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生徒会活動②

 窓際の執務机で、シオンは悠然と紅茶を傾けていた。


 カズトと零が室内に戻るなり、彼女は満足げな笑みを浮かべて二人を迎える。


「あら、早かったわね。報告は受けているわよ。高等部の生徒たちを、文字通り手も足も出させずに制圧したそうじゃない。流石だわ、期待通りの働きね」


 その称賛に、カズトは気恥ずかしさを隠すようにポリポリと頬を掻いた。


「まあ、相手が油断してたのもありますけど。とりあえず、被害者の中等部生徒も無事でしたし、これで一件落着ですよね?」


「ええ。でも、連続で悪いのだけれど、次の仕事があるわ」


 シオンはそう言って、一枚の紙をヒラリとデスクに置いた。そこには美しい、流麗な筆致でこう記されている。


【緊急任務:第3演習場・石壁の補修作業】


「補修?」


 カズトと零がポカンとしていると、シオンはどこか楽しげな、茶目っ気のある笑顔を浮かべた。


「ええ。確かに私は『保健室送りにしてもいい』とは言ったけれど、『演習場の壁を粉砕してもいい』とは一言も言っていないわよね?」


「うっ……」


 零が言葉に詰まる。


「零、あなたの放った一撃。おかげで第3演習場の外壁に立派な大穴が開いたと報告が入っているわ。業者を呼ぶ予算だってタダじゃないのよ。というわけで、放課後までに元の状態に直しておきなさい。もちろん、自分たちの力で、ね」


「ちょ、俺も連帯責任ですか!? 壊したのは零ですよ!」


「あなたも現場にいたのだから、当然連帯責任です。いい? 壊したものは直す。これも学園の規律を守る執行委員の大切な仕事だわ。期待しているわよ? セレナ様には別のお手伝いをお願いしますからね」


 シオンの有無を言わさぬ笑顔に、カズトはガックリと肩を落とし、零はバツが悪そうに顔を逸らした。


「お二人とも、頑張ってくださいね。わたしも生徒会のお仕事をお手伝いしていますから、ファイトですよ」


 セレナの慈悲深い微笑を背に受け、カズトと零はホウキとコテを手に、賑やかな校舎を逆戻りすることになった。


 バケツやコテ、重たい石材が載ったカートを引いて、二人は溜息をつきながら廊下を歩く。


「くっ! ほんと、アルケミストの力さえ使えれば、あっという間に元通りに治せるのに! ねぇカズト、誰もいない隙を見てこっそり使っちゃダメかしら?」


 零は周囲をキョロキョロと見渡す。現代技術、あるいは異世界の錬金術があれば、石壁の補修など造作もない。


「やめておけって。さっきの口ぶりでも分かるけど、たぶん監視されてるぞ。下手に異世界の技術なんて出したらややこしいことになるかもしれない」


 カズトは零の手を制し、現実的な解決策を練り始めた。


「にしてもこれはちょっとした資材だけじゃ厳しくないか?土魔法を使える生徒を見つけて、協力してもらうしかないな。とはいえ、さっきボコボコにした高等部の連中の仲間は、俺たちを恐れてて絶対手伝ってくれないだろうし。よし、さっき助けた中等部の連中を当たってみよう」


「中等部の、ああ、さっきの平民特待生の子たちね。助けたお礼に労働を要求するなんて、私たちもだんだん悪徳執行委員っぽくなってきたわね?」


「人聞きが悪いな! あいつらだって、自分たちが使う演習場が壊れたままなのは困るだろ?特待生なんだし、たぶんある程度の魔法は使えるはずだ。」


 そんな相談をしながら演習場に到着すると、そこにはまだ、怪我の手当を終えたばかりの平民生徒たちが数人、壊された壁を呆然と眺めて立ち尽くしていた。


 カズトは精一杯の愛想笑いを浮かべ、彼らに歩み寄る。


「やあやあ、君たちさっきぶり。怪我の方は大丈夫かな? 実はさ、生徒会長に壁の修理を頼まれちゃって。君たちの中に、土魔法を使える人はいないかな?」


 自分たちの窮地を救ってくれた恩人。カズトとしてはフレンドリーに接したつもりだったが、生徒たちの反応は予想外のものだった。


「…………(ビクゥッ!)」


 彼らはカズトが近づくだけで、まるで肉食獣を前にした小動物のように肩を震わせ、じりじりと後退りする。カズトの圧倒的な雷の力と、高等部エリートを一蹴したその「格」の違いが、彼らには畏怖として刻み込まれてしまっていたのだ。


