隠しアイテムと歪な三角運動
謎の白無垢が手に入った。
前回のバイトでは持ち帰る物があったので、今回もそうなるかもしれないと予備のスポーツバッグを持ってきてたんだけど役に立ちそうだ。
空になった白無垢を折りたたんでその中に……。
「うん?」
「どうしました、旦那様?」
「なにか、布の奥に感触が」
布越しに触ってみるけど……キャベツ二個分くらいの大きさの物がある。
布越しでも、ゴワゴワとして硬いのがわかる。
ええ……このまま確認せずに持ち帰るのは嫌だな。
でも、見るのもなんだか怖い。
とはいえ、堂城さんは姉にあげると言っているし、となると最終的には僕が確認するのは決定のようなものだし。
中身も知らないまま持ち歩くのも怖いし。
「仕方ない。確認するよ?」
「はい、旦那様、がんばってください」
「よろしくね、尾羽くん」
二人に確認をとってから、白無垢を開いてみる。
なんか、黒っぽいものがそこにある。
生き物っぽい?
頭があって、手があって……全身にこびりついているのは、もしかして髪の毛かな?
拳を握って丸くなっているような姿勢で、下半身は……これ、魚だ。
そして、やっぱりカチカチだ。
乾物みたいに硬い。
「人魚のミイラね」
「え?」
これが?
なんかどこかの寺にあるとか言う?
「それとは違うけれど、これも人魚のミイラね。もしかしたら地上に打ち上げられたら、防衛本能としてミイラになったりするのかしら?」
出てきたそれを指でつつきながら堂城さんが言う。
「それってつまり、この人魚はまだ生きている?」
「食べれば不老不死になる肉の持ち主が、不老不死じゃないというのは考えられなくない?」
ああ、それはそうかも?
「……と、言ってみたけれど本当のところはわからないわ」
ただの予測と堂城さんは肩をすくめた。
「堂城さんも人魚のことは知らないんだね」
「それはそうよ。会ったことがないものは知らないわ」
「それもそうか」
正確なことが本にまとめられていたりするわけでもないし。
……ないんだよね?
そう思っていたら、真白が爆弾を投げた。
爆弾発言ね。
「お母様にも知らないことがあるんですね」
「っ⁉︎」
いや、真白もそんなに深い意味もなく言ったんだと思う。
なのに、堂城さんはすごいショックを受けた顔をした。
真白が「あっ、しまった」みたいな顔をしている。
「お……」
「お?」
「お母さん! ちゃんと博識になるからね!」
「あ、ごめんなさい。そこまでは望んでないです」
「子供の望みを全て叶えてこそ母親!」
「それはそれでダメだと思います」
号泣する堂城さんと冷静に対応する真白。
冷静に突っ込む真白は、堂城さんに似てる気がするな。
この親子にだけ通じるノリを見せられて、僕は傍観者に徹することにする。
いきなり混ざるのは難易度が高すぎるし……ていうか混ざるな危険だと思うし。
そんなことより問題はミイラだ。
「これも持ち帰って大丈夫なのかな?」
「ダメなら持ち帰れないから心配しなくても大丈夫よ」
俺が質問すると、普通に平静に戻るのも怖い。
その温度差が怖い。
けどまぁ、それが堂城さんなんだろうから、あれこれ言ったところで仕方がない。
「それなら……」
と人魚のミイラを白無垢の中に戻して、包むようにしてからスポーツバッグに入れておく。
改めて部屋を見てみる。
窓を開けて埃を払い出していたみたいだけど、まだまだ埃っぽい。
時間を確認。
お昼の時間だ。
「とりあえずお昼ごはんって思ったけど……外で食べる?」
「そうしましょう!」
「ええ、いいわよ」
二人が賛成したので、持ってきた荷物から弁当を取り出す。
日持ちしないのから食べていかないとな。
安全に座って食べられる場所を求めていたら、結局船着場の辺りまで戻ることになってしまった。
レジャーシートを広げて三人でそこに座り、弁当を開ける。
中身は、ザ・玉子弁当だ。
そぼろご飯に厚焼き玉子、そして唐揚げ。
彩りにブロッコリーというシンプルな料理。
唐揚げの鳥肉はコカトリス、そぼろは玉子と肉の二色で、肉の方はオークを使っている。
ミンチを作る機械がないので自分で刻んだから、ちょっと荒いのはご愛嬌。
「さあ、真白、あ〜ん」
「いえ、いいです」
「そんな!」
「お母様、ましろはもう人妻なんですからね」
「でも、お母さんの子でもあるのよ!」
「いや、でも……」
「うう……」
「じゃあ……ましろは旦那様にあ〜んをします!」
唐突に巻き込まれた。
「え? えっと……じゃあ僕は、堂城さんにあ〜んをするわけ?」
あ〜ん三角形の完成だ。
清十郎さんにバレたら殺されそうだから本当にやる気はないけど。
「旦那様のあ〜んはましろにじゃないとダメです!」
「わかった、じゃあそれで」
というわけで、歪なあ〜ん三角形が開始される。
堂城さん→真白→僕→真白。
堂城さん→真白→僕→真白。
堂城さん→真白→僕→真白。
堂城さん→真白→僕→真白。
「私、食べられないわね」
「モゴモゴモゴーーーー‼︎」
堂城さんがこの状態の欠陥に気付き、そして二人から口の中にご飯を放り込まれた真白は口がパンパンになっていた。
結局、みんなちゃんと自分の弁当を食べることになった。
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