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消えた第二王女⑥

 深夜の王城。

 王の寝室。


 静まり返った廊下に、突然激しい音が響いた。


 バンッ!!

 勢いよく扉が開く。


「何事だ!?」


 王は飛び起きた。


 敵襲か。暗殺か。

 一瞬で戦場の思考に切り替わる。


 しかし、扉の前に立っていたのは兵でも刺客でもない。


「……セレナ?」


 そこにいたのは、愛する娘だった。

 寝台の横で体を起こした王妃も、驚きながら娘を見る。


「こんな夜中に、いったいどうしたというのだ?何かあったのか?」


 困惑した王の隣で、王妃も不安そうに見つめていた。


 セレナは一歩部屋の中に入り、そして深く頭を下げた。


「お父様、お母様。夜分に申し訳ありません」


 その声はいつもより少しだけ硬い。


「ですが……とても大切なお話があります。

時間がありません。この場で、聞いて下さい」


 真剣な眼差しとその空気に、王も王妃もただならぬものを感じ取った。


「……わかった。話してみよ」


 部屋に、短い沈黙が落ちる。

 セレナは一度だけ深く息を吸い、そして覚悟を決めたように、はっきりと言った。


「……クレアが見つかりました」


 その瞬間、王の目が大きく見開かれる。


「……なに?」


 信じられないという声だった。

 王妃は思わず口元を押さえる。


「それは……本当なのですか……?」


 王妃の震える声が漏れる。


「はい。間違いありません」


 その言葉は、王城の運命を変えるほど重かった。


「王城から攫った犯人はムカデでした。本日、別件でムカデと対峙していたのですが、その際に偶然助けた子供がクレアでした」


 セレナは落ち着いた声で説明する。

 これからの動きのため、ルリを見つけた経緯はあらかじめ作っておいたものだ。


「第二王女である事は、黎明の照鑑に血を垂らして確認済みです」


「バカな、そんなことが……」


 信じられないという表情のまま、言葉を失う王。


 その隣で寝台から静かに立ち上がった王妃は、何も言わず部屋の扉へと向かう。


「お母様、どこへ行かれるのですか!?」


 セレナが慌てて声をかけるも、王妃は振り向きもせず答えた。


「決まっているでしょう。クレアを……娘を迎えに行くのです。セレナ、早く案内をしてください」


「ダメです!落ち着いてください!」


 その言葉に王妃は振り返り、感情を抑えきれない声を上げた。


「これが落ち着いていられますか!あの時、どれだけ手を尽くしても見つけられなかったクレアが見つかったのですよ!私はあの子に……謝らなければなりません……」


 震える声だった。


 自分の娘を、生まれてこなかった事にした。

 王妃にとってそれは、ずっと胸に残り続けてきた後悔だった。


 王はゆっくりと立ち上がり、王妃の肩に手を置く。


「落ち着くのだ。気持ちは分かる。だが、これはそう簡単な話ではないぞ」


 重い声だった。

 王妃もその言葉に動きを止める。


「その通りです。なので、私から提案があります」


「お父様も懸念されている通り、王女が城から攫われ、それを秘匿していた事が公になれば、王族の権威が落ちる事件として扱われるでしょう」


 セレナの言葉に、王は重く頷いた。


「その通りだ。だからこそ、苦肉の策としてクレアは生まれてこなかった事にしたのだ」


 王の言葉に、王妃は唇を強く噛み締める。


「ですが、クレアが生きて、しかも救出されたとなれば、いずれ事は露見します。それを嫌う過激派は、こちらが止めたとしてもクレアを暗殺する可能性も高いでしょう」


 その言葉を聞いた瞬間、王妃はセレナの肩を強く掴んだ。

 言葉は出ない。


 王妃として状況は理解している。

 だが母として、二度も娘を失うなど耐えられない。


 心と身体が、まるで別の意思を持ったように離反していた。


「安心して下さい、お母様。私も、二度も妹を失いたくありません」


 セレナの静かな言葉に、王妃ははっとする。


 自分が今しているのは、感情に任せた八つ当たりに近い行動だったと気づいたからだ。

 王妃はゆっくりと手を離した。


「それで、提案とはなんだ」


「クレアを生かすには、誘拐された事については諦めるしかありません。明日にでも、すべてを公にします」


 部屋の空気が張り詰める。


「広まってしまえば、今更クレアを殺したところで意味はありません。過激派も王家の力を維持したい訳ですから、民からの印象が悪くなる事はしないでしょう。」


 それは、王としても理解できる理屈だった。


「そして、失った分の威厳は――」


「私が取り戻します」


 自分の胸に手を当てて、セレナは力強い瞳と言葉で宣言する。


「易々と王城に侵入され、あまつさえ王女を攫われて取り戻せなかった。力を重視するこの王国にとって、これほどの失態はないだろう。それを覆すだけの事を――貴族連中を抑え、民衆を統率するほどの事を、お前が出来ると?」


 王の言葉は厳しかった。

 父としてではなく、王としての問いだった。


 セレナは一歩も引かずに答えた。


「はい。当時ではなく、今を見据えさせます」


 その瞳には確信があった。


「私たちは長らく手をこまねいていたムカデの幹部を、既に三人落としています。九位、八位、そして五位です」


 王の眉がわずかに動く。


「そして学園の戦技祭。戦技祭の優勝者は、王族と貴族の力関係にも大きく影響します」


「その場で、貴族連中の自慢の子供達や手駒をすべて薙ぎ払い、私の手駒が優勝します。これで名実ともに“強い王家”を誇示できるでしょう」


 セレナはさらに言葉を重ねた。


「それに、結果的に王女も運命的に救い出しているのです。流れで美談にしてしまえば、民も悪くは取りません」


 王はしばらく黙っていた。


 その沈黙は重い。


 だが、お互いに視線は逸らさない。


 やがて王は小さく息を吐いた。


一応零は表向きには処刑された事になっています。

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