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戦技祭

 三人が学園の正門をくぐると、構内にはいつもと違うざわめきが満ちていた。


 生徒たちの視線は中庭に設置された大きな掲示板へと吸い寄せられている。


「……随分な人だかりね。また誰かが揉めてるのかしら」


 零が怪訝そうに独り言をこぼす。


「掲示板のようですね。確認しに行きましょう」


 セレナを先頭に、三人は人の流れを割って歩を進めた。


 掲示板の中央、ひときわ目を引く位置に貼り出されていたのは、黒と金の重厚な縁取りが施された一枚の公示だった。


【王立学園 戦技祭 開催予定】


「もう、そんな時期になるのですね」


 その文字を目にしたセレナが、懐かしむように、どこか遠くを見据えて呟く。


 掲示には、近接戦闘と魔術を織り交ぜた総合戦闘競技であること、そして全生徒が個人トーナメント方式で競い合う旨が記されていた。


 内容を黙読していたカズトが、隣の二人に顔を向ける。


「戦技祭っていうのは、要するに学園一を決める格闘大会みたいなものですか?」


「ええ、その通りですよ」


 背後から届いた穏やかな声に、三人が振り返る。

そこに立っていたのは、先日の騒動を感じさせないほど凛とした佇まいのシオンだった。


「おはようございます、セレナ様。カズトさん、零さんも」


「おはようございます、シオン会長」


 挨拶を返しつつ、カズトは彼女の顔色を伺うように言葉を選んだ。


「その……体調の方は、もう落ち着いたんですか?」


 敬意を保ちつつも、隠しきれない気遣いが滲む声音。

シオンは一瞬だけ意外そうに瞬きをしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて応じた。


「ふふ、ご心配ありがとうございます。ええ、日常生活にはもう全く支障ありませんよ。医師からも、無茶な動きさえしなければ問題ないとお墨付きをいただいていますから」


 彼女は少しだけ悪戯っぽく視線を揺らす。


「それに、いつまでも生徒会長が寝込んでいるわけにはいきませんもの」


「おね……生徒会長。無理だけはしないでくださいね」


 言いかけて慌てて呼び方を直したセレナに、シオンは満足げに頷いて返した。


 短い沈黙のあと、シオンは再び掲示板へと視線を戻す。


「戦技祭は、この学園で最も伝統ある行事です。剣技、魔術、そして一瞬の戦術判断……その全てを懸けて競い合います。騎士団や宮廷からの視察も入りますから、上位入賞を果たせば、その後の進路にも大きな影響を与えることになるでしょうね」


 カズトはその言葉を噛み締めるように掲示を見上げた。


 学園行事という枠組みを超えた、実戦に近い緊張感が胸の奥に落ちてくる。


「要するに、実力主義の見世物小屋ってことね」


 零が腕を組み、冷ややかな、けれどどこか挑戦的な視線で断じた。


「ふふ、言い方はともかく、本質はその通りかもしれませんね」


 シオンは否定せず、自然な動作でカズトへ問いかける。


「カズトさんは、出場されますよね?」


「……主であるセレナ様のご判断次第ですが。俺のような立場でも、出場資格はあるんでしょうか?」


「形式上は生徒ですから、条件は満たしています。本来、トラブルを避けて辞退するのが通例ではありますが、あなたたちの場合は特殊ですから、もう誰も文句は言わないでしょう」


 隣で聞いていたセレナが、迷いのない口調で遮った。


「出場します。二人とも」


 その決定を、カズトは静かに受け止める。


「決勝は、私とカズトの二人で独占することになりそうね」


 零が不敵なまでの自信を覗かせると、シオンはそれを歓迎するように目を細めた。


「今年は例年以上に盛り上がりそうですね。皆さんの戦い、心から楽しみにしています」


 彼女がその場を去ると、抑えられていた周囲のざわめきがゆっくりと戻ってきた。


カズトは改めて、掲示板の黒と金の公示を見つめる。


 学園全体を包み込む空気が、目に見えないほど微かな、けれど確かな戦いの色を帯び始めていた。


「で、どう? 怖気付いてる?」


 零が横から覗き込んでくる。


「少しな」


「嘘おっしゃい」


「半分くらいは本当だよ。でも、お前と本気で戦えるのは、正直ちょっと楽しみだ」


 カズトが素直な心境を漏らすと、二人の間に小さな、それでいて熱を持った沈黙が流れた。


「行きますよ。ホームルームに遅れます」


 前を向いたまま歩き出したセレナの背を追い、二人は掲示板を後にする。


 戦技祭。


 その三文字が、穏やかだった日常を塗り替えようとしていた。

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