有効利用
翌日。
やっぱり下駄箱に呪いのハリネズミ藁人形があったので、僕はその場で釘をせっせと抜き、残った藁人形は職員室の落とし物ボックスにシュートしておいた。
「誰か知らないけど金属素材をありがとう」
前から藁人形を持っている僕に視線が集まっていたので、あえて聞こえるように言ってみた。
「なぁ、尾羽」
教室に向かおうとしたところでクラスメートから声をかけた。
「釘抜いたけど、どうするんだ?」
「ダーツの改造をしようかと」
「は?」
「100円ショップのダーツだと、先端が柔らかいのしかなかったんだ」
「……ああ! 文化祭の話か!」
「そうだよ」
「あははは! なんだびっくりした」
「なにさ?」
「てっきり仕返しとか考えているのかと」
仕返し?
なんでそんなことを。
「バカらしい。この程度のことで人間性を落とすようなことはしたくないよ」
実際に呪われているならともかく、姉のアイテムボックスに入ってみてもエクトプラズマとかがまとわりついているわけでもない。
真白の印のおかげか物を盗まれるとかの実害も起きていないんだし、気にする必要なんてない。
「それもすげぇ考え方だな」
「その代わり、やり返すと決めたら徹底的にやるけど」
もちろん、これ以上の実害が出るようなら考えないといけないとは思う。
煩わしいのは事実だし。
「……うわぁ、敵にしたくない」
「敵になりたいの?」
「なりたくないって言っただろ!」
そんなやりとりをしている間、背中でねっとりとした視線を感じた。
……なんか、こういうのを察知する感覚が鋭くなってるのかな?
たぶん、後ろに藁人形の犯人がいる……かもしれない。
確証がないんだから問い詰めたりとかをする気はないんだけど……。
ガバッと振り返ってみた。
「っ!」
登校時間だから後ろには何人も生徒がいたんだけど、ちょっと慌てた感じで顔を逸らしたのは一名だけだった。
クラスメートじゃないな。
誰だろう?
「ど、どうかしたのか?」
「うん? いいや」
なんか挙動不審なクラスメート……そういえば名前なんだっけ?……に向き直り、教室に向かった。
「なぁ、もうやめたらどうだ?」
「な、なんのことだよ?」
「藁人形だよ。あいつの下駄箱に入れるところ、見てるんだからな」
「うっ……」
「無意味なのは見てわかっただろ? 全然平気な顔してるし。むしろ再利用とか考えだしたぞ。精神強ぇよ、あいつ」
「ぐぐ……」
「同中のよしみで言ってやってるんだからな。これ以上になるなら、庇ったりできないかもしれないぞ」
「わ、わかったよ」
「ああ、じゃあな」
尾羽亮哉のクラスメートが去って行くのを見ながら、????は「くそっ」と小さく吐き捨てた。
「なにが同中だ。お前なんか知るか」
そう吐き捨て、苛立ちを発散するべく壁を殴った。
もちろん本気ではない。
それでも拳にじんわりとした痛みが染みてくる程度には勢いを付けた。
「あいつは……堂城香澄を騙して弄んでいるんだ! どうやったって罰を受けなければいけないんだ!」
あいつの堂城香澄への気持ちは偽物。
自分の方こそが本物。
これ以上の気持ちなんてどこにもない。
だからこそ、報われなければならない。
自分がしているのは、正しい行為なのだ。
それなのに……騙された堂城香澄はあいつを庇って普段はしないような怒りを露わにしたという。
そんな……普段しないようなことをしているということが、もうおかしくなっている証拠だ。
「なんとかしないと……なんとか……」
“ヒョヒョヒョ”
「ん? なんだ?」
“面白そうなことをしているなぁ?”
「誰だ⁉︎」
“素人故に作法がなっとらんのは仕方ないにしても、その情念は気に入った!”
「なんだ?」
“儂が手伝ってやろうぞい”
「だから、なんなんだよ、この声?」
どことも知れぬ場所から耳に届いてくる声に???は戸惑い、辺りを見回す。
だが不意に、背中に軽い衝撃を感じた。
“儂が憑いておる。安心せい“
「……わかった」
いきなり表情から力が抜けた???は自分の教室へと戻っていく。
“蛇の姫よ、たまには遊ぼうや”
謎の声は、そう言って笑った。
今日の授業も何事もなく終わり、学校から戻るとアイテムボックスに入ってあの釘を加工していく。
適度な長さに切って、切ったりヤスリで削ったりして先を尖らせると、おもちゃダーツの先端と交換していく。
試し投げをしてみる。
前に運搬依頼だったかでアイテムボックスに入れたエルダーシダを加工したものがなぜか残っているので、それを的代わりにしてみた。
全部がちゃんと刺さった。
「う〜ん」
【戦士】スキルを手に入れたせいか、なんかこういうのを投げるのも上手くなってる気がする。
とはいえ……いや、だからこそ、なのか?
出来に不満がある。
「バランスが悪いな」
先端部分が金属になったこともあって重量バランスがずれてしまっている。
一応、ダーツ自体に錘が入っているようなんだけど……ちょっと調整するか。
調整。
試射。
羽の具合がよろしくないな。
もうちょっとこう……。
調整。
試射。
「ううん……」
「アキヤ〜、なにしてんの?」
唸っていると姉の声がした。
「え? ちょっと文化祭で使うダーツの改造を」
「文化祭? 実戦用じゃなくて?」
「え?」
そう言われて手元のダーツを見ると……なぜか完全金属製になっていた。
「……なぜだ?」
あ、100円ショップの改造ダーツは横に放り投げてる。
どうやら、羽が気に入らないってところで一から作ることを選んでしまっていたらしい。
「危なかった」
このままだと暴走してとんでもないものを作ってしまうところだった。
「文化祭でダーツって、なにするの?」
「ええと、モーちゃん先生が……」
と、文化祭でやる水風船ダーツの説明をする。
「へぇ、おもしろそう!」
「まぁね、そうかも?」
「それなら、ダーツは完璧じゃなくてもいいんじゃない? 狙ったところに行ってくれない方がゲームとしておもしろいでしょ」
「それもそうか」
納得したので、ダーツはこれでいいかということにした。
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