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生徒会活動

 朝日が差し込む校舎の廊下。


 その中央を歩くカズト、零、そしてセレナの三人の腕には、支給されたばかりの「特別執行委員」の腕章が巻かれていた。


 赤を基調としたその腕章は、制服に対してあえて物々しさを強調するようにデザインされている。


 それは奴隷という身分でありながら学園の秩序を守るという、彼らの異質で危うい立場を無言のうちに象徴していた。


「似合っていますよ、カズト、零。今日からいよいよ、ここがわたしたちの新しい戦場ですね」


 セレナは少し緊張した面持ちで、自身の左腕に輝く腕章の感触を確かめるように触れた。


 その瞳には、王女としての責任感と、新たな環境への期待が同居している。


「気合入りすぎですよ。でも、確かに。奴隷の私たちがこんな腕章をつけて歩いてるだけで、周囲の視線が痛いくらいですね。さっきからすれ違う生徒たちの顔見た?」


 零は周囲の不躾な視線を鼻で笑い飛ばすように肩をすくめた。


 好奇、蔑み、そして得体の知れないものを見る恐怖。


 それら全てを背負いながら、カズトは扉の前に立った。


「まずは生徒会長に挨拶だ。今後の動きも確認しておかないとな」


 カズトが扉を軽くノックすると、中から間を置かずに凛とした声が響いた。


「――入りなさい。待っていたわ」


 扉が開くと、そこには山のような書類を前に、背筋を伸ばして座る生徒会長・シオン・ヴァルフレア公爵令嬢の姿があった。


 彼女は三人の腕章姿を一瞥すると、満足げにわずかだけ口角を上げた。


「今日からよろしくお願いしますね」


 挨拶もそこそこに、シオンはデスクの上で細い指を組み、声を一段低くした。


「さて、さっそくなのだけれど、特別執行委員としての最初の仕事を与えます。学園の平穏を乱す不穏な動きが、中等部の演習場付近で定期的に報告されているの。あなたたちにはまず、その調査と排除をお願いしたいのだけれど、準備はいいかしら?」


「排除、ですか。初日から随分と物騒ですね」


 カズトが問い返すと、シオンは窓の外、校舎の奥にある広大な演習場の方向を見つめた。


「表向きには、一部の生徒による度を越した私闘ということになっているわ。でも、演習場に設置されているはずの安全用の結界が、外部からの干渉で閉じ込められるように細工された形跡があるのよ。ターゲットは平民出身の特待生グループ。動いているのは、血筋を重んじて平民を排斥しようとする保守的な貴族派閥の取り巻きたちよ」


 シオンは立ち上がり、机に手をついて身を乗り出した。


「通常の治安維持部隊を向かわせれば、貴族との政治問題に発展して面倒なのだけれど、今のあなたたちはある意味で治外法権的な立場。政治的なしがらみを飛び越えて、問答無用で叩き潰せるわ。彼らに、学園のルールではなく『特別執行委員のルール』を教えてあげなさい」


「わかりました。政治のことはよく分かりませんが、閉じ込められて困ってる奴がいるなら、放っておけませんからね。ちなみに、どの程度までなら許されるんですか?」


「そうね、殺すのは後片付けが面倒だからダメ。さすがに庇いきれなくなるわ。けれど、後遺症が残らない程度に保健室送りにするくらいなら構わないわよ。言葉よりも痛みのほうがよく伝わる連中には、全力でやってきなさい」


「話が早くて助かります」


「聞いた、カズト? 保健室送りまでならセーフだって。ふふ、ちょうどいいテストの相手になりそうね」


 セレナも「教育的指導ですね!」と元気に意気込む。


 三人は生徒会室を後にし、中等部の演習場へと足早に向かった。


中等部・演習場前


 演習場の巨大な扉の前には、シオンの言葉通り、不自然な魔力の揺らぎを伴う結界が張られていた。


 中からは、下卑た男たちの嘲笑と、鈍い打撃音、そして押し殺したような苦悶の声が漏れ聞こえてくる。


「やってるな。零、セレナ様。まずはこの結界を破壊します。零、合図したら一気に突っ込むぞ」


「あ、言い忘れてましたが零。あなたのアルケミストの力を使ってはダメですよ? 雷は過去の文献にもあるので説明がつきますが、あなたの機械は流石に異質すぎます。ここでは魔力操作だけで戦ってください」


