転校生
GWの自主延長なしになんとか戻ってくることができた。
そのことにやり遂げた満足感のような、惜しかったかもしれないというような気持ちを覚えつつ学校に向かう。
「おはよう堂城さん」
「ええ、おはよう尾羽くん」
新学期の頃では考えられないように、隣の堂城さんと普通に挨拶をする。
とはいえ基本は無口の堂城さんなので会話が弾むということもない。
ないのだけど、それが堂城さんの基本だとわかっているので、居心地悪い気分になったりもしない。
真白や姉のことで変な興奮をしているときのことを考えれば、静かにしていてくれた方がいいかもしれないとさえ思う。
別に堂城さんに憧れたりとかしていたわけではない。
まぁ、美人を側で見られて損をした気持ちになるわけもないんだけど、恋愛感情とかはなかった。
とはいえ、どうしてこんなことになったのかと思わないでもない。
まだ新学期が始まってGWが終わっただけなんだけどなぁ。
変化が劇的すぎる。
「尾羽くん」
授業の準備をしながら物思いに耽っていると、堂城さんの方から話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あの列、机が一つ多くないかしら?」
堂城さんが指さしたのは、教室のドアがある側の列だ。
「そういえば、一つ多いかも」
「転校生かしら?」
「この時期にって……まぁよくわからないけど」
転校生が来る時期ってなんだろ?
親の転勤とかの都合?
個人の都合もあるか。
他にも席が増えたことに気付いた会話があちこちから漏れ聞こえている。
転校生への期待が感じられる。
僕と堂城さんは熱量少なめで話を切り上げた。
彼女は言うほど興味がなかったようだし、僕は来ればわかるだけのことだと思っていた。
そうしていると担任の猛林先生ことモーちゃんがやってきたのが見えて、そしてその後ろから歩いてくる転校生らしき人物の姿が見えた。
「お〜う」
見て、思わず声が出てしまった。
堂城さんが僕の反応に気付き、そして教室に入ってきた二人を見て不機嫌そうに顔を顰めた。
堂城さんがあいつのことを知っているとは思えないけど、霊力とか雰囲気とか、そういうのでなにかを察したんだと思う。
「赤葉羽シキだ。よろしくな」
モーちゃんに自己紹介を促されたシキは意外に達筆に黒板に自分の名前を書いた。
出会ったときにはパンクな雰囲気の格好だったんだけど、すでに制服を着崩している。
転校初日でそれが許されているということは、実力テストか何かで高成績だったんだと思う。
うちは、成績が良かったら色々と許される風潮があるから。
あんなんでも頭は良いとか……なにか納得がいかないものがあるな。
僕がそんな理不尽を感じていると、シキが僕に気付いた。
「おーお前〜」
そしてあろうことか、その場で僕に向かって手を振ってくる。
「へぇ、このクラスっていうのか? だったんだな!」
「なんでそんなフレンドリー?」
めっちゃ恨まれていると思ってたんだけど。
「あんなすげぇことした奴をいつまでも恨んでるかよ」
と、モーちゃんに席を指定される前にこっちにやってきて、そしてなぜか堂城さんの前で止まった。
「お前、その席アタシに譲れ」
「お断りします」
シキのパンクヤンキーな脅しなんてどこ吹く風、堂城さんは氷の無表情で跳ね返す。
「ああん? お前、いい度胸……って」
シキがなにかを言いかけて、止まった。
「あれ? お前って、こいつの嫁だっけ?」
余計なことを!
一瞬で教室の空気がザワッとした。
「それは私の親族です」
堂城さんは冷静に対応したけど、それを何人が信じたことか。
信じて、本当だから。
「はぁん? なるほどなー。まぁ、それならいいや」
納得したのか、シキは僕の前にいた席の奴に「どけろ」と標的を変える。
「ああもう〜……席替え! いまから席替えします!」
モーちゃんのヤケな叫びで急遽席替えが行われることになる。
くじ引きと交渉による席替えが実施された結果、僕の左に堂城さん、右にシキということになった。
ぶっちゃけ、僕と堂城さんの位置は変わらず、シキが右側に来ただけだ。
「ああ、そういや、お前、名前は?」
そういえば、名乗ってなかったけ?
どうだったかな?
単純に、シキが覚える気がなかっただけの可能性もある。
まぁいいけど。
「尾羽亮哉」
「改めて、赤葉羽シキだ。よろしくな」
「なんでここに来たのさ」
「お前のせいで家を追い出されたから」
脱力して尋ねると、シキは答えた。
「追い出された?」
「お前に持っていかれたからな。アタシの大事なもん」
その言い方はやめて。
「あなたが勝手に油断しただけでしょう。尾羽くんは正しいことしただけです」
堂城さんも口を出さなくていいから。
「はっ、お前やっぱりあのときの嫁だろ?」
「違います」
やめて。
みんなの耳がとっても大きくなっているから。
みんなが聞き耳を立てているから、やめて。
その日のうちに、赤葉羽シキは僕に大事なもの(性的な意味で)を奪われ、千館高校にまで追いかけてきたパンクヤンキー純情娘というキャラクターが固定化されることになるのだった。
そして何気に、堂城さんにまで手を出しているのでは? という疑惑まで。
やめてください。
僕は、無実だ。
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