八十尺様
たっぷり食べてゆっくり休む。
スッキリと目覚めて、朝食を支度する。
アイテムボックスから作り置きのご飯と味噌汁を取る。
おかずは……ビッグボアの生姜焼き。
千切りキャベツ多めで。
昼食を食べる暇はないかもしれないからね。
備えておこう。
白蛇状態の真白にもビッグボアの生肉を食べさせる。
その後に支度して、また真白の案内で裏東京に入る。
「前とは違う場所だね」
「その日の霊脈の状態なども関係しますから。そうでないと偶然迷い込んだ人とかが法則性を見つけ出してしまいますし」
「迷い込む人とかいる?」
「どんな備えだって、偶然っていうものに好かれた人の前では無力だったりしますから」
「ふうん」
……つまり、この用心さもそういう人には無意味ということ?
あ、つまりはいまの僕だったりするのかな?
ちょっと前の僕には無関係の場所だったけど、いまは用があったりするし。
真白たちに出会えるようなことがないと、絶対ここに入れなかったしなぁ。
視界の変化で思考を現実に当てる。
相変わらず夜しかない場所だ。
映画や記録映像でしか見たことないような古めかしい木造建築が並んだ街並み。
だけどの人の気配はない。
ないのに、なぜか気配の残滓がだけがあるような不思議な感じがする。
初夏の生ぬるさだけを集めたような嫌な風が背中を押す。
前にはこんな風はなかった気がするんだけど……。
と思って風の向かう先に目をやると、それがいた。
「前はあんなのいなかったよね」
「はい」
ジャケットの内ポケットに収まった真白の声にも嫌悪感があった。
念の為にとかけたダウジングアイの線もあれに繋がる。
つまりは、あれがそうか。
「ええ……でかい」
それは長い白髪で全身を隠すようにした女の巨人だった。
白髪で隠れているせいで白い塔が立っているように見えるけど、風に揺れて中に隠れた艶のある黒い肢体が覗き見えるから違うとわかる。
ずいぶんと、ご立派なことになっているのでは?
姉の遺体の欠片が膨らんだ結果だよな?
それが全て姉の延長として形に影響を与えているとは思えないが……それにしてもご立派すぎないか?
盛ったか?
姉の見栄が出たか?
「あれが、義姉上様?」
「いや……絶対に違う」
「え?」
真白の呟きを僕は否定してしまう。
あそこに姉がいると思ってそう言ったのではないことくらい、僕にだってわかる。
真白はただ、まだ見たことのない姉の姿がアレに影響を与えているのではないかと言いたいのだろうとはわかっている。
だけど言いたい。
違うと言いたい。
でも、姉の影響があるのではないかと、僕も疑ってしまう。
見栄的な意味で。
盛ったな貴様と問いたい。
問い詰めたい。
「そうですよね。あれは呪力にこもった様々な念の集合体。義姉上様なわけないですよね」
真白がなにか、気遣い的なことを言ってくれた。
だけど、それを「いや違う」と修正することはできなかった。
……だって、「最低」とか言われたら凹みそうだし。
「あれって、何メートルぐらいあると思う?」
誤魔化したくて話題を変える。
「そうですね、二十メートルと少しぐらいあるかもしれないですね」
「大きくなりすぎだろ。……八尺様ならぬ八十尺様だな」
正確には違うだろうけど、こんなのイメージだ。
八十尺様と呼ぶことにしよう。
あ。
でかいで思い出した。
せっかく東京に来たんだから実物大ガンデムを見に行けばよかった。
うん、これが終わったら見にいこう。
真白だって行きたい場所とかあったかもしれないんだから、それも聞いておかないと。
「旦那様?」
「さっさと終わらせて、東京観光をしよう」
「はい」
嬉しそうに答える真白に頷き、僕は変身した。
呪彩棒アヤアカシを振るい、赤葉羽シキは巨大に成長し続けるミカゲに挑む。
「はは……はははははははっ!」
楽しい!
なんだこれ?
なんだこれ⁉︎
まったく相手になってない!
このあたしがまるで敵わない!
最初はいい勝負ができていたように思う。
ミカゲに集まる呪力を殴っては祓い、殴っては祓いを繰り返していた。
その度に巨大なミカゲがそこら中に倒れたり転んだりして、偽りの街並みが壊れていた。
ミカゲも拳を振るってシキを潰そうとしていた。
巨大な質量がすぐ近くを通り過ぎていく様は、見た目にも、体に感じる風圧にしても凄まじく、シキの興奮は止まらない。
だが、そんな良い勝負ができていたのは最初だけだった。
その内、ミカゲはほとんどシキの殴打に反応しなくなった。
集まる呪力が、シキの一打で払われるそれよりも多いのだ。
ミカゲはどんどんと大きくなり、呪彩棒アヤアカシでどれだけ打たれても揺るがなくなった。
やがて、シキの相手をするのは長過ぎる白髪だけとなり、本体はただその場に立ち尽くすのみだ。
なんてふざけた強さだ。
ここにある呪力を集めると、こんな凄いものができるのか。
もしも……これが表の東京に出ていくようなことになったら、どうなってしまうのか?
「くそ〜たまんね〜」
想像の結果とは真反対の笑顔を浮かべ、シキは呪彩棒アヤアカシを握り直す。
その時、頭上で真っ赤な爆発が起きた。
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