卒業へ
感傷に浸りながらも
またいつも通りの日々を過ごす
週末…金曜は外泊して
土曜は狩りや採取、屋敷に泊まり
日曜は昼間ダリルさんと会ったり
して、屋敷で夕食大体屋敷に泊まる
こんな感じの繰り返しだ
狩りの休憩中にも
卒業後の話が出る
フェリクスはリーゼに婿入りするのは
どうか…と迷っている
商人には商売の才覚がなければ
駄目なのではと
むしろ冒険者の腕前を上げて
仕入れや隊商の護衛をするのが…とか
ルートは元々トーレス男爵領には
帰らない…学校に入れてもらったのが
手切れ金代わりみたいなもので
できれば領地で不遇な扱いを受けている
母親を呼び、今まで貯めたお金で
ささやかな家を持ちメリッサと
家族になりたいそう
メリッサも賛成している
みんな大人になったものだ…
そして…また…
「頑張って稼ごう!」
と狩りを続ける
私はとりあえず…
「マルノー領地は稼げるから卒業しても
みんなで行こうね」
くらいしかいえない…
私が卒業したらエリックが王都に来て
…マルノー家のあり方も
変わってゆく…その中で
どう生きるのか?答はまだ出せない…
ダリルさんとは…結婚するのか
私の家族たちはどう思っているのか…
私はどうしたいのか…
ぐずぐずと悩んでいた
実りの秋…
とりあえずみんな学生のうちに稼ごうと
ばかりに頑張っていた
私は実のところ使い切れないほどの
財産はもう持っている…
しかし何があるかわからないので
稼いでいた…
そうしたある日、
来週の週末は予定を空けておくよう
ダリルさんに言われた
「マルノー家に行く…子爵には通信機で
連絡をしておいた…転移を頼まれるはず
だ…」
「はい…」
「ライラ…成人になっただろう?」
あ…そういえば…そうだ
「ライラのご両親たちに…改めて挨拶に
伺う…意味はわかるな?」
「えっ?…あ…はい」
「ライラに先に相談するか…迷ったが…
その…ライラは異存はない…よな?」
いつになく真面目な顔のダリルさん…
私も真面目な顔をして…顔が熱い…
「…ライラ…ご両親のお許しがあれば…
俺と…結婚してほしい…」
「あ…私…私で良いの?…本当に…」
恥ずかしくて顔…見られない
だから…抱きついた…
ダリルさんの心臓の音が聞こえる
「ライラこそ…俺みたいな…」
「俺みたいなヤツなんて…言わないで!」
押し倒してあげる
上から見下ろして
「私はダリルさんと一緒にいたい…あんな
危ない仕事するような…ダリルさんから…
もう離れたくない…」
一気に言った…
その後は暫く…ちょっと…内緒で…
ダリルさんの胸に頭をのせて
心臓の音を聞きながら…
聞きたかって聞けなかったことを…
思いつく限り聞く
「ダリルさんは…今まで…好きになった人
くらい…いたよね」
「この年だ…いたよ…すぐダメになったが…俺は…ライラに言われてわかったよ」
「…何が?…わかったの?」
「ちゃんと…愛してなかった…そうしよう
と…努力もしなかった」
「…………」
「俺は好きになっても…勝手に生きて…
泣かせてばかりで…どうしたらいいか
…わからないまま…みんな離れて行った」
それは…ダリルさんは…辛い思いをして…
家族を失って…不器用な…でも一生懸命に
生きようとして…
「子供だったんだな…年だけとって…」
例えば泣かせて悪かったと言えば良かった
のかも知れない…ちゃんと向き合って
心の内を話せば…でもしなかった…
いつもそうだった…
「ライラは真っ直ぐに俺を見て…笑い…
子供だと思っていたのに…何か話しても
すぐに理解して…受け止めてくれるよう
な…」
ライラと王都で再会してから自分が
少しずつ変わった自然に生きていける
ようになり冒険者としてだけではなく
仲間と信頼し合っていけた…
そう語った…
「私は…何もしてないよ…」
「そうか?何かたくさんもらった気がする」
「私はダリルさんにもっとたくさんのもの
をもらってますよ…」
まあ、ご両親が許してくれるかどうか
だな…と
不良娘は朝帰りした…
次の週末は父様とアメリア母様を
領地から運び…
緊張して屋敷で待つ…
ダリルさんは転移ではなく
ちゃんと歩いて来るそうだ
お昼前…正装ではないが
貴族風な長い上着に清潔そうな姿の
ダリルさんが柄にもなく手土産を持ち
現れた…
応接室に通されみんな真面目な顔
居心地が悪い
「本日はお時間をとっていただきありがとうございます」
「ダリルさんには色々と世話になっている
ので、あまり気使いはなしでいこう」
「では…ライラ…お嬢さんも成人になられ…改めてお願いがあります」
父様と母様たちは澄ました顔…
