アタシの考えた最強の化け物
赤葉羽シキが『アタシの考えた最強の化け物』を作ろうとしていた。
それはまぁ別に良いんだけど……うちの姉の遺体を利用しているのはいただけない。
下準備が足りなかったのか「くそうもうちょっと……」だとか「……用意できなかった」とかぶつぶつ呟いている。
「ええと……それじゃあ、アレを見つけて倒したら僕が持って帰ってもいいんだね?」
「できるんならな」
そういえばいつのまに変身が解けてるな。
ダウジングアイは?
あ、真白が持ってるんだ。
「裏賀輪区にある姉の遺体」と限定すると、一本の線が屋敷の外に向かって走っていった。
うん、探すことはできるな。
それなら後は、倒せるかどうかだ。
「なら、挑戦するよ」
今度の僕の言葉には、赤葉羽シキは面白そうに笑った。
「へっへ……これからどんどん成長するぞ。楽しみだな」
やっぱりかぁ。
シキの楽しそうな顔にはまったく共感できない。
僕たちは赤葉羽邸を出た。
「そういえば、月丸は?」
小さい蛇の姿に戻ってジャケットの中に戻った真白に尋ねる。
「倒されたみたいですが、復活できるのでご心配なく」
倒されたのか……。
「それってシキに?」
「そうでしょうね」
真白の蛇頭がちょこんとジャケットの間から覗いた。
囮として向かわせたところに、邸から飛び出した赤葉羽シキが向かっていたんだから、戦っているはずだ。
「この辺りで形を得た呪詛なんてたかが知れています。以前ほどの力がないとはいえ、月丸が負けるほどではないでしょう。ですから、負けたのは赤葉羽シキで間違いないはずです」
「ふうん」
月丸があっさり負けるのだから、やっぱり赤葉羽シキは強いんだろう。
でも、だからって戦闘狂な理屈でうちの姉を利用されても困る。
「旦那様……」
ダウジングアイで向かう先を確かめていると、真白に呼ばれた。
「なに?」
「提案なのですが、一度戻りませんか?」
「どうして?」
「義姉上の遺体を運ぶ手段がありません」
真白が言うには、この場で姉の遺体(の欠片)は呪詛を吸い取り続けてしまうらしい。
そうしてしまう限り、どれだけ倒しても結局はすぐに復活してしまう。
中心核となっている姉の遺体を処分しない限り、それが止まることはない。
そして、僕はそれを望まない。
「赤葉羽シキの考えは簡単です。モグラ叩きに飽きたのでパンチングマシーンを殴りたいだけです」
「ううん……的確」
そして辛辣。
真白も赤葉羽シキには呆れていたのかな。
「ですので、あの状態からすぐになくなることはありません。その点は心配してもいいかと」
「うん、だね」
真白がなにを言いたいのかわかる。
「つまり、しっかり準備をしろってことだね」
「はい。でも、ここではなにもできません。ですので一度戻りましょう」
「わかった」
言い分が正しいのだから、従うだけだね。
僕たちは裏賀輪区から出てホテルに戻った。
「……へ」
赤葉羽シキは愛用の呪彩棒アヤアカシを肩に担ぎ、唇を引いて笑う。
変な奴が来たせいで予定よりも上手くいっていないが、それでも始まった。
「もっとあれこれ仕込んで強くしたかったんだけどなぁ」
呪力バスター砲とか。
呪力メガバズーカとか。
だが、なかったとしてもこいつは裏賀輪区に無限に流れ込んでくる日本中の呪詛を無限に吸い続ける。
「まぁ、ほんとに無限かどうかは知らねぇけど」
もしかしたらどこかのタイミングでドカンと爆発をするかも知れない。
風船のような限界が訪れるかも知れない。
だが、そうなる前に解決する方法はある。
赤葉羽シキが呪彩棒アヤアカシでぶん殴り、貯まった呪詛を払う。
払うことで今度はその力の属性が反転し、霊力へと変換して表の世界へと返す。
呪いを祝いへ。
それが裏東京に住む陰陽七家の役割だ。
その役割のためにより効率的な方法を求めてシキはこの方法を実行することにした。
趣味と実利が合わさった最高の作戦だ!
「さてさてさて……」
赤葉羽邸の屋根からシキは経過を見守っていた。
すでに目標は屋根を超す大きさにまで育っている。
呪詛の流れに呼び寄せられたのか一つ目の巨人坊主が近づいてきた。
丸まっていたそれが身を起こす。
そう、そいつは丸まるように座っていたのだ。
立ち上がったそれはとっくに平屋の建物を超えた大きさになっていた。
自身を越した大きさに、一つ目巨人が戦き、逃げようとした。
だがその前に手が伸びる。
黒い肌だった。
指先から腕の付け根……いやさらにその先まで、御影石のような艶のある黒色だった。
伸びた髪は白く、唇も白い。
それ以外は、全て黒かった。
白く長い髪を足首に生で届かせた、女だ。
伸びた手が一つ目巨人の頭を掴む。
すると、見る間に一つ目巨人が萎れて、細くなっていく。
一つ目巨人を形成する呪力を吸い取っているのだ。
「はは、すげぇ」
これからこいつと戦うんだ。
そう考えるとゾクゾクする。
赤葉羽シキは立ち上がった。
「そうだなぁ。名前がないと不便だな。お前は……ミカゲだ」
その存在に名前を付けると、呪彩棒アヤアカシをしっかりと握り、赤葉羽シキは襲いかかった。
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