裏賀輪区へ
なんだかすごく恥ずかしい気分になったので、姉との会話をさっさと終わらせつつ、油断したらすぐぐちゃぐちゃになるアイテムボックス内の整理に勤しむ。
もう、無言で動き回った。
いつも以上にピカピカにしてからアイテムボックスを出る。
疲れた。
体力は消耗していないはずなんだけど、疲れた。
バタリとベッドに転がる。
「旦那様?」
「あ、あれはちゃんと姉ちゃんのアイテムボックスだったよ」
「そうなのですか。しかしなぜ?」
「僕にだって」
「え?」
「場所じゃなくて、僕に付いているんだって」
「……はぁ、なるほど」
ベッドに転がる僕のそばで、なぜか真白は正座している。
「義姉上様は、旦那様のことが心配だったのですね」
「うう〜〜っ‼︎」
「旦那様!」
なんだろうこの。
なんだろうこの気恥ずかしさは!
顔を押さえて悶えまくってしまう。
ジタバタが止められない。
「そんなに恥ずかしがらなくても」
そして、真白に心を読まれてしまっている。
「いや、でも、ねぇ」
「うちのお母さんのことを考えると、義姉上様のそれは常識的な愛情表現だと思いますよ?」
「常識にアイテムボックスはないよ?」
「心の有り様が、です」
「……」
「ご遺体のために危険なことを行おうとする旦那様の姉上様なのですよ? これぐらいは当然なのでは?」
「うぐぐぐぐ……」
唸っていると、真白が僕の頭を撫でてくる。
「真白?」
「旦那様は、もう少し他の方の愛情を信じてもいいと思います」
「うう……」
「ましろだって、ちゃんと旦那様をお慕いしておりますよ?」
「もうやめて……」
頭がパンクしそう。
「うふふふ。では、今日はもう寝ましょう。明日は油断できない一日になるのですし」
「うん、寝る。それがいいね」
寝よう!
それが一番の心の回復方法だ。
そうして朝になる。
朝食もルームサービスで済ませてからホテルを出る。
「さてと……」
これからどうするのか?
浦賀輪区への行き方は聞いているけれど、肝心の入り口の見つけ方はまだよくわかっていない。
わかっていないというか、僕にはできないと言うべきか。
真白はわかるらしいのだけど……。
「あ、ありましたよ」
ホテルを出て道なりに歩いているとジャケットの内ポケットから顔を出していた真白が告げる。
「どこ?」
「すぐそこの街路樹の根元です」
「やっぱり見えないなぁ」
「不思議ですねぇ、旦那様ならもう見えていてもおかしくないのに」
真白の説明だと、そこに霊力でできた入り口があるのだそうだ。
鳥居のような形になったそれは東京の各地に存在し、呪力を吸い取るのだそうだ。
それは呪力吸い取り機であり、同時に裏東京に入るための入り口でもあると……。
「とにかく、入ってみましょう。旦那様」
「触れればいいんだよね?」
「はい」
見えない物を触るってどうすればいいのやらと思いながら手を伸ばしてみる。
ふっ……と。
周りが暗くなった。
停電でいきなり部屋の明かりが全部消えたような感覚にびっくりして周りを見ると、ビルだらけだった光景にも変化が起きていた。
木造建築の建物がそこら中に並んでいる。
高くて二階程度の低い建物ばかりだ。
そして、道路が土を踏み締めただけになっている。
「江戸時代?」
なんか時代劇とかで見たことがある光景に似ているような?
「裏東京は江戸の頃に作られたそうですから」
「そういう問題?」
「こちらは都市開発などをする必要もないですからね」
「ああまぁ……」
と、僕は視線を一点にとどめた。
「あんなのがうろついているところに人は住めないか」
「ええまぁ」
僕が見ている前で建物の上に持ち上がっていく巨大な首。
巨人……じゃなくてとんでもなく大きな首が空を飛んでいるのだ。
それだけじゃなく、夜のような暗い空間をほの赤く照らしているのは街灯や星ではなく、ゆらゆらと揺れる鬼火だ。
すぐそばを誰かが通り抜けていき、そしてすぐに消えてしまう。
それを追って視線を動かしていると、遠くから百鬼夜行みたいなのが近づいてきた。
「ここは東京……いえ、いまや日本中の呪力が集まる街、裏東京です。普通の人が住む場所ではありません」
「そっかぁ」
「そうなんです。だからとりあえず」
「うん」
「逃げましょう」
「逃げよっか」
百鬼夜行は、明らかに僕たちを目標に接近しようとしていた。
大きな馬車……じゃないや、牛車だっけ? それを中心に変な集団が追いかけてくる。
牛車を引いているのは牛じゃなくて、二つの頭を持つ亀だったりする。
なら、亀車と呼ぶべき?
それもなんか変だな。
牛車の周りには鬼火が飛び交い、いろんなものが取り巻きみたいに付いてきている。
人の足だけだったり、燃えている四つ足の動物だったり、骨だけの鳥だったりの生き物っぽいのだけでなく、掃除機だったりテレビだったり、デスクトップパソコンの本体だったりに手とか足とかが生えて走っている。
あれが付喪神というものなのだろうか?
そんな気味悪い集団に追いかけられるのだけど、鍛冶修行とアイテムボックスの整理で鍛えた身体能力で全力疾走すると、すぐに引き離すことができた。
「ああ、怖かった」
「気をつけましょう。あまり派手なことをすると、赤葉羽家の人に発見されてしまうので」
「そうだね」
真白の注意に頷きながら、僕は目的の場所を探すことにした。
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