本戦第三試合
再び一時間の会場整備を経て、本戦第三試合が始まった。
石畳の闘技場は、先ほどまでの激戦の痕跡を消し去り、何事もなかったかのように整えられている。
時間は空いたが観客席に残る熱気だけは消えず、むしろ試合を重ねるごとに濃く積み重なっていた。
「皆様、戦技祭は楽しんでいただけているでしょうかー!熱戦続きの本戦も、いよいよ本日折り返しの第三試合!今年は例年にないハイレベルな戦いが続いております!次のカードも期待大だー!」
実況の声に呼応して観客席が揺れる。
「向かって右側!盾も魔法も、その拳で叩き砕いてきた学園屈指の肉体派!今年初参戦の高等部三年、特待生エリカ選手!」
地鳴りのような歓声の中、エリカは静かに呼吸を整えながら正面を見据えていた。
興奮に飲まれるでもなく、かといって沈みすぎることもない。
戦闘前特有の研ぎ澄まされた高揚が、自然と全身に満ちている。
「対するは左側!その身のこなしはまさに芸術!珍しい武器、刀を自在に操る高等部二年!男爵家のレイン選手!昨年も本戦に出場した実績のあるレイン選手!惜しくも1回戦で敗退しているが、今年は雪辱を果たせるのか!」
対するレインは、鞘に収まった刀に手を添えたまま微動だにせず立っているが、その姿勢には一切の緩みがない。
「第三試合――開始!!」
その一声で空気が切り替わり、互いの意識が真正面からぶつかり合う。
エリカは正面のレインを見据える。
構えに無駄がない。
重心は低く、どの方向にも即座に動ける位置にあり、呼吸も乱れが見えない。
(……迂闊に踏み込めば、斬られる)
間合いに入った瞬間に終わると確信させる完成度。
それでも踏み込みたいと感じてしまう衝動が、エリカの中で自然と膨らんでしまう。
この異常性がエリカの強さでもあった。
「ふぅーっ……いきます!」
肺の奥まで空気を入れて吐き出すと同時に地面を蹴り、そのまま一直線にレインへと踏み込んだ。
フェイントも小細工もない愚直な突撃に、レインの思考が一瞬だけ揺れる。
(誘いか?)
だが動きに不自然な点はなく、そのまま斬る判断に切り替わる。
エリカが間合いに入った刹那、鞘走りと同時に放たれた横薙ぎの一閃が空気を裂き、首を正確に捉える。
ガキン、と人体からはあり得ない硬質な音が響くと同時に、刃が途中で止められた。
視線を落とした先で、エリカが右手の甲に魔力を集中させて刀身を受け止めていた。
受け流すのではなく受け止めるために凝縮された魔力が斬撃の威力ごと押し返している。
(全身の防御を捨てて全ての魔力を一点に集中させたのか)
確かに魔力を一点に集中させればその分防御力は高まる。
自分にだってやろうと思えば出来るが、他の部分の防御を捨ててまでやる事に意味があるとは思えない。
ほんの僅かでも位置がずれていれば、そのまま両断されていた自殺行為とも取れる行動なのだから。
(……狂っている)
そう判断した直後には、その狂気が成立している現実を認めざるを得なかった。
「命が惜しくないのか」
思わず漏れた言葉に対し、エリカは自分の読みが当たったことと、それを成立させた事実そのものに高揚し、「ふふふ」と笑みを浮かべたまま踏み込む。
止めた刀を押しのけて距離を詰め、そのまま拳を振り抜く。
超至近距離で攻撃を止めれれば回避の余地はなく、拳が胸部にめり込み、鈍い衝撃とともにレインの身体が後方へと弾き飛ばされた。
だが、エリカは手応えに対して飛び方が大きすぎると感じた。
本来ならこのまま連撃に繋げて一気に勝負を決める算段だったのだが、どうやら一撃止めた程度では簡単には決めさせてくれない様だ。
レインは衝撃を受けた直後に自ら後方へ飛ぶことで威力を流し、空中で体勢を整えながら距離を取っていた。
(受け流す動きがスムーズ過ぎますね。止められる可能性も考慮済みですか)
必殺の一撃だからこそ、通じなかった時には切り返し手段を用意しておくのは強者と戦う上で必要不可欠なことである。
レインは居合いが通じなかった場合を織り込んだ動きの一つとして、衝撃を受け流す訓練を何度も積んできていた。
「あの距離での攻撃を最小限に抑えるなんて……やはり貴方は強いですね」
エリカが素直に評価を口にすると、レインは刀を構え直しながら低く言い放つ。
「あんな自殺まがいの特攻が何度も通用すると思うな。死んでも責任はとらんぞ」
戦技祭では稀に死者が出ることもあるとは言え、殺したいわけではない。
2度目はないと言う警告と同時に、無駄な殺しは望まない意思が滲む。
「ご忠告ありがとうございます。でもご安心を」
「次は――今よりもっと硬くなりますよ」
その言葉と同時に、エリカの身体が淡い光に包まれた。
なんだかんだでもう100話。
見返すと書き直したい部分がたくさん出てきてしまう。
未熟ですが引き続きよろしくお願いします。




