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本戦第二試合

 会場整備が終わり、本戦第二試合が始まろうとしていた。

 観客のざわめきが徐々に熱を帯びていく。


 対戦カードは、予選でも話題を集めた魔獣使いの特待生グレイシア。

 そして対するは、双剣を操る高等部生徒エドワード。


 異質な組み合わせに、期待と興奮が入り混じる。


 やがて実況役の生徒が、声を張り上げた。


「皆さまお待たせ致しました!第一試合の激闘を経て、会場整備も完了!

続いて行われますは――本戦第二試合です!!」


 歓声が一段と大きくなる。


「まずは右側!魔獣を使役する希少な魔道具で一躍注目を集めた中等部特待生――グレイシア選手!

使い魔との連携によるトリッキーな戦術で、ここまで勝ち上がってきました!

その戦い方はまさに未知数!本戦でも嵐を巻き起こすのかー!?」


「対する左側!由緒正しき伯爵家出身、高等部三年――エドワード選手!

あのSSランク冒険者“シン”様に憧れ、難度の高い双剣の道を極めるべく日々研鑽を積む努力の剣士!

その華麗にして鋭い剣技、刮目せよ!!」


 観客席から歓声と期待の声が上がる。


「技巧か!戦術か!勝利を掴むのはどちらだ!?

 それでは!戦技祭本戦第二試合――開始ぃいいいいい!!!」


 開始と同時に、グレイシアが動く。


「――まずは様子見です」


 右手を軽く前に振ると、次の瞬間地面が盛り上がり、無数の礫がエドワードへと撃ち出された。


 ストーンバレット。


 牽制としては十分すぎる密度だったが、エドワードはその場から一歩も動かない。


「……遅い」


 双剣を抜き、キン、キン、キン、と乾いた音が連続する。


 迫り来る礫が、すべて正確に斬り落とされていく。


「なら、これはどうだ」


 間髪入れず、グレイシアが次の魔法を展開する。


 水が空中に集まり、鋭い刃へと変わる。


「ウォータースラッシュ!」


 放たれた斬撃が空を裂ぐが、同じく双剣がわずかに交差する。


 それだけで、水の刃もまたあっさりと断ち切られた。


「……なるほど」

(全部見切られてるか)


 ならば出し惜しみは無意味であり、首元の宝石に手をかけて呟く。


「おいで、キキ」


 呼びかけに呼応するように宝石から光が弾ける。


 次の瞬間、ぽん、と軽い音と共に現れたのは、狐型の使い魔。


 ふわりと揺れる尾の愛らしい姿に、観客席から歓声が上がる。


「盛り上がっているところ悪いが、勝負なのでな。

その使い魔、斬らせてもらうぞ」


 見た目の可愛らしさから普通であれば倒す事を躊躇う者もいそうだが、構える双剣からは一切の躊躇を感じさせない。


「使い魔は斬られても時間が経てば復活できますから、お構いなく」


 遠慮なんて必要はないとグレイシアは返した。


「――斬らせませんけどね」


 指先で合図を送ると、キキの瞳が光る。


 次の瞬間、周囲にいくつもの鬼火が浮かび上がった。


 ゆらゆらと揺れながら、不規則に軌道を変える炎。


 それらが一斉にエドワードへと襲いかかる。


「……ほう」


 この試合、初めてエドワードが動いた。


 滑るような足運びで位置を変える。


 鬼火の軌道を見切り、全方位から囲まれないように動き回る。


「まだいきます!」


 グレイシアの魔力がさらに高まり、再び地面が震えてストーンバレットが放たれる。


 鬼火と礫。

 上下左右、あらゆる方向からの同時攻撃。


 エドワードは回避に専念せざるを得ない状況となる。

(悪くない連携だ)


「そのまま、削られてください」


 戦場の主導権は、完全にグレイシアが握っていた。


「おおよそのパターンは把握した。次はこちらから行かせてもらう」


 グレイシアの猛攻の中、その僅かな間隙を縫うように、エドワードが踏み込む。


 双剣をクロスさせた構え。

 そこへ魔力が一点に収束していく。


「クロスブレイク!」


 放たれたのは、巨大なX字の斬撃。


 一直線に薙ぎ払うその一撃は、鬼火もストーンバレットもまとめて切り裂きながら、一直線にグレイシアへと迫る。


「くっ、キキ!」


 呼応するようにキキが前へ出ると、目の前に透明なシールドが展開される。


 キィン――!


