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僕の部屋がアイテムボックスになった件  作者: ぎあまん


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孤島の歴史探訪



 いきなり嵐の海で巨大タコと死闘させられた。

 いや、僕って普通の……まぁ低めの家庭環境ではあるけれど普通の日本人(ニッポージン)なわけで、荒事なんて体育の授業で柔道を少々ぐらいな経験しかないんだけど?


 え?

 斜九字との一件?

 あれは、ほら……緊急を要していたわけで、動かなければ命が危なかったわけで……。


 まぁ、いまもそうではあるのかもしれないけれど。


「はぁ……一気に終わらせよう」


 濡れてはいないけれどなんか全身が磯臭い。

 体のあちこちに海塩の粒が張り付いているような不快感を覚えながら一応は客室の中を確認した後で、次の部屋を開ける。


 もう、次々と開けた。






 なにもない島の中で男女二人が生きているようだった。

 僕が到着した時にはその島の地下空洞を住居にしていた巨大ウツボに襲われているところだった。

 僕とフードの男は協力して巨大ウツボと戦い、巣の中に引き摺り込まれていた女性を救った。






 顔が魚の魚人村の中に放り出されてしまった。

 変身する暇もなく捕まってしまってどうなるのかと思ったけれど、運ばれた地下祭壇で待っていたのは人魚の女性だった。

 危うく性的な意味で捧げられそうになったので、なんとか逃げ出す。

 人魚の女性は鬼みたいな顔で追いかけてきて怖かった。

 いや、ほんとに怖かった。





 砂浜に髷頭の男が流れ着いていた。

 彼は女性にたすけられて、数日を過ごして通りがかった船に救助された。

 数年後おそらく、商人のような格好になった男が、大量の資材と共に島に戻ってきた。

 男は故郷で富を築き、この島で暮らす準備を整えて戻ってきたのだ。

 こうしてあの洋館は出来上がった。

 そういう光景を動画の倍速再生みたいな速度で見守ることになった。





 最後の扉を開けると、海辺に佇むフードの男がいた。

 嵐の海で巨大タコと戦ったあの男のはずだ。

 彼は火の番をしていた。


 フード付きのローブはもうボロボロでその中から見える顔の髭は白く、皺深い顔は日に焼けて黒ずんでいた。


「やあ、あの時の君だな」


 聞き慣れない発音で話しかけられたのに、なぜか言葉の意味がわかった。


「私にとっては久しぶりだが、君にとってはどうなのか」


 その質問に僕はどう答えていいかわからず、沈黙を返すしかなかった。


「どうやら我々は、なにやらおかしな場所に取り残されてしまったらしい。昔ほどに空気に魔力を感じない。私の魔法はもう役立たずとなった。今では彼女が採ってきてくれる魚や貝がなければ生きることさえ難しい」


 そんな彼の前にある火では、なにか魚を焼いているようだ。

 なにやら美味しそうな匂いがして、僕はさっきまで感じていなかった空腹を覚えてお腹を押さえた。


「ああ、こいつの匂いか?」


 男はそう言って、近くの枝を拾って日の中にあるなにかの塊を突いた。

 炭に汚れるのもかまわずに火の中に放ってあるのはなんだかおかしいと思ったけれど、そのあまりの美味しそうな匂いに、そういう料理方法なのだろうと納得した。


「いるならやるが……あまりおすすめはしない。私の故郷では、昔から彼女の肉は食うなと言われているからな」


 彼女の肉。

 その言葉で、燃え上がるほどに増大していた食欲が少しだけ収まった。


「それなのに、彼女はこっそりとこの肉を混ぜてくる。どうやら私の死期が近いらしい。焦っているのだろうな。海に返すとどんな影響があるかわからないから、彼女が漁をしている間にこうして燃やしているんだが、この匂いのおかげで毎回試練だ」


 そう言って、男は乾いた笑いをこぼした。


「私は、彼女を食べたいんじゃない。ただ、愛しただけなんだ」


 寂しそうに男は呟いた。


「だが、ダメだな。ダメだった。私はこの島に災厄を残してしまったのかもしれない」


 枝に刺さった肉を火の中に投げ戻した男は、僕に近づいてきたかと思うと手にしていた指輪を外して握らせてきた。


「あるいは君にこそこれが必要になるのかもしれない。魔力のないこの場所といまの私ではもはや意味のないものだが、君ならばあるいは……」


 フードの奥に隠れていた顔の上半分が見えた。

 目が潰れていた。


「私たちの仔が気付く前にもう行きなさい」


 仔?

 それはあの……。


 答えを得る前に、またドアノブを握った姿勢で洋館に戻ってきた。

 左手にはあの指輪が残っている。

 これで全ての部屋を見て回ったことになる。


 下の階に戻ると、すっかり部屋の掃除は終わっていた。


「おかえりなさい、旦那様!」

「お疲れ様、すっかり磯臭くなったわね」

「はは……」


 真白と堂城さんに出迎えられ、ホッとした。


「なるほど」


 ペットボトルの水を飲みながら二階での体験を話すと、堂城さんは頷き、それからテーブルの上に置いた指輪を見た。

 肉厚で幅もある指輪で、見た目にはどの指にはめてもブカブカになりそうなのだけれど、不思議と僕の右の人差し指に差し込むとピタリと収まる。

 だけれど、外す時にはするりと外れてしまうという不思議な指輪だ。


「嵐に飲まれてこの島に流れ着いた二人の歴史を体験してきた、というわけね」

「体験というか、半映画みたいな気分だったというか?」


 体験というなら、あの男の視点にならないといけないはず。

 だけど僕はそこに紛れ込んだ第三者みたいな感じの扱いになっていた。

 いや、一つだけ、主人公みたいな時もあったかな?

 鬼の顔をした人魚。

 あれは、あの男と一緒にいた彼女のもう一つの姿だったのかな?


 一緒に島にやってきた男を失ってあんなになってしまった?


 そして、魚人たちはあの二人の子供たちということ?


 人魚の肉を食べれば不老不死になる。

 肉を食べれば死ななかった男に対して、人魚はなにを思ったのか?

 僕を見て、鬼の顔になったのは……そういうことなのか?


 そうして、だから……次に遭難してきた髷頭は、女にとってどんな結末をもたらしたのだろうか?

 朽ちてしまった洋館には僕が知ったその先を教えてくれるものはない。

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