真白はやる気
下駄箱に置いていた靴に画鋲が仕込まれていた。
じゃらじゃらに。
これを気付かないで履く奴はさすがにアレだろうってぐらいに。
悪意なのか冗談なのかわからない。
あるいは……これが一人一個ずつ入れていった結果なのだとしたら怖いんだけど。
「堂城さんの人気ってすごいな〜」
と、いまさらながらに思う。
しかし、この調子だとそのうち悪戯が激化して行くことになるかもしれないな。
勘違いで恨まれるのは嫌だけど、訂正が難しいならそれ以外で防衛準備をしなければ。
……とか考えている間にもなんかわざとらしくぶつかって来る奴がいるし。
外に出たところで部活でランニング中の集団が轢き殺しに来たし。
「「「「「チッ!」」」」」
咄嗟に避けたら全員から舌打ちされたんだけど?
「怖い怖い」
それ以外にもなんか敵意のある視線が刺さってくるから、怖いのでさっさと学校から退散した。
家に帰って話題の一つとしてこの話をした。
真白は目を点にしたかと思うと、次に唇をキュッと噛んで虚無の表情になり、そしてその場で正座して頭を下げてきた。
土下座である。
「うちの愚母がご迷惑を」
「やめようか」
真白が謝ることじゃないし。
「でも……」
ううん、涙目。
「まぁ、赤葉羽シキと会ったときの僕と真白がそれぐらい仲良しに見えたってことだし」
真白と堂城さんを見分けられないシキが悪いってことで。
いや実際、あそこで余計なことを言ったシキが悪いんだけどさ。
「でも、今日からこの感じだと、さすがに誤解を解かないと色々と大変なことになりそうだから……」
対策を考えないといけないんだけど。
「そういうことならお任せください!」
と真白が胸をドンと叩いた。
「旦那様の持ち物には全て印を付け、イタズラや盗難をするような愚か者には罰が下るようにしますので」
「ううん。うちの妻は強いなぁ」
止めようかなぁと思ったけどやめた。
真白がやる気になっているし、実際にそんなことをするような奴がいたらそいつらの方が悪いんだし。
自動でやり返しができるならその方が楽だし?
いや、もう一つ、解決法はあるんだよな。
勘違いを解消するには実際に見せるのが一番。
一番……なんだけど……。
別の風評が付きそう。
それはそれで怖いしな。
どうしたもんか。
まぁいまはとりあえず、やる気になっている真白を見守りつつ……夕ごの支度をしようか。
そう考えてアイテムボックスに入る。
また……なにか山ができている。
「姉ちゃん、またこんなに乱獲して」
「お姉ちゃんはそんなに悪くないよ!」
魔物の山を前にして呟くと、姉の反論が降ってきた。
「《《そんなに?》》」
「魔物の暴走っていうか侵攻が起きて、その余波でうちの近くの街が襲われたから防衛戦を手伝ったの。これはその戦果」
「じゃあ、悪くないかな」
それにしてもいろんなものがいるな。
ビッグボアにファイアブル、オークもいるな。
けっこう頑張って減らしたんだけどなぁ。
そうか、また増えるのか、お前たち。
ええと他には……これはオーガ?
ゴテゴテに武装してるけど?
「そのオーガはこっちにまで魔物を誘導してきた奴の仲間みたいね。主犯の方は街に引き渡したから、それは問題なし」
「え? これも食べられるの?」
「オーガは美味しくないね。でも、皮と角と骨は防具とか装飾品に、筋肉はナマモノ関係の魔法生物制作に使えるから置いといて、残りはゴミ箱へシューッ」
「へいへい」
と、処理方法を頭に叩き込む。
「ちょっと疑問があるんだけどさ」
「なに?」
「そっちの世界って、農業とか牧畜とかどうなってるの?」
「農業はあるよ。でも家畜を増やすって考えはあんまりないみたいだね。だって狩り放題に食べられる魔物がいるんだから。乳目当てぐらいかな、増やしてるのって。肉はついで」
「なるほどね」
う〜ん、狩猟民族。
でも、そんなに魔物がいるなら、放牧とかも難しいだろうし、そんなもんなのかもしれないな。
人型に近い魔物も普通に食べちゃうし、小説で読むならともかく解体する立場になるとなかなかにエグいものがあるけど、これもまた生活の一部ってことか。
深いな〜。
そんなことを考えながら魔物を順次解体していく。
「ん?」
なんだこれ?
魔物の山の中に、なんか見たことないものがいた。
黒くてネバネバしていて、でもなんか砂鉄みたいな肌触り?
「姉ちゃん、これなに?」
知識が反映されてないってことは、なんか新しいものだよなと思って質問。
「それねぇ、謎」
「謎?」
「そう、いくつかの魔物に混ざってたんだよね。研究するために捕獲したから、なんかで隔離しといて」
「わかった」
じゃあまぁ、いつものなぜか出現する謎ビンにでも分割して入れておくか。
「魔物を率いているのが不死王だって噂もあるから、もしかしたらそれの作品かもね」
「不死王?」
「そう。ノーでライフなキングだったり、オーバーなロードだったり、お金持ちみたいな発音だけど綴りが違う奴とかの意味での不死王」
「婉曲な」
「面白そうだから調べてみるんだ。もしかしたら変わったものが作れるかもしれないし」
「ふうん。って、魔物に混ざってたんなら、ここにあるのは大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だよ。寄生されてたのは、全部倒したときにボロボロに崩れちゃったから」
「怖っ!」
「ねぇ、怖いよねぇ」
姉のケラケラとした笑い声にため息を吐きかけ、僕は解体を続けた。
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