 甲高い音が響き、斬撃はエドワードへと跳ね返された。


「カウンター系の防御技まで使えるのか!」


 観客席でカズトが思わず声を上げる。


「自分の斬撃を味わえ!」


 弾かれた斬撃をそのまま返すして、驚いている隙を狙う――そう確信して視線を向けた瞬間。


 そこに、エドワードの姿はなかった。


「いない!?どこへ――」


 言い終える前に、横から気配が迫ってきていた。


「遅い」


「くそっ!」


 反射的に土壁がせり上がる。


 だがそれは即席であり、防御力は乏しい出来栄えだ。

 双剣は迷いなく、それを切り裂いた。


「ここまでだ」


 振り抜かれる刃は、確実に勝負を決める一撃だ。


「キキ!」


 声に応じてキキが二人の間に飛び込み、爪で迎撃する。


「邪魔だ」


 一瞬の躊躇もなくグレイシアに放つ予定の一本をキキに浴びせる。


 キキの身体が光となって霧散した。


 その勢いのまま、もう一本はグレイシアへ届く。


 肩口から腰にかけて深く切り込みが入る。


「ガハッ」


 手応えは、確かにあった。

 致命の一撃。


(勝った)


 エドワードがそう確信したその瞬間、違和感を感じとった。


 斬った感触が、あまりにも軽い?


「……なに?」


 グレイシアの身体がゆらりと揺らぎ、そのまま霧のように消えた。


「なっ……幻影だと!?」


 エドワードが切ったのは本体ではなかった。


 先ほど土壁で視界が遮られた刹那。

 その一瞬で、グレイシアは位置を入れ替えていた。


(しまった――)


 思考が追いついた時にはすでに遅く、背後から声が聞こえる。


「――遅いのは、そっちです」


 振り向く間もなく、膨れ上がった巨大な鬼火が目前まで迫っていた。


 エドワードは回避できずに直撃を受ける。

 轟音と爆炎が闘技場を包み込んだ。


 その威力の高さに観客席がどよめく。


 やがて煙が晴れていき、その中から現れたのは――


 片腕を前に出し、防御の構えを取ったエドワードだった。


 左腕は焼け焦げ、力なく垂れ下がっている。

 すでに双剣の片方は握れていない。


「……してやられたな」


 大きなダメージを負ってなお、戦意は消えていない。


 対するグレイシアは、わずかに息を乱していた。


「あの攻撃を受けて、腕一本だけですか……」


 自力はエドワードの方が上であり、今の攻撃で決めきれなかったのはかなり厳しい状況だ。


 幻影、鬼火、連続した大技で、消耗は決して軽くない。


(まだ……終わっていない)


 対するエドワードもまた、片腕を失いながらも立っている。


 互いに決定打を欠いたまま、戦況は振り出しに戻った。


「こちらの魔力にも余裕がありません。次で決めさせてもらいます」


 自分に言い聞かせる様に告げると同時に、グレイシアの姿がぶれる。


 次の瞬間、そこには五人のグレイシアが立っていた。


「……分身か」


 エドワードの目が細まる。


「幻影ではないな。本体と同じ質量を持っている……さっきの使い魔も、これで守ったか」


 斬った感触は確かにあった。

 だが消滅せずに今でもフィールドにきる違和感の答えがこれだった。


(魔力の消費は相当なはず……)