「私は一介の冒険者の身ですが…その…
ライラさんとの結婚をお認めいただきたく
お願いに伺いました」
父様の真面目な顔…
「…ふむ…ライラには…大層な心配をかけ
…私たちも見るのも辛い思いをした…そんな男に娘をやるのは許せん……と言いたいが
…ライラが信頼し尊敬を寄せるのも事実だ」
父様と母様たちが頷きあう
「…ライラを泣かせるようなことは…
しないと…約束してほしい…それだけが
私たちの願いだ」
頭を下げるダリルさん
「…必ず…お約束を守ります」
…緊張が解ける…
「さて…昼食は…一緒に食べていって
くれるかな?」
父様の1言で母様たちは
頷き合い準備の指図をし始める
「アメリア母様…エリックは?領地から
呼びますか?」
「大丈夫よ…昼食を1人で食べるくらいは
できますよ」
父様とダリルさんは
領地の魔の森の話などを始めて…
昼食はちょっといつもより豪華な…
ルシウスは冒険者話が
聞きたそうだったけど…今日は
父様とダリルさんが主に会話する
ラトゥール侯爵家の再興の話も
ダリルさんの方から話し始め
いずれ再興するつもりだそうだ
意外な話は…ダリルさんが…
私を魔術学院に行かせては?と提案した
ことだ…
魔術学院は大学のようなもので
各種学校を卒業した者が試験を受けて
入るか、在野の高名な魔術師が招聘
される場合もあり
学年の年限は一応3年だが、それぞれ研究室に所属して研究を続ける者が多く
魔術ギルドとの連携もある
講義の取り方も自由で
家庭を持ちながら研究する者も多い…
結婚の時期については
侯爵家を再興する前に…できればと…
冒険者としてなら友人も招きやすい
侯爵家と子爵家となると
相応のものになり、それぞれの友人は
遠慮してしまうだろうから…
ルシウスは…何のこと?みたいな顔
私も聞いているだけ…
昼食が済み
ダリルさんは父様たちに挨拶をして
帰り…私は父様とアメリア母様を
領地屋敷に送って行った
セシリア母様は…
エリックの入学もあるし
腕まくりしそうな勢いで
「忙しくなるわね」
と…嬉しそうで…
婚約披露は正式にはしないが
卒業後に友人たちと料理屋で…
まあ、飲み会をする予定
卒業まではいつも通りに…
デートも公認になったし
学校と冒険者稼業に精を出して過ごす
図書館通いも…もちろん
魔術学院についても調べたり
入試対策本を見つけて読んでみたが
何とかなりそうな感じ…実技で…
ミヤビ王国に行く夢は…
諦めてはいない…ダリルさんと相談
しながら進めていくつもりだ
幸いこの大陸の言語は共通だ
言語から学ぶとなれば夢が遠のく
ところだった…
また、領地の西の山脈に
鉱山開発のために
少しずつ道を作っている
今後のためを考えてレナート領との
街道の近くから登れるような位置に
木を切り岩を砕き
整備すれば馬車も通れる幅の道を
こつこつと作っている
まだ趣味でやっているようなものだけど
鉱山開発ができれば
レナート領もマルノー領も潤うだろう
私の魔力も増えて丁度いい鍛錬だし…
いよいよ卒業式の日がきた…
5年間…たくさんのことがあった
感無量だ…子供から大人に…
多分この人生のなかでも重要な時期
を過ごした…
それぞれの思いを胸に…
泣いている者も多い…
式は粛々と進み…校長先生の話はまた
長かったけれど…
私たちは普通科学校の5年を終えた…
さて、今日は
卒業祝いも兼ね婚約披露代わりの
飲み会…成人したからお酒も飲める
リーゼたちとダリルさんの仲間たちを
呼んで…料理の美味しい酒場で…
「まずは卒業おめでとう!」
乾杯する
あまり強くないお酒を選び
飲んでみる……大丈夫そうだ
前世では若い頃結構飲んだ
結婚して子供が生まれてほとんど
飲まなくなった…
夫がよく飲む人だったので…私は
飲まない…子供は夜中に熱を出すことが
多い…素面の大人がいないと大変だ
この人生のこの身体は…お酒…
どうだろう?酒癖悪いとかだと…
笑える…
ちょっとずつ飲むことにする
料理も運ばれて…
「さて、それから…」
ダリルさんの仲間が声をかける
「冒険者一筋…剣とでも結婚するのか?
と思われたダリルさん…婚約おめでとう!」
みんなにひやかされる…
「おまえたちもそろそろってヤツ…
居るだろうが」
「フェリクスとリーゼもルートと
メリッサも…結婚式は呼んでよね」
反撃はしておく
あとはもう…飲んで騒ぐだけ
気楽な仲間と気楽に騒ぎ…話し…
料理を食べ…お酒を飲む…
幸せな時間を過ごした。
この世界に生まれて15年…
一生懸命に生きてきたつもりだ。
この先にどんな人生が待ち構えているのか…
一歩ずつ前に進む…新たに決心した。