「え、いや、俺そんなに怖いかな? 一応助けたつもりなんだけど……」


「ちょっとカズト、どきなさい。あんたは笑顔が不自然で不審者っぽいからダメなのよ。やっぱりこういうのは、女性の柔らかい物腰が必要なんだから」


 自信満々にカズトを押し退け、零が前へ出る。彼女はモデル顔負けの整った顔立ちに、営業用の満面の笑みを貼り付けた。


「ねぇ君たち♪ お姉さんのお手伝いをしてほしいのだけれど、誰か土魔法を使えるいい子はいないかしら?」


「「「ひいぃぃぃっ!!!!!」」」


 悲鳴が重なり、生徒たちは先ほどよりもさらに猛スピードで後退りした。


 中には腰を抜かして這いつくばる者までいる。


 それもそのはず。


 彼らの目の前には、つい数十分前に「無表情で分厚い石壁を拳一つで粉砕した女」が、その壁と同じように自分たちの顔面を粉砕せんばかりの(本人なりの)笑顔で立っているのだから。


「ちょっと! 失礼ね!! 私、今すっごく優しく微笑んだわよね!?惚れられはしても怖がられる要素はないはずよ!」


「……零。さっきの『壁粉砕』の直後にその笑顔は、完全に『協力しないと次はお前の頭がこうなるぞ』っていう脅迫にしか見えないんだよ」


「なっ! そんなつもり毛頭ないわよ! 私はただ、協力者を募ってるだけなのにっ!」


 絶望的なコミュニケーションの齟齬。


 カズトは必死に手を振り、零を後ろに下がらせた。


「ごめんごめん! 彼女、ちょっと力が強すぎて加減を知らないだけで、本当は悪い奴じゃないんだ! ほら、零、後ろ向いてて!」


「なによ、失礼ね。私だって親切心で言ったのに。もうしらないわ!」


 不機嫌そうに隅でむくれる零の隙に、カズトは膝をついて生徒たちの目線に合わせ、ゆっくりと語りかけた。


「さっきは怖がらせて悪かった。でも、君たちが怪我しなくて本当に良かったよ。実は俺たち、生徒会長に壁を直すまで帰るなって言われちゃってさ。もしよかったら、少しだけ力を貸してくれないかな?」


 カズトの飾り気のない態度に、生徒たちはようやく少しずつ顔を上げ始めた。


「あ、あの。本当に、僕たちが手伝うだけでいいんですか? 奴隷の方に協力したってバレたら、またさっきの人たちに……」


「大丈夫。俺たちが『命令』して無理やり手伝わせたってことにすればいい。生徒会長の名前も出しておくからさ」


 その言葉に、土魔法使いの少年がようやく安心したように頷いた。


「……わかりました。僕、石を繋ぎ合わせるくらいならできます! 助けてもらったお礼に、やらせてください!」


 ようやく協力体制が整った。


 カズトが重い石材を運び、少年が魔法でそれを固定していく。


 その連携は意外なほどスムーズに進んだ。


 一方、後ろでむくれていた零は、楽しそうに作業する彼らをチラチラと盗み見ていた。


(カズトのやつ、いつの間にかあんなに懐かれちゃって。まぁ、いいわよ。あの子たちが土魔法で基礎を固めたら、私が仕上げに熱で焼き固めてあげれば、元より頑丈な壁になるわよね)


 口では文句を言いながらも、零は出番を待ち、指先で小さな火種を転がしていた。


 ――数時間後。


 カズトたちの労働と零の絶妙な加熱により、演習場の壁は元の姿…どころか、以前よりも少し頑丈そうな質感になって復活した。


「ありがとうございました、カズトさん!」


 笑顔で去っていく生徒たちを見送り、二人は確かな達成感を抱えて生徒会室へと戻っていった。

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