赤葉羽邸
『赤葉羽邸』
フードスーツさんに渡された情報はその名前だけだった。
それだけだと僕にはわからないのだけど、堂城さんはわかったようだ。
僕だけだと途方に暮れたかもしれないので、やはり堂城さんがいてくれてよかった。
うん?
真白もわかっていた。
そうかそうか。
「気を付けないとダメな場所よ」
翌日、堂城さん宅へ呼ばれて最初に言われたのがその言葉だった。
玄関近くの応接室で、堂城さんが赤葉羽邸について教えてくれることになっているんだけど……。
「東京にある浦賀輪区に……」
「待って待って待って」
当たり前のように出てきた単語に、僕は待ったをかける。
「裏賀輪区ってなに?」
東京二十三区に裏賀輪区なんてないよ?
「呪術的に隠蔽された裏東京の一区よ」
「なんか真面目に変なこと言い出した〜」
普通に呪術とかがある世界だったの? 僕のいる日本って?
びっくりだよ。
「香澄の言っていることは間違いではないぞ。莉菜の弟よ」
ソファで仰け反っていると、屋敷の奥から清十郎さんが顔を出してきた。
「お父さん」
「元気に過ごしているようだな。真白よ。霊気を見ればわかるぞ」
「はい! とてもよくしてもらっています!」
「うむうむ」
清十郎さんは満足そうに頷きながら、堂城さんの隣に腰を下ろした。
「話を戻すが、莉菜の弟よ、そんなことで驚いていては向こうで大変だぞ?」
「いや、それでも現実を改変されているわけですから」
「そもそも。目の前にいるのは蛇の神。お前は蛇を嫁にとっているのだぞ? これまでの現実なんぞにこだわっている場合か?」
それはそうかもしれない。
だけど……いやまぁ……そうか。
「わかりました。がんばって受け入れます」
「がんばらんでもいい。自然と受け入れればいいのだ。唐突な常識の改変に戸惑っていると、その隙にやられるぞ」
なにをやられるんだろう?
「ええとそれで赤葉羽邸というのは?」
話を戻そう。
戻れるかな?
「裏東京には七つの区があるわ。裏賀輪区はその入り口に相当する区で赤葉羽家が実質的に支配している。ああ、裏東京の七区を支配している家は、全て呪術の名家よ」
「東京を呪術的に支えるために存在するのが裏東京だ」
「……はい」
いまは黙って受け入れよう。
「なら、姉の遺体の一部を持っているのは呪術の使い手、ということになるんですね」
清十郎さんもいるので、話し方がちょっと丁寧になってしまうな。
「そういうことになるだろうな。というか、道理通りの話で意外性はない。だが、莉菜の遺体がそのようなことに使われていると考えればとても腹立たしい」
「はい」
それは僕も同意見だ。
異世界転生した姉の存在が珍しいし、その影響を残した遺体が特別な存在になったっていうことまでは理解できる話かもしれない。
だけど、だからってそれをバラバラにしてオカルトなことに利用しようっていう話には、納得できるはずもない。
遺族の権利として取り返させてもらう。
「あるいは莉奈の遺体を奪う行為は裏七区の家々を敵に回す結果になるかもしれん」
清十郎さんは腕を組んだままそう言った。
「だがかまわぬ。その時は堂城家がお前の味方になると覚えておくがよい、莉菜の弟よ」
「……ありがとうございます」
「裏賀輪区への入り方は真白が知っているから問題ないわ」
「はい」
と堂城さんが言う。
真白も頷いている。
「東京までは普通に移動すればいいから。あっ、これ飛行機のチケットね。夕方の便で行けるわ」
「え?」
「ホテルもGW中は確保しておいたわ。望めば延長も可能だから遠慮なくフロントに言いなさい」
「あ、えっと、どうも」
「学校の方は私がうまくしておくから気にしなくていいわよ。追加の情報があったら遠慮なく確保に動きなさい。一度狙っていると分かれば、向こうも守りを厚くするかもしれないから」
「あ、はい。ええと……」
あれ?
移動と宿泊の準備をしてくれている。
いざとなったら学校の便宜も図ってくれる。
それはいいんだけど……。
あれ、これってなんか……なんか……。
「ヤ●ザの鉄砲玉にでもなったような気分なんですけど?」
「気のせいよ」
「気のせいだな」
二人揃ってにっこり笑っているのが、信用できない。
「お望みなら拳銃を用意しましょうか?」
「少々時間はかかるが、望みの物があれば用意するが?」
「……いえ、けっこうです」
できるんだって言葉を飲み込み、僕は丁重に断った。
「あっ」
それから、渡し損ねていた隣の保冷バッグのことを思い出した。
思い出したんだけど……。
「堂城さん、ちょっと」
と、清十郎さんから引き離して廊下で内緒話。
「清十郎さんには、姉のアイテムボックスのことは?」
「ああ、話してあるわ」
「なるほど」
「勝手に話してごめんなさい」
「いや、それはいいんだ」
むしろ、これが無駄にならなくてよかった。
「これ、姉から僕のバイトを手伝ってくれたお礼だって」
「あらあら!」
「ワイバーンの塊肉1kgです」
もっとあげられるぐらいたくさんあるんだけど、いきなり大量の塊肉を渡すのも非常識だよねと、これぐらいにした。
「……ワイバーン?」
「ワイバーンだよ」
堂城さんは、保冷バッグと僕を交互に見る。
「あなたの常識もけっこう壊れている自覚はあるのかしら?」
ため息まじりに言われてしまった。
自覚はあるけど、これはもう共有した非常識だと思っていたよ?
よろしければ、励みになりますので評価・ブックマークでの応援をお願いします。
下の☆☆☆☆☆での評価が継続の力となります。
カクヨムで先行連載していますので、よろしければそちらの応援もお願いします。




