カッコイイときもある
裏東京から脱出した僕たちは、その日は休んだ。
翌日は夕方まで東京観光をして帰還した。
空港に着くとすでに立花さんが待っていて、僕たちは堂城家へと運ばれた。
とはいえ、これは予定外のことではない。
東京にいたときから姉の遺体をどこに置くかということを真白と話し合っていたのだ。
異世界転生した姉の遺体には価値がある。
そのために、こんな欠片になるまで分解されて売り捌かれてしまった。
そして実際に、僕はその価値をこの目で見てしまった。
アイテムボックスに入れるのが安全な隠し方なのだけれど、そうしたら姉にバレてしまう。
姉が心配するので、できればそれは完全達成するまで黙っておきたい。
かといって団地の僕の部屋はあまり安全とはいえない。
そんな連中相手に金属製の金庫を買ったところであまり意味はない気がする。
となると、僕が知っている中で安全に管理できるのは堂城家ということになる。
妻である真白の実家であるし、堂城さんも、その夫である蛇神の清十郎さんも、転生前の姉に好意を抱いているという稀有な人物だ。
東京から電話でお願いすると二人とも快く了承してくれたので、僕たちは車に乗っているというわけだ。
そうでなかったとしても、迎えは来ていそうな気がするけどね。
「「ほほう、これが」」
封印した立体パズルに二人が頬を接触させるぐらいに顔を近づけて凝視する姿は……揃って美形であるだけに異様だ。
「封印は解かないでくださいよ」
心配になったのか、真白が釘を刺す。
「うむむ、もちろんだとも」
「当たり前でしょう。や〜ね〜真白ったら」
二人ともあからさまに怪しい挙動になるのはやめて欲しい。
ここ以外に頼る場所がないんだけど?
「呪力を吸い取るという癖を付けられてしまっているのですから、封印を解いたらどうなるかわかりませんからね!」
真白に念押しされて、二人はようやく真面目な顔で頷いた。
「しかし、入り口の裏賀輪区とはいえ、守護の赤葉羽を名乗る者であっても手が出ないほど強大になるとは、さすがは莉菜だな」
「入り口と奥では違うのですか?」
清十郎さんの言い方が気になったので質問してみた。
「ああ、そうだ。七区で構成されている裏東京だが、それは階層のように空間が積み重なり、濾過器とは逆の作用を及ぼすようになっている」
「濾過器の逆?」
「うむ。濾過器は汚れた水を清浄にする大地の働きを人工的に模したものだ。裏東京は、七つの階層を通すことで呪力の濃度を濃くしていくのだ。そうだな、酒精の抽出器と呼ぶ方が正しかったかもしれんな」
濾過器の逆。
抽出器。
形容はどうあれ、どちらにしても濃度を高めることには違いない。
そんなドロドロしていそうなものを集めて、どうするんだろう?
「なら、七区の最後に辿り着いた呪力はどうなるんですか?」
「さて……七つの区画を通し、呪力を放った者の思念のみを削り落として、純粋な呪力、純粋な負の念と化したそれをどうするつもりなのか……いまのところ、それが発動した記録はないので、私にもわからぬ」
「そうですか」
純粋な好奇心で尋ねただけなので、どうしても知りたかったわけでもない。
ただ、聞いてしまうと……次々と不安が連鎖していくような気がした。
僕が必殺キックを放つ前、八十尺様となった遺体の欠片はどこかに向かって動き出そうとしていた。
もしもそれが、次の区画だったのだとしたら?
より呪力の濃い場所を求めて移動したのだとして、さらに奥へ奥へと行ったのだとして……。
姉のアイテムボックスがある場所から、真白は宇宙のような霊力を感じるといった。
それは、姉の魔力だ。
霊力は、おそらく異世界では魔力と呼ばれているものと同じなのだろう。
それだけの膨大な霊力=魔力を持つから、姉は異世界転生することになったのだとしたら?
地球の人間は宇宙や地球を流動する霊力を受け止めて一時的に溜めることしかできないとも言っていた。
膨大な霊力、魔力を溜め込める体質は、そのまま呪力を溜め込むこともできるようになっていた?
もしも八十尺様が裏東京の最奥に辿り着いて、長い時間をかけて溜め込んだ呪力を吸い取ってしまっていたら……一体、どんな化け物に変わっていたのだろうか?
なんだか、ゾッとするな。
「旦那様?」
「ごめん、なんでもない」
考えてしまった変なことを振り払い、僕は真白に笑顔を向けた。
「莉菜の弟よ、そなた心配もわかる」
清十郎さんは僕の考えを見通していたようだ。
「莉菜は稀有に稀有を重ねたような者であった。それゆえに、この世に残った遺体にもその特別さが存在する」
「はい」
「だが、それは莉菜の責任ではない。莉菜がそう生まれたのが我らにすら考えも付かぬ超常の存在の思し召しであるなら、それはその存在の責任であるし、偶然であるなら誰の責任でもない。そして、残された遺体がそうなるのであれば、それは悪用する者の責任だ。刃物や銃と同じ道理だ」
清十郎さんの言葉を僕はじっくりと噛み締めるように受け入れる。
ゾッとした気持ちの正体は、ただの恐怖だったのか。
それとも、そんな恐ろしいことが起きたときに、それを姉の責任にする誰かがいるかもしれないと思ったことなのか?
そんな奴が、もしいるのだとしたら?
「許せないですね」
「私も同じ気持ちだ。故に集めるための協力は惜しまぬ」
「ありがとうございます」
今日の清十郎さんはなんだかとってもカッコイイ。
そう思いながら、僕は頭を下げた。
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