
堂城さんからの思わぬ口撃でさらに教室が凍り付く。
「はい、みんな席に〜〜って、尾羽くんなにその机!」
モーちゃん先生が到着して、画鋲ファッションな机を見られてしまった。
おかげで放課後ホームルームでは全クラスでいじめ問題の道徳ビデオを見せられることになった。
朝の下駄箱。
尾羽亮哉が藁人形を手に持って去っていくのを見届けた一人が、下駄箱に残された学校指定の革靴を掴んだ。
「なんであいつが」
堂城香澄と付き合っているのでは? という噂は前からあった。
他者を寄せ付けない孤高の華であった彼女が、なぜか尾羽だけは近くにいることを許し、昼食を一緒にしたり、帰りの車に乗せたりしている場面が何度も目撃されているからだ。
さらに、転校生、赤葉羽シキが堂城を「尾羽の嫁」と呼んだ。
許せるわけが……ないよな〜?
そんな呪いの気持ちを尾羽亮哉に叩き込まなければ……。
「え?」
そう思っていたら靴を掴んだ手に違和感が……。
「痛っ!」
そして突然の痛みで革靴を手放した。
「なにが……」
と思って見てみると革靴の中になにかがいる。
恐々と近付いてそれを見て、凍り付いた。
それは蛇だった。
茶色くて、独特な模様のある胴体。
三角の頭。
蛇に詳しいわけではなかったが、その二つの情報だけで男の頭に「マムシ」という単語が浮かんだ。
痛みの走った指を見れば、真っ赤に腫れ上がっている。
「マムシ! マムシに噛まれたぁ!」
そう叫んだ男は泡を拭いて、その場に倒れた。
その日、似たようなことを口走って玄関で倒れる生徒が複数人おり、実際に救急車を呼ぶ事態になったのだが、診断では誰も蛇に噛まれてはいなかったという。
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