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本戦前夜

 城へ戻ると、廊下の奥から勢いよく足音が響いてきた。


「カズトーー!!」


 次の瞬間、ルリがそのままの勢いで突っ込んできた。


「おっと!?」


 反射的に受け止めると、ぐいっと顔を覗き込まれる。


「勝ったね! 本戦出場おめでとう!」


「ありがとう。そう言えば予選の決勝は城の魔道具でも見れるんだったな」


「見てた見てた! 流石私の弟弟子だな! なんかバチバチしててかっこよかったぞ! ルリもカズトと戦いたくなった!」


「お前には魔法ありはまだ早いな」


「えーー!なんでだー!」


 その場でじたばたと暴れるルリを軽くあしらいながら、その頭をわしゃわしゃと撫でる。


「あ、あとさあとさ!」


 ルリの勢いは止まらず、さらに身を乗り出してくる。


「学園って面白い人いっぱいいるんだな! カズトの相手とか雷受けて喜んでたぞ!」


「健全な試合のはずなのに、情操教育に悪いのはなんでだろうな……」


「あと最後さ! 押し倒してたじゃん!」


「語弊がある」


 けらけらと笑うルリに、カズトは軽く額を押さえた。


 やけにそういうところだけ理解が早い。


 ひとしきり騒いだあと、ふいにルリが頬を膨らませる。


「でもさー」


「ん?」


「やっぱ現地で見たかった。映像でもすごかったけどさ、直接なら絶対もっと迫力あるじゃん」


「まぁ、それはな」


「むー……」


 腕を組みながらルリは唸っている。

 言いたいことはよくわかるだけに心苦しく思う。


「外出るなーとか、危ないからダメーとか、政治がーとか……わかってるけどさぁ……」


「言われてるうちは我慢しとけ」


 不満そうに唇を尖らせるが、強く言い返してはこない。

 少し考えてから、ぱっと顔を上げる。


「じゃあさ!」


「おう」


「その分、本戦めっちゃ暴れてよね!」


「暴れる前提かよ」


「だってつまんない試合したら意味ないじゃん! ちゃんと派手に勝って!」


 ルリがぐいっと顔を近づけてくる。


「あとあと、終わったらちゃんと全部教えて! どんな感じだったか!」


 それでも、楽しそうに笑うルリを見ていると悪い気はしない。


「わーったよ。ちゃんと勝って、面白い話持って帰ってくる」


「約束だぞ!」


「おう」


 満足したのか、ルリはようやく離れていった。


 


 夜。


 静まり返った城の一室で、カズトはベッドに横になりながら天井を見上げていた。


 体は疲れているはずなのに、意識だけが妙に冴えている。


 予選の試合、本戦の顔ぶれ、そして明日からの戦い。


 頭の中で何度も反芻されていた。


「……起きてるんでしょ」


 隣から零の声が聞こえてくる。


「……まぁな」


 同じベッドに寝ている零が、わずかに寝返りを打つ気配がした。


「珍しいわね。あんたがこんなに落ち着かないの」


「そうか?」


「そうよ。普段ならとっくに寝てる時間でしょ」


 確かに、と小さく息を吐く。


「……まぁ、色々あったからな」


 シオン、エリカ、使い魔の特待生、そして零。


「シオン会長に、その次はエリカさん。最後に零か」


 口に出してみると、妙に現実味が増す。


「楽しみなんでしょ?」


「まぁな」


 少しだけ間を置く。


「負ける気はない。でも、楽に勝てるとも思ってない。だからこそ、ワクワクする」


 カズトは口から自然と溢れた言葉に、自分の本音を自覚する。


「……あんたは変に戦闘に集中しすぎると周りが見えなくなるところがあるんだから、暴走しないでよ?」


「分かってるよ。そっちはどうなんだ?初戦、闇魔法使いだろ」


「問題ないわ。試合を見た限り、そこまで脅威じゃない」


 いろいろと考え込んでるカズトは違ってあっさりとした返答をする零は余裕の表情だった。


「相変わらずだな……」


 だが、その言葉に不安は感じない。

 むしろ、それだけの実力があると分かっているからこそ、安心できる。


 沈黙が流れて、窓の外から夜風の音が静かに入り込む。


「ねぇ」


「ん?」


「今日のあの子」


「やめろ」


 即答だった。


「雷受けて喜んでたやつ」


「やめろって言ってるだろ」


「ふふ……」


 肩を震わせて笑っているのが分かる。


「ほんと、変なのに好かれるわよね」


「だから俺のせいじゃないって……」


 本当に、あれはなんだったんだろうか。


「……でも、あんた、強くなったわよ」


 零からの予想していなかった言葉に、ほんの少しだけ言葉に詰まる。


「......そうかな」


 零はこの世界にきて最初に戦闘の基礎を叩き込んでくれた師匠でもある。

 いきなり褒められるとなんだか動揺してしまう。


「ええ。

でも、まだ足りない」


「......そうだろうな」


 それもまた、否定する気はなかった。

 むしろ、そう言われてなんだか安心した気がする。


「だから明日、負けないでよ」


「そっちこそ」


 短い応酬だが、それだけで十分だった。


 再び静けさが戻る。


 さっきまでのざわつきが、少しずつ落ち着いていく。


「……寝るか」


「そうね」


 明日から始まる本戦。


 その先にあるものを思い浮かべながら、カズトはゆっくりと意識を手放していった。

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