文化祭②
自分たちの店番の時間が終わり、僕はほっと息を吐く。
でも、油断するには早かった。
まるで時間を測ったように……いや、僕が自由になる時間は告げておいたんだからそれは本当に測っていたんだろうけど……廊下の方でざわめきが聞こえてくる。
廊下に出て確認してみると、いつもよりも人で溢れかえった廊下を割るようにしながら進んでくる一団がいた。
「うわぁ」
なんとなく予想しつつも、それを直に確認してしまうと自然と声も出る。
「あらぁ♪」
隣に立つ堂城さんが嬉しそうに声を上げ、それを聞いてしまったクラスメートの男子が信じられないものを見た目をした。
堂城さんが音符記号をつけたようなご機嫌な声を出すなんて、クラスメートたちは誰も想像できないだろう。
その彼がどうなったのかを見ている暇はなかった。
「旦那様!」
高校生ぐらいの姿になったワンピース姿の真白が僕の腕に絡みついてきた。
教室でザワッとした音が響いた。
顔はそっくりだけど、真白の方が表情豊かだから、すぐにわかるな。
そして、真白がちゃんと高校生ぐらいに見えている。
ちょっと前から例の指輪を肌につけているのだ。
指にはめると目立つから、お腹に養生テープで貼り付けている。
肌に接触していると効果を発揮するみたいでよかった。
「へぇ、これが姉ちゃんの旦那さん」
「ほう」
「ふうん」
そして真白の後にやってきた堂城さんと清十郎さんにそっくりな男女三人。
「あたしは杏朱。よろしくね」
「藍です」
「翠です」
中学生ぐらいのギャル寄せファッションな子が杏朱。
おそろの服を着た小学校三年四年ぐらいの双子男子ズが藍と翠。
本当に双子だそうだ。
「よろしく」
癖が強そうだなぁ。
三人を見てまず思った感想がそれだった。
「さあ、まずは旦那様のクラスの出し物を見ましょう!」
「面白そうよね! やるやる!」
「破壊」
「いいよね」
双子は闇堕ち系厨二病を発症中か?
真白に引っ張られて、まずはうちの水風船ダーツを紹介することになった。
兄弟揃ってみんなダーツが上手い。
そして投げるだけ投げて景品はいらないと返してしまった。
全弾命中の景品は特大ぬいぐるみが多いからね。
そして、真白たちが楽しんでいる間の堂城さんの極上の笑み。
みんなポカーンである。
なにが起きているのか理解していない。
そりゃそうだ。
氷の彫像みたいだった堂城さんがご機嫌ママな笑顔を振り撒いているんだ。
人によっては並行世界にでも放り込まれたのか? とか思うかもしれない。
実際、そんな顔をしている男子が何人もいた。
まぁ僕は、これ以上に堂城さんがぶっ壊れているところも見たことがあるけどね。
そんなことより、真白が楽しそうでなによりだ。
「さあ、次に行きましょう!」
「そだね」
「ええ、そうね」
「「……」」
当たり前のように堂城さんが会話に混ざってくる。
「お母さん」
「なぁに?」
「杏朱たちと他を回ってね」
「っ⁉︎ どうして⁉︎」
「杏朱! 藍! 翠!」
「は〜い、ママ、行くよ〜」
「母、娘のデートを邪魔するのはよくない」
「よくないよー」
「ちょっと、あなたたち!」
抵抗する堂城さんだが、愛する子供たちに拘束されたら逆らいようもない。
「あ〜れ〜」とか言いながら連れて行かれた。
「じゃあ、僕たちはあっちを回ろうか」
「はい」
と、堂城さんたちとは別ルートを回ることにした。
とりあえず、同学年クラスの出し物を見て周った。
「地元の歴史とか、真面目なのが多かったですね」
「一応、ここって進学校だからね」
文化祭の出し物に本気を出すところは少ない。
本気でやっているのはクラブ系が多いと思うんだけど、あっちのルートは堂城さんたちが先に行ったので後回しだ。
「あ、でもお化け屋敷は面白かったですよ」
「みんな割とガチの目で脅して来てたんだけど?」
「だからびっくりしました!」
あれは憎悪の目だと思う。
真白を堂城さんだと思ったか?
こんなにも違うんだけどなぁ。
「……」
「どうしました?」
「いや、次の連休は真白も楽しめるところに行きたいなと」
「え?」
真白を外出に誘うのって、姉の遺体探し関係か、近所の買い物ぐらいなんだよな。
もっと他にもあるだろうと、僕だって思う。
だって、文化祭ぐらいでこんなに楽しそうにしているんだから。
姉の遺体の欠片集めも大事だけど、それに真白を巻き込むだけなのも……なんか真白を便利アイテムにしているみたいで嫌だよな。
だから……。
「だめですよ」
そう考えていたら、真白がそう言った。
「真白は旦那様に幸運を運ぶためにいるんです。だから、旦那様はちゃんと幸運に向かわないといけないんですから」
「幸運?」
「大丈夫ですよ。旦那様は、ちゃんと真白を大事にしてくれていますから」
「ううん」
いや、大事にはしてると思うんだけど……主に食べ物方面では。
でも、それ以外だとあんまりなぁ。
「それに東京行きだって、その前の島に行ったのだって、十分に楽しかったですよ」
「ううん、それならいいんだけど」
「いいんです」
いいならいいんだけど。
「さて、そろそろお昼にしませんか?」
「ああ、そうだね。持って来てくれた?」
「はい。立花が場所も確保してくれてます」
「そっか」
ありがとう立花さん。
心の中で思いながら、僕たちはそこに移動した。
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