貫く
必殺のキックは夕凪の力で火の塊となって放たれ、八十尺様の背中を貫いた。
ドプン。
そんな音と共に視界が暗くなる。
急降下の勢いも完全に消されてしまう。
まるで、暗くて深いプールの中で上も下もわからなくなってしまったみたいだ。
……そんな経験はないんだけどさ。
「真白、大丈夫?」
「はい」
スーツを着ているからか、息苦しさとかは特にない。
ただ、浮遊感に受け止められて身動きが取りづらい。
「それで……ここは?」
「旦那様の必殺キックで表層を突き破った結果、内部に入り込んだのです」
「ううん、作戦は失敗か」
キックの勢いで突き破り、そのまま姉の遺体をキャッチして外に出るつもりだったのに。
「いえ、まだチャンスはあります」
「うん、そうだね」
中に入ったんだ。
それなら捕まえやすくなった、とも言える。
ポジティブに考えよう。
もう一度ダウジングアイを使うと、目的を示す線が伸び、そして急速に近づいてきていることを示す。
キックを放ったときには完全にタイミングを捉えていたんだから、これは通り過ぎて戻ってきているということかな?
あっちは動き回っているんだけど、俺はこの場から微動だにしていないような。
これはどういうことだ?
「もしかして、真白がなにかしてくれてる?」
「いえ、ましろはなにも」
「そうか」
「義姉上様の変身スーツが守ってくださっているのですね!」
真白はとても嬉しそうにそう言った。
「それなら、アレもおとなしく捕まってくれるといいんだけど」
ダウジングアイが示すモノがこちらに近づいてくる。
浮いている中でなんとか姿勢を整えて、捕まえようと手を伸ばす。
失敗した。
モノの動きそのものは目で追えたのだけど、こちらの挙動が間に合わなかった。
本当に水の中にあるような抵抗感があって、素早く動けないのだ。
これはけっこう難易度が高いな。
「どうしたもんかな?」
何回かやっていれば成功するかもしれないけど、そう何度もチャンスがあるかどうかもわからない。
「それなら、罠を張りましょう」
「罠?」
「はい」
真白が夕凪を動かした。
辺りに水が放たれる。
ホースの口を平たく潰したときのように、水は放射状に放たれて凍った。
これで受け止めるのか?
「割られない?」
「はい、だから何重にも」
と、同じように水を凍らせて何重もの層を作った。
「これなら、止められなくとも速度が落ちるはずです」
「わかった」
最初に動きを観察したときに、大きく上下に動き回っているアレは、この地点で交差していることがわかっている。
だから、真白の罠は有効に作用するはずだ。
後は、氷を全部割られたときに僕が受け止められるように、さっきは上に飛んで行ったから、下に回り込む。
再び、ダウジングアイが接近を知らせる。
氷のすぐ下だと反応しきれないかもしれないから、ちょっと離れて……。
泳ぐような感じで移動するんだけど、距離の調整が難しいな。
来た。
氷が次々と割られていく。
そして……。
最後の氷が割られ、それが飛びだす。
キャッチ。
「掴んだ!」
「やりましたね! 封印を」
「了解!」
真白が用意した立体パズルは、スーツのベルトに工夫して付けていた。
すでにバラしてあるし、崩し方も組み立て方も教えてもらってある。
とはいえ、片手で作業は難しい。
なんとか苦心して、中央パーツとアレを一緒に掴むことに成功した。
それからは早かった。
立体パズルが完成する。
そしてその瞬間、周囲の暗さが変化した。
宇宙に放り出されていたかのような暗さから、月夜の暗さに変化したのだ。
フライングアームドが解除されていた僕は、即座に重力に足を掴まれて落下した。
なんとかヒーローポーズ的な感じでの着地に成功する。
手の中には立体パズルがあって、ダウジングアイの反応もその中に伸びたままだ。
念の為に他にないかとダウジングアイの条件を変更してみたけど、裏賀輪区にも裏東京にもなさそうだ。
「よし」
それなら……。
「逃げよう」
「逃げましょう」
赤葉羽シキが取り返しに追いかけてきたら厄介だ。
僕たちは脱出するために走り出した。
「マジかよ」
シキはその後ろ姿を黙って見送るしかできなかった。
体力は回復していない。
追いかけるなんてとてもできそうにないし、追いついたとしても勝てるとは思えない。
相手は、いままさにシキが勝てなかった相手に勝利したのだ。
勝てるわけがない。
戦い方が悪かったのだということは理解している。
戦い方しか教えられていないシキだからこそ、その点を認めないわけにはいかない。
しかし同時にそれは、シキが求めた戦い方でもなかった。
もっと、力と力でぶつかり合って、蹂躙するように勝ちたかった。
だけど……勝利することが全てであるのだから、あれが間違っていたわけではない。
「は〜あ」
ガックリとうなだれ、長々とため息を吐くとシキは呪彩棒アヤアカシを肩に担いで屋敷に戻った。
屋敷には、一人の女性が待ち構えていた。
「チッ、やっぱりいたか」
「シキ、見ていましたよ」
「賀茂の女がよ」
「そうです。その賀茂だからこそ、あなたにこの言葉を伝えることができるのです」
軽蔑のために吐き出した言葉も涼やかに受け流され、シキは戦いの疲れもあってそれ以上はなにも言わなかった。
「今回の失態は裏東京に危機を招くものでした。ですので、シキ、あなたには……」
その決定に、シキが逆らえるはずもない。
裏東京を支配する賀茂家からの命令なのだから。
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