TokiO
東京にやってきた。
なぜかヒットマンの気分にさせられてやってきたけれど、もちろんそんなことはない。
空港を出ると堂城家の者だという人物がすぐに僕を見つけてくれた。
真白は蛇状態でジャケットの内ポケットにいたのにすぐに見つけたから、堂城さんが僕の写真を向こうに提供しているということになる。
SNSに顔写真が出るよりも変な緊張感があるのはなぜだろう?
ホテルまで車で運んでくれるとのことだったので、素直に好意に甘えさせてもらう。
余計なことを話さない寡黙な運転手さんだった。
僕としてもなにを話せばいいのかわからないので助かるのだけど……高級車の後部座席に一人でいるのはなんだか緊張する。
真白はジャケットの中で静かにしているし。
堂城さんに乗せてもらった時は、あくまでも堂城さんのおまけ的ポジションでいられたからよかった。
だけど一人だと、この高級車は僕のために走っているということになるわけで……それがすごい緊張させる。
ホテルに到着すると自分でドアを開けることも、荷物を持つことも許されない扱いで中に通され、チェックインの必要もなく部屋へと案内された。
ホテルなんて……修学旅行で使ったのしか覚えがないけれど、部屋は間違いなくスイートとかVIPとか、通常料金では絶対にあり得ないような広さだった。
うちよりも間違いなく広いんだけど?
「持て余すなぁ」
「ふふふ、そのうち慣れますよ」
「いや、これに慣れたらあそこに戻れないよ」
ジャケットから出てきて人の姿になった真白に僕は言う。
「はぁ……ここに何日もいることになるのか」
「ううん、それはどうでしょう?」
すでに金持ちの空気に疲れ始めた僕に、真白が首を傾げる。
「裏賀輪区に入ってからの私たちの用を考えると、成功すればすぐに帰ることになりますし、何日もかかるようだとホテルに戻れない可能性もあります」
「あ、そうなの」
「裏七区の入り口である裏賀輪区、その主人である赤葉羽家の屋敷に忍び込むのですから、簡単なことではありません」
真白が硬い表情で言う。
その空気を受けて、僕も生唾を飲み込んだ。
「ですが、旦那様ならきっと大丈夫です! 義姉上様の助力もありますし!」
「ああ、あれね」
真白が言っているのは姉からもらった変身スーツだ。
危険なことをする自覚はあるのだから、もちろん持ってきている。
というか略唱紋は体に刻んであるのだから、いつだって変身可能だ。
「それより、もう夜です。晩御飯にしましょう」
「そうだね、どうしようか」
「どうせならホテルのご飯にしませんか? 実家持ちですからなにを頼んでも問題なしです!」
「あははは……ううん、それじゃあ……」
ホテルにある店に行く?
いやぁ、そんな高い場所で食べるような服は持ってきていないし。
「あっ、部屋に持ってきてもらうこともできるか」
「ルームサービスですね! なにを頼みましょう⁉︎」
嬉しそうにする真白と一緒にメニューを見つけて相談する。
そのうちに気が大きくなってなんかすごいステーキを頼んでしまった。
うん、めっっっっちゃ美味しかった。
材料がいいのもあるんだろうけど、やっぱプロの料理人ってすごいんだなって思う。
この人たちに異世界の食材を渡したらどうなるんだろう?
気になるけど、実現はしないんだろうな。
真白と楽しく食事をして、それから風呂に入る。
よくわからない操作にあたふたしながら体を洗い終えて出てくると、なぜか真白が緊張した様子で僕を見ていた。
「どうしたの?」
「旦那様……」
緊張している真白を見ているうちに僕の危機感も起き上がってきたけど、彼女がそらした視線を追いかけている内に、あ、これは命の危険じゃないとわかってきた。
部屋の壁の一方がなくなって、遥か遠くを写している。
「姉ちゃん?」
「やっぱりそうですよね!」
真白が真剣な顔で確認してきた。
「なにこれ?」
「いきなりすごい霊力が向こうに現れて、壁に定着したんです。でも、感じ慣れたものだから、もしかしたらって……」
つまり、真白にはいつも通りにあそこには壁があるようにしか見えていないってことか。
それでいて、霊力を感じると。
「どうしましょう?」
「どうしましょうって、まぁ、僕のせいだろうから」
行ってみるしかないよな。
「姉ちゃん?」
「あ、アキヤ? おかえり〜」
「ええと、ただいま」
中に入ってみるといつも通りのアイテムボックスの光景だ。
声をかけると、こちらもやはり姉の声。
「どういうこと?」
「なにが?」
姉にわかっている様子がないので、僕は状況を説明した。
「んまっ! アキヤったらお姉ちゃんよりも先にアキバデビューする気なのね! 許せないわ! 許せないわっ‼︎」
「そういう問題?」
姉のおふざけは脱力で受け流す。
「それ以外になにがあるっていうの?」
「入り口がこっちに来てる問題だよ」
「ああ、それ?」
姉はなんでもないことのように言った。
「そんなの、アイテムボックスはアキヤと繋がっているんであって、あの部屋に繋がっているわけじゃないから、よ」
「は?」
「あのね。私がそっちの世界に心残りがあるとしたら、アキヤだけよ。あの部屋に未練があると思う?」
「ああ、いやううん」
それはまぁ、そうかな。
「つまり、アキヤが移動すれば、アイテムボックスも追いかけてくるっていうこと、移動するまでのタイムラグは要検証ってところみたいだけどね!」
「なるほど……」
それはつまり……姉も弟のことは心配してくれているってことか。
なんか、そんな風に言われると……照れるな。
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