「えっ。まあ、確かに目立ちすぎちゃうか。仕方ないですね。あんな弱い相手にわざわざスキルを使うのも大人気ないし、この機会に火魔法の練習でも始めようかしら」


 零は少し残念そうにしながらも、指先に小さな火種を灯してみせた。魔力操作に長けている彼女なら、基本属性の習得も時間の問題だろう。カズトは一歩前に出て、扉に手をかざした。


「セレナ様こそ、あまり手を出さないでくださいね。あなたは一応、この国の第一王女なんです。汚れ仕事は俺と零で十分ですから」


「なんでですか! わたしだって昨日あんなに練習しましたのに。……むー、仕方ありませんね。どうしてもという時までは、カズトの後ろで見守っています。その代わり、格好悪いところは見せないでくださいね?」


「かしこまりました。よし、行くぞ!」


「いつでもいいわよ」


 カズトは右手に魔力を集中させた。トカゲ相手に散々繰り返した修行の成果――高密度の魔力を圧縮して鋭く成型し、結界に叩きつける。


 ――バリィィィィン!!


 ガラスが砕けるような轟音と共に結界が霧散し、巨大な扉が左右に弾け飛んだ。


 演習場の中では、三人の高等部生徒が地面に這いつくばる特待生を囲んで笑っていたが、その表情は一瞬で驚愕へと変わった。


「な、なんだ!? 何者だお前ら!」


「生徒会直属、特別執行委員だ。悪いけど、そこまでだ」


「 奴隷の分際で、何を偉そうに! おい、やっちまえ!」


 リーダー格の男が叫ぶと、取り巻きの二人――一人は土、もう一人は水魔法の使い手――がカズトに向かって詠唱を始める。


 しかし、その動きはカズトの目にはあまりに鈍く映った。


「遅いな」


 カズトは魔力による身体強化を併用し、地面を蹴った。


 次の瞬間、敵の視界からカズトの姿が消える。


「なっ、速っ!?」


「そこだ」


 カズトは水魔法を構えていた生徒の懐に一瞬で潜り込むと、掌を当てて雷の魔力を流し込んだ。


 バリバリッ!!


「ぎゃあああああああ!!」


 激しい衝撃と電流が駆け抜け、生徒の一人が白目を剥いて崩れ落ちる。


 さらにカズトは、その勢いのまま土魔法を放とうとしていたもう一人に肉薄した。


「次。ちょい強めにな」


 バチィッ! と空中で青い閃光が弾ける。


 防ぐ間もなく衝撃に打たれた二人目も、痙攣して動かなくなった。


「あーあ、加減したって言っても、やっぱり生き物相手には雷って強力よね」


 零が呆れたように呟く中、残されたリーダー格の生徒は腰を抜かして震え始めていた。


「ひ、ヒィッ! 化け物かお前っ、寄るな! 寄るなよ!!」


「一応、私も仕事しておかないとね。」


 零は冷めた目で見下ろすと、ゆっくりと拳を固めた。


 恐怖を植え付けるためにわざと時間をかけ、全力の拳を男の顔面目がけて突き出す。


 ――ドォォォォォンッ!!!!!


 演習場全体が震えるほどの衝撃音。


 だが、零の拳は男の頬を僅かに掠め、背後の分厚い石壁を粉砕していた。


 壁には大きな穴が開き、瓦礫がパラパラと地面に落ちる。


「あ……あが…………」


 拳の風圧だけで顔を引きつらせた男は、恐怖のあまり泡を吹いてそのまま崩れ落ちた。


「当てるまでもなかったわね。」


 零は平然とした顔でカズトの隣に戻ってきた。


 壁の大穴を見て、カズトは引きつった笑いを浮かべる。


「零、それ後遺症が残らない程度じゃないだろ。当たってたら保健室じゃなくて墓場行きだったぞ」


「失礼ね。分かってるわよ。だからちゃんと外してあげたじゃない。さて、掃除完了ね」


 隅で怯えていた平民生徒たちが信じられないものを見るような目でカズトたちを見つめる中、セレナが優雅に歩み寄った。


「お見事でした、二人とも。さて、まずはあの方たちを解放してあげませんと。それから、この方たちは治安維持部隊に引き渡しましょう。特別執行委員としての初実績、幸先のいいスタートですね」


 カズトは倒れた貴族生徒たちを一瞥し、「これが学園生活の初仕事か、先が思いやられるな」と小さく溜息をつきながらも、どこか充実感を感じていた。

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