索敵③
深刻な作戦会議の最中、カズトはふと、ずっと気になっていた変化を口にした。
「時にセレナ様。シオン会長と会っている時は、俺達がいてもすっかりお姉ちゃん呼びですね」
その言葉に、セレナの動きがピタッと止まる。
一拍置いて、彼女の顔が耳の付け根まで真っ赤に染まった。
「なっ、ななな、何言ってるのカズト! そ、それは、その……」
「いや、いいと思うんですよ。さっきから自然にそう呼んでましたし。仲が良いのはいいことです」
カズトが少しニヤリとして畳みかけると、セレナは両手で顔を覆いながら、消え入りそうな声で言い訳を始めた。
「だ、だって! お姉ちゃんが死んじゃうかもしれないって思ったら、もう、かっこつけてる場合じゃなくて……寂しかったんです! 会えなくなるのが怖かったんだから、仕方ないじゃないですか!」
最後の方はほとんど逆ギレに近い叫びだったが、その言葉には、今回の事件で彼女がどれほど姉を失う恐怖を感じていたのかが詰まっていた。
「ふふ、嬉しいわ、セレナちゃん。お姉様呼びも捨て難いけど、やっぱりお姉ちゃんが一番ね!」
「もう! お、お姉ちゃんまでからかわないで!」
シオンの悪戯っぽい微笑みに、セレナはさらに顔を伏せる。
病室を包んでいた重苦しい空気が、一瞬だけ和らいだ瞬間だった。
「ふふっ、セレナ様のおかげで少し緊張がほぐれました。さて、次の獲物を誘き出す準備に取り掛かるわよ。作戦が始まったら、もうこんな冗談言ってる暇なんてなくなるんだから」
零が表情を引き締める。
シオンの「記憶が戻りつつある」という噂は、マリーや一部の生徒を通じて、静かに、かつ確実に学園内へと浸透していった。
「会長が犯人の特徴を思い出せそうらしい」
「背の高い男ってかもしれないって話だ」
そんな囁きが広まるにつれ、学園の空気は目に見えて刺々しくなり、カズトは自分たちを監視する「誰か」の視線を肌で感じるようになっていた。
〜
数日後:特別病室の深夜
シオンが眠る特別病室の廊下は、魔法灯の光も落とされ、深い闇に包まれていた。
カズトと零、そしてセレナは、シオンのベッドから少し離れた死角に、気配を完全に殺して潜伏していた。
(……来た)
カチリ、と小さな音を立てて鍵が空き、病室のドアが開いた。
隙間から滑り込んできたのは、一人の長身の影。
シオンの証言通り、その背丈は180cm近くはある。
影は音もなくベッドに近づくと、懐から一本の注射器を取り出した。
中に満たされているのは、どろりとした赤黒い液体。
「すまないね、シオン会長。君が余計なことを思い出さなければ、もう少し長く生かしてあげられたんが……」
男の声は低く、どこか聞き覚えがあるような、それでいて感情の欠落した冷ややかな響きを持っていた。
男が注射器をシオンの細い腕に突き立てようとしたその時――。
「そこまでだ!」
闇を切り裂くように、カズトの全身から激しい青白い火花が放たれた。
「お姉ちゃんに触らないでっ!」
セレナの放った光の弾が病室を真っ白に照らし出し、犯人の姿を鮮明に浮き彫りにする。
そこに立っていたのは、学園の制服を着た生徒会の男子だった。
「ビンゴね。でもカズト、気をつけなさい。こいつ、ただの協力者じゃないわ。焦りを感じない」
零の警告通り、男は急襲を受けても動じることなく、ゆっくりと注射器を自分の首筋に突き刺した。
「クク……あの方がおっしゃっていた通りだ。君たちは必ず現れると。さあ、実験を始めようか」
薬物を投与された男の筋肉が、ミシミシと音を立てて膨れ上がり、その瞳が真っ赤に充血していく。
だがカズトは、目の前で怪人化していく男には目もくれず、即座に真の敵の存在を確信する。
「作戦がバレていた!? そう簡単にはいかないか! だが、この手のタイプは必ずどこかで見ているはずだ!」
八位の時も、即座に行動出来るように監視していた。
罠と分かってて送り込んだ結果を確認しないはずがない。
カズトは脚に雷を纏わせると、病室の窓を蹴破って夜空へと飛び上がった!
「...見つけた! 零! 北の方角だ!」
上空から鋭い視線で周囲を確認したカズトの目に、病院から少し離れた北側の時計塔の屋上、そこで優雅にこちらを観察している人影が映る。
「了解! 逃がさないわよ!」
零が懐の端末を操作すると、あらかじめ学園と病院の各所に潜ませていたドローンサイズの偵察型ロボットたちが一斉に起動。
それらは暗闇の中で白い光を放ちながら、北の影を包囲するように集結していく。
「カズト、ここは任せて下さい! お姉ちゃんも、この暴れてる人も、私がなんとかします!」
背後ではセレナが光の鎖を召喚し、薬物で暴走する男子生徒を拘束し始めていた。
カズトはセレナを信じ、一直線に北の影へと加速した。




