スキルトレーナー
ベアイド寿司を食べた姉の反応は「これが……ウニ?」だった。
やっぱり違うよね。
だけど、俺も姉も本物の美味いウニを食べたことはない。
ここは間違いなく本物を食べたことがあるだろう真白の出番だ。
「美味しい! でもこれってウニに見えるのにウニじゃないですね! お肉みたいです。不思議!」
だった。
やっぱりウニじゃなかった。
見た目は完全にウニだと思うんだけどね。
そっちはお料理動画とかで見たことあるから間違いない……はず。
異世界の不思議だな。
「それにしても……アキヤも変なことになってるね」
食後に再びアイテム整理に勤しんでいると姉から声をかけられた。
真白もスマホを片手にどこかに連絡をしているようだから、僕もなにかしないとって思ったのだ。
とはいえ、ここでのことは外では時間が過ぎていないので、やっているのにやっていないみたいなことが起きちゃうのだけど。
「まぁね」
変なことっていうのは、裏東京のことだ。
堂城さんとか真白とかのことは話したけど、姉の遺体の件は話していない。
「それなら、そろそろ護身術に不安があるんじゃないですかな? お客さ〜ん」
「……なにその怪しい勧誘みたいなの」
にや〜って感じに口調を変えてきた。
「うっふっふ。いいものがあるんですよ〜」
「いや、普通に話そうよ」
「ちぇっ」
すぐに止めた。
姉的にはやってみたけど面白くなかったのかな?
「実はね、さっきのアイテム類って古代魔導帝国の遺跡を掘りにいった結果なのよね」
「古代魔導帝国?」
「しかも、空飛ぶ都市」
「おお」
なにそのロマン溢れるファンタジーは。
「ふふふ、羨ましかろう。そうだろう」
「こっちの反応をちゃんと聞いてからにして」
羨ましいけどさ。
「で、さ。そこでスキルトレーナーの核を見つけたから、作ったのよ」
スキルトレーナー?
「とりあえず【戦士】スキルのトレーニング機能は復活させられたんだけど、アキヤ、やってみる?」
「やってみるって……それ、こっちの外に持ち出して大丈夫なのか?」
「いやいや、アイテムボックスでやればいいよ」
「中で?」
うん?
それって……
「ふふふ、●万年ボタンみたいなことが可能なのだよ」
「おお……」
……って、言ってみたけど、これって前に鍛冶修行したのとあんまり変わらないのでは?
いや、違う?
まぁ、戦士なんてスキルの内容は一人で修行してもわからないことはあるだろうし……いいのか、な?
それに、これから明らかに戦闘があるんだし、やって損になることはないか。
「うん、やるよ」
「おお、いいね。お姉ちゃんは嬉しい」
そう言った次の瞬間、僕の前になにかが現れた。
マネキンの頭?
ツルッとした白い陶器みたいな頭の形をしたものだ。
それにヘルメットみたいなのが被せられている。
みたいっていうか、ヘルメットか。
兜って言うよりはヘルメットって感じだ。
ゴーグル付きのハーフヘルメット・ファンタジー版。
アイテムボックスと機能が連動している僕は、すでにこのスキルトレーナーの使い方がわかっている。
ヘルメットを被り、耳を覆うようにベルトを固定し、ゴーグルを下ろす。
いきなり両手に重さが宿る。
驚いて見てみると、右手に剣、左手に盾を持っていた。
ズンズズズンズ、ズンズズズンズ……みたいな低音のBGMが流れ始める。
「さあ、訓練の時間だ!」
と、いきなりいい声の男性に声をかけられる。
「ここはどこだ⁉︎ そうだ戦士トレーニングだ!」
「今日も始めるぞ! ファイトタイム! お前が戦士になるその日まで!」
いい声の男性が熱血なセリフを喋っていると、目の前に影だけの人型が現れる。
「さあぼやぼやしていられないぞ! 戦いだ! 油断がお前を殺す! 甘い考えなんて便所に流し込め!」
人型影が襲いかかって来た。
手には僕と同じように剣と盾を持っている。
僕は咄嗟に盾を構える。
人型影が振りかぶった剣が盾に食い込むと、本当に衝撃が腕に伝わった。
「さあ、戦いだ! 戦いだ! 戦いだ!」
「や、やかましい」
いきなり始まった人型影との戦いより、このいい声がうるさかった。
うるさかったけど、絶対に止まらない。
そして時々、技術的なアドバイスとかも混ぜてくるから無視することもできない。
なんて鬱陶しい奴なんだと思いながら、ずっと人型影と戦い続けた。
そして……どれだけ時間が過ぎたのか。
いや、アイテムボックスの中は時間が止まっているんだけどね。
僕は、【戦士】を身につけた。
スキルレベルは1だけどね。
「ビクトリー! 素晴らしい! 今日からお前は戦士だ! その第一歩を踏んだ」
いい声の人……トレーナーが祝福してくれる中、ヘルメットを外した。
「おお、やったね! アキヤ!」
姉にも確認できるのか。
「一応聞くけど、時間って過ぎた?」
「ううん、全然」
なんていうか……プレイヤー側だとアイテムを使うってコマンドだけで一瞬だけど、ゲームの中だと相応の時間が過ぎているみたいな、そんな齟齬のようなものを感じた気分だ。
いまさらなんだけどね。
「さてじゃあ次は、装備を整えないとね」
「そっちは前に散々鍛えたからね」
まさか自分用を作る日が来るなんてと思いつつ、僕は槌を握った。
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