洋館からの〜
両開きの玄関は片方が外れかけて斜めになっていた。
「こんにちは〜どなたかいますか〜?」
大きめの声を中に響かせても返事はない。
「ええ、これ中は大丈夫かな?」
「窓とかも破れていたら大変ですね」
「だねぇ、埃ぐらいなら払えばなんとかなる? かなぁ?」
真白と話しながら中に入って軽く一階部分を見て見る。
どうやら、外気が入り込んで荒れているのは玄関ホールだけのようだ。
玄関ホールがあり、奥に二階に行く階段があり、廊下は左右に伸びている。
片方の廊下に行くとキッチンとか食堂があり、もう片方には応接室とかがある。
無人島に作ってあるだけあって、そこまで広い建物ではない。
「最悪、寝泊まりはこの部屋でできるね」
応接室に荷物を置き、一息……は、まだだな。
さすがに埃臭い。
「先に掃除をする?」
「ましろが掃除をします!」
「っ! では、私も。私たちは掃除道具を探すから、尾羽くんは二階を見てきてくれる?」
「うん、わかった」
ジャケットから飛び出した真白が人の姿になると、堂城さんがダメな人の顔になる。
こうなったらもうどうしようもないので、掃除は二人に任せて二階の様子を見に行くことにした。
人気がないのとあちこちがギシギシ鳴るのが気持ち悪いぐらいで、特に怖いところはない。
玄関ホールに戻って階段を上がる。
二階もホールを中心に左右に廊下が伸びていて、そこに三つずつ部屋がある。
全部が同じ感じだ。
客間なのかな?
「それなら、応接室じゃなくてこっちを掃除した方がいい?」
男女で同じ空間で寝るより個室の方がいいのかな?
いやでもこんな廃墟で別々で寝る方が危険かな?
なんて思いながら最後の部屋をチェックしてから外に出た。
方針転換は掃除が本格化する前にした方がいいし、堂城さんに相談しないと……とか考えていた。
考えていたから変なところを歩いたとか、そんなことはないはずだ。
むしろ、そんな変なところを歩くほどここは広くない。
そもそも、僕はまだ客室のノブを握ったままだ。
つまり、僕が意図的に迷子になったわけではない。
だが、目の前には湿って苔むした石の壁がある。
「……」
とりあえず、一回ドアを閉めて客室に戻る。
背後を見回して、ここが客室であることを確認する。
そしてもう一度開ける。
やっぱり石の壁だ。
「うんうんうん」
まるでわからん。
とりあえず、ここは進むべきなのか、それとも客室に戻って助けを待つべきなのか。
とりあえず、すぐにこの奥に行くって決断をするのはもうちょっと後かな。
もう一度客室に戻り、窓から外に出るという方法を試してみることにした。
いまの身体能力なら二階から降りた程度で大怪我をするということもない。
いざとなったらあの《《変身》》もあるし。
そう思って窓を見てみると、砂埃で汚れていたガラスが墨でも塗ったみたいになにも見えなくなっていた。
うん、窓も開けられない。
ドアの向こうを進むしかなくなったわけだ。
「仕方ない、行くか」
ここまでたいして動揺なく行動できるのは、姉のアイテムボックスで鍛えられたおかげかな?
いざとなったら鍛えた身体能力と《《変身》》による暴力っていうお守りがあるおかげかな?
石壁はしっとりとしているし、うっすらと生えた苔が光を放っている。
ヒカリゴケって本当にあるんだなぁって思いたいんだけど……苔の色は緑なのに、空間を見通せる光の色は薄い青だったりするんだよね。
これ、絶対に苔とは関係ない光だよね。
なんなんだろうな〜って思いながら進んでいくと、先に見えた空間の入り口からより強い光が漏れている。
赤い色が揺れているので、松明とかランタンとかがあるのかな?
後なんか、動物の鳴き声? みたいなのも聞こえてくる。
一度深く息を吸ってから、慎重に近づいていく。
そうしてそっと中を覗くと、そこは広い空間になっていて、人影みたいなものが石の台を囲んでいるのが見えた。
人影は黒ずんだフード付きのローブを着込んでいる。
なんとなくフードスーツさんを思い浮かべた。
いや、あれとは違うと思うんだけど。
それから石の台に目を向けると、そこには白い衣装を着せられた女性が寝かされていた。
うんん?
もしかしてという予感を抱きながら見守っていると、ローブの一人が石の台に近づき、手を振り翳し、その手には逆手持ちにされたナイフ……いや小剣があってって……。
いや、黙って見ているってわけにはいかないよな。
僕は即座に変身すると、石の台に一気に近づき、小剣が振り下ろされる前に女性を奪う。
「#$%&%$‼︎」
僕の登場にローブたちが怒っているようだ。
奇妙な叫び声が響く。
フードの中がチラッと見えた。
魚顔だった。
いやぁ……。
寝坊助の邪神は関係ないよね?
「ないって言って!」
そう叫びながら、元来た道をダッシュで戻り、扉を閉める。
一呼吸置いてからドアを開けてみると、元の二階の廊下に繋がっていた。
そして、寝かされていた女性はちゃんと僕の前に残っている。
「うわぁ、どうしよう」
とりあえず堂城さんに相談しよう。
そう決めると、変身を解き、寝たままの女性を抱えて一階に戻った。
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