赤葉羽シキは
スイッチが入ったみたいに視界が元に戻った。
いや、あれ?
なんで畳が視界の横にあるんだ?
あ、体を横にして寝てた?
寝てた?
いつ?
いつの間に?
「旦那様? 起きられましたか?」
「ましろ?」
声の方を見ると、真白がホッとした顔で僕を見下ろしていた。
うん、いつもの小さい真白だ。
いつもの?
巫女服なのは変わらないけど、堂城さん中学生バージョンみたいだった大きさではない。
いつもの真白だ。
「真白が小さくなった」
「え?」
僕の言葉で真白が驚いている。
「これでも?」「これでも?」と僕に見えない部分で色々としていたようだけど、やっぱり大きさは変わらない。
いつものちっちゃい真白だ。
どうやら見鬼? の才とやらが引っ込んだようだ。
そんなことがあるのかと、真白も驚いている。
「なくなったわけではないと思うので、またすぐに見えるようになると思いますけど」
「すごい気合を入れたら見えたわけだし、同じことしないと見えないのかも」
と、自分で言っておいて、それはしんどいなぁという感想になってしまったわけで。
「ええ、そんな〜」
真白はぐで〜と畳に体を投げ出した。
そんな真白も珍しい。
「これでようやく子作りが……」
とか言っていたけど、そこは聞こえない振りをする。
「まぁ、それはともかく」
視線を和室の隅に向ける。
そこにはパンク女こと赤葉羽シキがいた。
彼女も目を覚ましていたようだ。
なぜか部屋の隅で肩肘を抱えた姿勢で僕たちを睨んでいる。
「ええと……お邪魔してます」
挨拶は大事だ。
色々と衝突した後だけで、いまは戦闘中ではないので挨拶をする。
「……ちっ」
シキは舌打ちで応えた。
「堂城家ね。田舎の蛇神がなんの用だ?」
と、僕じゃなくて真白を睨む。
「もう、自己紹介は終わった感じ?」
「はい。向こうが先に目覚めたので仕方なく」
「そっか」
で、まだこっちの用は話してない感じかな?
「あたしの仕込みを邪魔して、なんのつもりなんだよ?」
コソコソ確認していると、シキがイラッとした様子でさらに尋ねてくる。
「あれは、僕の姉の遺体だ」
「……なに?」
「行方不明になった姉の遺体。それをバラバラにした一部だ」
「ちっ。……そういうことかよ」
納得した?
「だけどそれがなんだってんだ?」
「は?」
「死体なんて、どうせ燃やして骨にして墓に入れて忘れるだけだろ? それがちょっと段取りが変わっただけだろうが? 肉の切れっぱしがお前の姉ちゃんみたいに動くのか?」
「……」
「旦那様、落ち着いてください」
プチーンって来そうだったけど、真白に止められた。
「裏東京七区を治める陰陽師たちに表の道理を説いても意味はありません」
「はっ、ひでぇ言い草だな」
「彼らは裏東京七区の深奥である陰陽区で育てられ、実力を認められたら各地区の長の家名を与えられます。その後は死ぬまで各地区を守ります。それだけの存在ですので、表の倫理を説くことに意味はないのです」
「ふん。まぁそういうわけだ、僕ちゃん」
真白が無視して説明を続けたのをシキは面白くなさそうに受け入れ、そうしてまた僕を見てくる。
「まっ、焼肉にして食おうとまでは思ってないから安心しな」
あ、こいつは倫理以前に僕を煽ってるな。
「真白に縛られて気絶したくせに」
「あっ?」
「僕は気絶しなかったけど?」
「さっきしてただろうが!」
「それは……初めての見鬼で脳がびっくりしただけだし」
「はぁ⁉︎ 初めてだぁ!」
「そういうこと、あんたは初心者を倒せなかったんだ」
「……良い度胸だもっかいやろうぜ」
よし。
口喧嘩は僕の勝ちだ。
「お二人とも止めてください」
真白が呆れた様子の声を放つと、シキが動きを止めた。
「建設的な話をしましょう」
「ちっ」
真白にはおとなしく従うみたいだ。
なんでだろう?
後で聞いてみる内容だと心にメモをしながら、おとなしく成り行きを見守る。
「こちらは義姉上様の遺体を回収したい。そちらは?」
「……」
「そちらは、義姉上様の遺体でなにを企んでいらしたのですか? 放っても構わないということでしたが、では、あれを私たちが回収してもいいということですか?」
「……できるもんならやってみな」
シキが答えた。
また煽っているのかと思ったけど、なにか語調が違うような?
真白がさらに問う。
「呪詛を喰らうと言っていましたが、それが目的ですか?」
「そうさ。あれはただの肉片じゃない。際限なく呪詛を喰らう無限の箱だ。しかも天然のな」
「それで、強大な呪詛物でも作ろうとしていたのですか? なんのために?」
「決まってるだろう? ぶっ潰すためだ!」
と、シキは言った。
言い切った。
さっきまでと違う活き活きした顔で。
「うんざりなんだよ! チマチマチマチマ弱っちい奴を潰すだけの毎日は! ここらでドカンと強いのとヒリヒリした戦いがしたいんだよ! だからあれを手に入れたんだ!」
と、清々しい顔で言い切った。
「見ただろう? 結界の外に放り出した途端にあそこまで変化した! あんなもんはそこらの呪物だってできやしない。超特別なんだよ。あれから出来るバケモンがどれだけ強くなるか……想像しただけで身体中が熱くなる!」
と、拳を握り締めて語っている。
ああ、なるほど。
と、僕は納得した。
これが戦闘狂なんだ。
つまりはバカなんだなって、僕は理解した。
赤葉羽シキはバカなんだ、と。
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