素直に浮気者と言って欲し……いや欲しくない
謎の生贄? 女性を抱えて一階に戻ると、掃除中の二人にすごい顔で見られた。
「旦那様……」
「尾羽くん……」
「いや、僕は悪くない」
そもそも悪い悪くないの話か?
「いきなり女を拾ってくるとは、尾羽くんはハーレム体質なのね」
「うう、ここは正妻の度量を見せるところ」
「なんか変な解釈してるよね?」
違うし。
いっそ素直に浮気者と叫んで欲しい。
……いや、そんな修羅場は経験したくないな。
「そんなんじゃないから」
と言いつつ、ソファに抱えている女性を下ろす。
で、改めて観察する。
女性と判断して運んできたけど、その女性は薄汚れた白無垢を着ていた。
色は綺麗な白なんだけど、なんだか古さがある。
生地の繊維があちこちほつれていた。
そういえば手触りがあまり良くなかったような?
いや、いまさら触って確認するわけにもいかないし、曖昧な記憶だけど。
とりあえず顔を確認。
角隠しの下にはしっかりと化粧した女性がいる。
いや、この人金髪か?
目を閉じているからわからないけど、肌も白いし白人ぽい。
あっ。
なんかいまさらだけど、海の匂いがした。
「しかも人魚なんて……私が言うのもなんだけど、尾羽くんは人外が好きなのかしら?」
「……は?」
僕が鼻をひくつかせていると、堂城さんがそんなことを言う。
「人魚?」
なに言ってんだ? と思いつつ、女性の足元を見る。
白無垢の足元がすごく長くて、爪先も見えない。
襟元? が少しめくれて、裏地の赤が見えていて……そしてその奥に青い鱗が見えた。
僕が固まっていると、堂城さんが手を伸ばし、下半身の合わせ目を剥がす。
はっきりと見えた。
下半身がしっかりと魚だった。
「人魚?」
「人魚よ。食べれば不老不死になれるそうだけど、食べる?」
「これを食べるのは……」
と、言いかけて、すでに人型のオークを山ほど解体していることを思い出した。
そしてそれをカツ丼にして、ここにいる三人で食べてもいる。
なんか、動揺が急に消えた。
できるできる。
そう思いながら冷静に解体方法を考えている自分に気付いて、頭を振る。
おっと、ここはアイテムボックスの中じゃなかった。
「いや、不老不死には興味がないから」
「そう? とはいえ、本当に不老不死になるのかどうかは不明だけれど」
「そうなの?」
「だって、当人である八百比丘尼に会ったことがないし」
「そうだけど……本当にいるかどうかもわからないし」
「いえ、清十郎さんが三百年ほど前に会ったことがあるそうよ」
「え? そうなの?」
生き証人がいた。
いや、生き証神(蛇)か?
「人魚の肉を食べて長生きになった者はそれなりの数いるそうだけれど、現代では見ないでしょう? 巧妙に隠れるにも限度があるし、人魚の肉の効能が切れたのか、あるいは生きるのに飽きたのか。即身仏になったという逸話もあるそうだし」
「ええ……」
「でも、清十郎さんが出会った八百比丘尼は本当に八百年は生きていたそうよ、菅原道真に会ったことがあると言っていたそうだし」
「菅原道真……」
唐突な偉人の名前が僕の頭を混乱させる。
「それで、どうして人魚を拾ってきたの?」
そうだった。
話をしていて落ち着いてきたので、僕は二人に事情を話した。
「なるほど」
「そういう仕組みですか」
僕の説明で二人が納得した。
「え? わかるの?」
「どうやら、この建物で出入りをするとそういうことが起こるようね」
「記憶?」
「おそらく、この建物は、本来もっと壊れているのではないかしら」
「旦那様、ここに来る前に見た洞窟は覚えていますか?」
「あ、うん」
「旦那様が迷い込まれたのは、おそらくその洞窟で過去に起きた出来事です。この人魚は本当になんらかの儀式の供物とされたのでしょう」
供物?
いやたしかにそんな光景だったけど……。
「あれ? じゃあ僕って過去を改変したことになったりする?」
「いえ、そこまでの力はないわ。見て」
堂城さんに促されて白無垢人魚を見ると、なんか色がぼやけている?
なんだと思っているとさらに薄くなっていき、ある瞬間に消えた。
中身を失った白無垢がファサリと音を立てる。
「消えた」
「結界によって時間と空間が錯綜している。その中から手に入れるものを手にいれ、そしてなにが起きたのかを調査するのが私たちの仕事、ということよ」
「はぁ……なるほど」
「あ、いえ」
「うん?」
「依頼内容は調査だけね。なら、これは私たちの物にしてもかまわないわね」
「僕たちのって……これになにか使い道があるの?」
「莉菜さんへの貢ぎ物にしましょう」
堂城さんはにっこり笑う。
こんなの貰って喜ぶかな?
あ、でも僕にまとわりついた霊障? がエクトプラズムに変化したりしたし、なにか意味はあるかも。
「もしかしたら喜ぶかも?」
「でしょう!」
とても嬉しそうだ。
いまの堂城さんを学校の連中が見たらどう思うだろうか?
「はぁじゃあ……僕たちはこれから、いろんなドアを開けまくらないといけないのか」
「そういうことね。がんばりなさい」
あ、やるのは僕だけね。
堂城さんの僕への優先順位はここではたぶん最下位だろうし、まぁ仕方ないかな。
僕がやるっていったバイトなんだし、がんばるか。
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