戦慄巨大タコ
食後のお茶休憩……といってもペットボトルのお茶だけど……をしつつ、これからの予定を話し合う。
廃墟で野宿は決定しているので、堂城さんと真白にはあの部屋の掃除をがんばってもらう。
そして僕は二階探索を続ける。
二階には全部で六つの部屋。
その内一つが終了して、残り五つ。
全部がこんな感じなのかな?
不安になりながらも、二階に上がる。
念の為に最初の部屋を開けて見たけれど、なんの変化もなく客間っぽい空間があっただけだった。
窓なんかも割れていないし、埃っぽい空気と蜘蛛の巣以外は荒れた様子もない。
「異常なし」
声出し確認で扉を閉め、今度こそ隣の部屋に向かう。
扉を開けると……そこは嵐の海だった。
いや、船の上?
いつの間にか扉が消えて、僕は激しく揺れる甲板の上で足を取られて転んでいた。
右に左に転がったり吹っ飛ばされたりしながら、ここでようやく、嵐の海にもまれる木造の船の上にいるのだと理解する。
船は帆船だったのかな?
メインの帆柱っぽい物が折れている。
ついに海に投げ出されそうになったところで、切れて暴れている綱を掴んで落ちるのを堪える。
真っ黒に暴れる海面で、そうか夜なんだと思う。
理解の順番が無茶苦茶だ。
そして、暴れる海を割って現れるぬるぬるした巨大な触手。
船の後ろを見ると、特徴的な丸い胴体がのしかかっていた。
巨大タコに襲撃されてる。
嵐と巨大タコのWパンチって酷すぎない?
「ああもう、びちゃびちゃだ」
顔に当たる雨粒なのか波飛沫なのかわからないものに不快を感じる余裕もできた。
というか、ようやくまともに思考できた。
現状を理解するまでが大変だ。
ここでようやく、変身して身を守ることを思いつくんだから遅すぎる。
とはいえ思いつかないまま死んだわけではないので、とにかくこれで良しと思うしかない。
ウィングアームドで空を飛ぼうとしたけれど、翼を開いた瞬間に吹っ飛ばされそうになったので中止した。
だめだ。
この暴風だと飛行を制御できない。
とにかく船の上に戻るために綱をたぐっていると、船から火の球が飛び出して巨大タコの胴体を撃つという場面を目撃した。
いままで気付かなかったけど、船の後ろ部分では巨大タコとの戦いが起きていたみたいだ。
それは誰?
というか火の球って?
火矢だったりはしない?
いや、火矢じゃない。
ここからでも見え隠れしているけど、人の手の先から何度も火球が射出されて巨大タコを撃っている。
魔法?
だとしたら、ここは地球じゃなくて……異世界?
どういうことなのかと思ったけど、答え合わせは後で真白や堂城さんに報告した時にしようと決めた。
あの無人島の来た時点で、すでにわけわかんないことになっているのだから、そこにさらに一つや二つ異常事態が増えたからって慌てていても仕方ない。
「なにかすべきか、ただ見守るだけでいいのかもわからないけど……」
とにかく、あの巨大タコをどうにかしないと船が沈むっていうのは確実だ。
いつ戻れるかわからないのだから、それは防がないといけない。
「ええと……」
綱がバタバタして船に戻るのも一苦労なのに……と。
ここで、考えを変えた。
「こういう時、アクションシーンだと」
どういう展開になる?
ただ綱を登って船に戻るだけじゃ格好が付かない。
揺れに合わせて……って、いきなりの激しい波が船を持ち上げ、宙に放り投げた。
そんなことってある?
タイミングを合わせて船腹を蹴って巨大タコに襲いかかってやろうと思っていたけど、それどころじゃなくなった。
だけど、宙に舞う他の綱が見えた。
閃いた。
その綱を掴んで移動、で、また掴んで移動……と繰り返してみたら、なんとか巨大タコの上に到達できた。
そして、ここから……。
船が着地したタイミングの縦揺れを利用して……キック!
胴体に衝撃が突き抜け、ぬるぬるの表面で何重にも波紋が走る。
巨大タコの触手が僕を捕まえようとしたので、さらに蹴って跳躍する。
でも、滑っているから力が入れにくい。
あんまり跳べなかったのだけど、火球が飛んできて触手を焼いてくれた。
そっちを見てみると、柱にしがみ付いてこちらを見ている二人がいる。
片方がローブ姿の男……かな?
こっちが火球を飛ばしている。
もう片方の女性もローブ姿なんだけど、こっちはフードがめくれて顔が露わになっている。
金髪の女性だ。
色々と大混乱中なので容姿までちゃんと見ている暇はなかった。
だけど……ビシャビシャに濡れているのに美人なのがわかるぐらいに美人だった。
船には他に人が乗っている様子がない。
全員海に投げ出されたのか、それとも最初から二人だけだったとか?
この規模の帆船って男女二人で動かせるのか?
ううん、わからない。
それからは綱を使って跳び回りながらキックを浴びせ、男は火球を撃ちまくった結果、ついに巨大タコが船から離れていった。
これで勝ち……かな?
……と思ったところで、景色が変わった。
「え?」
ドアノブを握った姿で固まっている僕がいる。
変身はしていない。
全身がずぶ濡れでもない。
だけど、僕の周りには濃密な磯の臭いがした。
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