 それでも使ってきたということは。


(これが、最後の切り札か)


「いけ!」


 号令と同時に、三体のグレイシアが一斉に踏み込む。


 三方向からの同時接近だが、陽動である事は見て取れる。


(本命は別だな)


 魔法主体のグレイシアがわざわざ接近戦を仕掛ける理由はない。


 狙いが撹乱なのは分かってはいる。


 それでも――


「くっ……!」


 今のエドワードには、それを無視して突き進む余力はなかった。


 三体を迎撃。


 斬る。


 さらに一体。


 もう一体。


 全力なら1秒で切り伏せられるはずの処理に、僅かに時間を取られてしまう。


 削りきるまでに、およそ十秒。


 その“たった十秒”が、致命的だった。


 残る二体が、左右に展開する。


「メテオカノン!」


 地面が軋み、巨大な岩塊が生成される。


 左右から同時に放たれる挟撃。


(両断できるか?いや、これは無理だ)


 片腕は死んでおり、剣は一本しか使えない状況での正面突破は不可能。


 今からでは回避も間に合わない。


(なら――)


 一瞬の判断でエドワードは、迷わず左側の岩塊へと跳んだ。


「なっ……!?」


 グレイシアの目が見開かれる。


 そのまま、岩の進行方向に身体を預ける。

 (確率は二分の一)


 反対側から迫るもう一つの岩塊がぶつかる間際


 「はあああッ!!」


 右手の剣が閃いた。


 斬撃一閃。


 逆方向から迫る岩塊を半分に切り裂き、岩は左右へと開いて飛んでいく。


 ぶつかる予定だった岩の軌道は、そのまま真っ直ぐとグレイシアへと向かっていく。


「そんな、無茶苦茶な!?」


 予想を超えた挙動に思考が止まり、回避が遅れてしう。


 衝突直前に、エドワードは岩塊から飛び退くと、そままグレイシアに直撃し轟音を鳴らす。


 自らが放った一撃をその身で受ける形となったグレイシアは、爆ぜる衝撃と共に身体が吹き飛ばされた。


 砂煙が舞い上がり、静寂が訪れる。


 その中心に立つのは、片腕を失いながらもなお剣を構えるエドワードだった。


 そして砕け散った岩の残骸の中心に、グレイシアは横たわっていた。


 全身は傷だらけで、呼吸はあるがもはや立ち上がる気配はない。


 魔力は枯渇し、使い魔の気配も消えている。


「グレイシア選手、戦闘不能につき――エドワード選手の勝利!!」


 一拍の静寂。


 そして次の瞬間――


 ぉおおおおおおおおお!!


 闘技場が、大きく揺れた。


 歓声、拍手、ざわめき。

 あらゆる熱が一斉に爆発する。


 それだけの試合だった。


 最後まで読み切れない攻防。

 一手の判断が勝敗を分けた、極限のせめぎ合い。


 観客席で、カズトが小さく息を吐く。


「……すごい試合だったな。最後の飛び乗った岩が逆だったら、受けたのだ本体じゃなくて分身だった」


額にうっすらと汗が滲んでいる。

無意識に、見入っていた証拠だった。


「そうなっていたらまた勝負はわからなかったかもね。学生の試合でここまでのものが見られるなんて、正直驚きだわ」


 隣で零も素直に感嘆を漏らす。

 その視線は、未だ闘技場から離れていない。


「今年はかなりレベルが高いですね」


 セレナが静かに言葉を重ねる。


「どちらの選手も、例年であれば優勝候補に挙がっていてもおかしくありません」


 治療班に運ばれていくグレイシアと、片腕を失いながらも立ち続けるエドワード。


 その対比が、この試合の激しさを何より物語っていた。


「……次はもっと厄介なのが来るな」


 カズトがぽつりと呟く。

 本戦は、まだ始まったばかりだ。

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