ミカゲ八十尺様
ウィングアームドで空を飛んで接近した俺は、勢いのまま八十尺様の顔をぶん殴った。
命中した場所が爆発する。
殴った拳には僕が作ったガントレットが嵌められている。
追加武装として、ウィングアームドみたいに必要なときに召喚するようになっている。
そして爆発は夕凪の力だ。
夕凪というのはあの指輪のことだ。
魔法使いにもらった火の指輪に、ミイラ人魚がくれた真珠が合体したあれ。
名付けたのは真白だ。
海(水)と空に沈む夕日(火)が静かに交わる瞬間という意味だそうだ。
僕にはない詩的さだね。
一応、ホテルの浴室で簡単なテストはしたから、火と水を出すことはできる。
複雑な応用とかはできないし、勢いよく発射とかも無理なんだけど、こうして拳に纏わせて殴ったりはできる。
ぶん殴って飛び散った炎は白髪に触れて燃え広がる。
そのまま火事にでもなるかと思ったけど、自然と鎮火してしまった。
焼け落ちた白髪は燃えていない部分まで黒くなって宙に溶けていく。
白髪の束が落ちたことで八十尺様の顔が見えた。
そこには黒くて鏡のように磨かれた石の肌があるだけだ。
額や目、鼻筋、唇といった形はあるけれど、瞳孔はなく、鼻腔はなく、口腔もない。
削り出された顔の形があるだけだ。
石像のような雰囲気なのに、爆発の余韻で体を揺らす姿は普通の生き物のようだ。
「硬いなぁ」
殴った右拳がちょっと痺れている。
ガントレットがなかったらもっと酷いことになっていたかもしれない。
このまま連続で殴るというわけにもいかないので距離を取ろうとしていると、白髪が動き出してこちらに向かってきた。
早い。
瞬く間に足を掴まれて引っ張られた。
自在に動く髪は掴んだ僕をそのまま地面に叩きつけようとする。
地面の前に瓦屋根が見えた。
「シールド!」
叫び、左腕に集中すると、そこに丸い金属盾が出現する。
瓦屋根との間にシールドを構えると、凄まじい破壊音とともにその中に突っ込んでいった。
屋根を突き抜け、梁を砕き、畳を破って地面に激突する。
シールドが受け止めてくれたけど、衝撃が左腕から背中に抜けた。
「ぐう……真白、大丈夫?」
「は、はい」
真白にダメージがないことにホッとする。
僕としても痛いだけで骨が折れたとかそういうことはなさそうだ。
姉のスーツが丈夫なおかげでたすかった。
とはいえ……。
敵対しているのも姉の遺体なんだけどさ。
再び引っ張られる前に動けるようになったので、右手で掴んで夕凪の火で焼き切る。
グッと力を入れると炎が勢いよく飛び出した。
白髪に沿って八十尺様本体に届きそうだったのだけれど、髪の方が途中で燃え落ちて街の上に落下してしまった。
「ああくそ」
「おいてめぇ!」
崩れた家から這い出しながら届かなかったことを悔しがっていると、怒鳴り声を浴びせかけられた。
隣家の屋根に立った赤葉羽シキが僕を睨んでいる。
「あたしの戦いを邪魔するんじゃねぇ!」
「知らないし」
「なにぃ⁉︎」
「僕が勝ったら持って帰っていいって話じゃなかったっけ?」
「知るか!」
あ、これ約束とか守らないタイプだ。
そう決めつけると、もうシキの言葉はシャットアウトすることにした。
「おい!」
なんかまだ言っているけど、白髪の束が降り注いで来たのでその場から逃げる。
跳んでかわして、ウィングアームドで再び顔面パンチを狙う。
白髪は変幻自在に動くが、本体の方は動きがゆっくりだ。
いけるかと思えたのだけど、回り込んできた白髪の壁に行く手を塞がれた。
「くそ」
「旦那様、後ろにも」
「わかった」
角度を変えて上昇すると、包囲しようとしていた髪と一緒に追いかけてくる。
一つの束となったところで急停止して、その髪を掴む。
再び燃やす。
燃える髪を追いかけて、途中で火が消える前に新しい場所を掴んでまた火を注いでいく。
燃える髪を伝って再び顔面に迫っていくのだけど、また他の髪に邪魔された。
「ええい!」
それもまた燃やすのだけど、キリがないなこれ。
空が燃えている。
堂城の蛇神が連れてきた男が空を飛び回ってミカゲの髪を燃やしている。
それが空を燃やしているように見えて、シキは思わず見入ってしまった。
それから、ハッとする。
「くそ、冗談じゃない」
アレはあたしの獲物だ。
そうするために手に入れたんだ。
誰かにやるためじゃない。
「くそが! こっちを見やがれ!」
駆けるシキの体がいくつにも分かれてミカゲに迫ると、それぞれが巨大な足に呪彩棒アヤアカシを叩きつける。
六角棒が叩きつけられた部分の肉が抉れ、複数の呪符になって消えていく。
シキの使う戦闘方法は大量の呪符を用いることで構成されている。
呪符はシキの意に沿ってさまざまな効力を発揮するが、いまは呪力を祓う能力を選択している。
分身したシキの体も六角棒も呪符で構成されている。
叩きつける度にミカゲの足の肉が抉れ、呪符に変わって消えていく。
そうすることで分身を構成する呪符も減っていき、その姿がやがて薄まり消えていく。
そうすることで消すことができたのは、ミカゲの巨大な足にある指一本分程度の質量でしかなかった。
「チクショウ」
まるで相手になっていないという状況に、シキは歯噛みした。
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