燃えたろ?
指輪を付けた右手が燃えた。
びっくりしたけれど、別に熱いわけでもない。
扱い方が悪いのかと何度か試してみたけれど、結局、火球を飛ばすことはできなかった。
でも、それで木の枝とかを触るとちゃんと燃え移るので、幻とかではないらしい。
使い道はあるだろうけど、なんか使いにくくないかな?
いや、それを言い出すとそもそも戦闘を視野に入れているのがおかしいんだけど。
「なんでだ?」
「実力の違いかしら?」
ガックリとする俺に、堂城さんが冷静に推測する。
「でも、実力なら練習すればできるようになりますね!」
そして真白は前向きに応援してくれる。
応援されるがままにその夜は眠くなるまで練習したけれど、火球が飛ぶことはなかった。
翌朝、僕たちは大して広げることもなかった荷物をまとめて洋館を出た。
無人島、洋館……なにも起こらないはずがなくって思うわけで、いや、問題は起きたんだけど、思ったよりもあっさりと終わってしまった。
僕たち以外にも人がいたら殺人事件とか起きたのかもしれないけど。
これでよかったのだろうかと思うのだけれど、船着場に行くと高速フェリーとともにフードスーツさんが待っていた。
「無事にお仕事が終わりのようでなによりです」
「あ、これで終わりでいいんですか?」
「ええ。それで、なにが起きたのかをお教えください。あなた方の口から語られることが重要なのです」
フードスーツさんにそう言われ、僕は体験したことを語った。
真白と堂城さんにも語ったので、二回目だから前よりも上手くできたと思う。
「なるほどなるほど」
フードスーツさんはそんな僕の話を興味深い様子で聞き続けた。
「よくわかりました。やはりあなた方にお任せして正解だったようですね」
「では、報酬は?」
「ええ。もちろんご用意しておりますよ。とりあえず船にお乗りください」
フードスーツさんに促されて、僕たちは船に乗った。
高速フェリーが動き出し、海の上を滑るように移動していく。
「仕事の成果は十分でした。そしてそちらの希望する報酬は情報ということでしたので、こちらを」
そう言って、僕に封筒を向けてくる。
「どうぞ」
「あ、はい」
「この中にご希望のものに関する情報があります。さすがに全て、というわけにはいきません」
そう言われてから封筒の中身を確認する。
便箋には一つの名前が書かれていた。
「ここに?」
「はい。お探しのものの一部があります」
一部。
姉の遺体の一部。
異世界転生した姉の遺体は、オカルトな意味で特別な存在となり、無数に分割されて秘密のオークションにかけられた。
その一部がここにある。
「たったこれだけしか見つけられなかった、というわけではないでしょう?」
「それはそうですが、いま、取り戻せる可能性の高い情報を厳選して提供させていただきましたので」
「別が欲しければ、また依頼を受けろと?」
「これぞ、win-winというものでしょう?」
「そうね」
動じないフードスーツさんに堂城さんはため息で応じる。
「堂城さん、いまはこれでいいよ」
「尾羽くん」
「いきなり全部の情報が手に入っても、どう動くかに迷うだけだし」
一つしかなければ、そう動くしかない。
もしかしたらなんらかの意思を働かせているのかもしれないけれど、そもそもこんなわけのわからないバイトを用意してくるような存在の思惑なんて、どうやって防げばいいのかもわからない。
わからないことはどうしようもない。
「いまはこれでいいよ」
「尾羽くんがそれでいいならかまわないわ」
「確実な一歩からですね、旦那様!」
「うん」
そういうことだと思う。
「それに、この場所ならGW中に行けそうだね」
なにしろ国内だ。
「はい。ねっ、お母さん!」
「ええ、そうね」
真白に促されて堂城さんが頷いている。
あ、次も付いてくるんだ。
という言葉はグッと飲み込んだよ。
来てくれた方が心強いのはそうなんだけど、真白が誘うとは思わなかった。
「おっと」
会話も落ち着いたところで、フードスーツさんがいきなりそう呟いたかと思うと、外を見るための窓ガラスが全て黒く染まっていった。
車の窓のスモークフィルムみたいだ。
映画とかだと透明から黒に変わったりするけど、あれって可能なのかな?
それにしても、なんでいきなり?
「ただいま外に見てはいけないモノが出現しております。中は安全ですので、どうかお席から離れないようにお願いします」
フードスーツさんがなんか怖いアナウンスをするんだけど?
どういうこと?
真白と堂城さんを見ても、なんか困った顔をしているだけだ。
「旦那様、大丈夫ですのでここは動かないようにしましょう」
「しつこいわね」
真白は俺を心配してくれているけど、堂城さんはさらになにかを理解している様子だ。
「どういうこと?」
「この船の中に取り返したいものがあるんでしょ」
「取り返したいもの?」
「あの島にある内は手を出せなかったけど、出てきたから取り返したい」
え?
「それって……」
なんだか思い当たるものがあるんだけど。
隣に置いてある荷物の中にある物とか?
いや、それしか考えられない。
「返さない方がいいわ」
と堂城さんは言う。
「どう考えてもそこから逃げてきていたのだから、捕まるのは不幸よ」
そう言われて、洋館の二階で体験した船の場面を思い出した。
「それなら……」
「運命が巡っているのだから、最初の予定通りにすればいいのよ」
「予定通り?」
それはもしかして、姉にあげるっていうこと?
「それで全てはうまくいくのよ」
堂城さんが涼しい顔で断言するものだから、僕もそういうものなのだと納得するしかない。
席に座り直し、スモークフィルム越しに海を見つめる。
揺れる海面の隙間からあの巨大タコの大きな触手が何度も覗いていたような気がした。
黒くてよく見えなかったから、あるいは気のせいかもしれないけれど、そんな執着のようなものがべっとりと船全体に張り付いているように感じられて落ち着かなかった。
それでも地元の港に到着する前には、綺麗になくなっていた。
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