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第七十七席 引きずり下ろすより先に説得をさせてください

 絶え間なく響く音色。

 激しく刻まれるその根源は、村の広場に建てられた大樹を象るやぐら。その頂点に。

 脇に抱えた太鼓で、アップテンポかつでたらめなリズムを刻むマントの人物。

 それが村人の困惑を集める異常そのものである。

 フードを被った異様な人物は、集めた奇異の目にまるで構わず、ただ抱えた太鼓を打ち鳴らし続けている。

「なんだい? あれは?」

「いや、僕にも何が何やら……?」

 遠目にその姿を認めたミッテウルのかすれ声。

 しかし聞かれても利康にも心当たりなどあるはずもなく、ただ困惑の思いを真正直に口にするほかなかった。

 あのやぐらの意味を知っているにしろがいないにしろ、あのようなふるまいをする知人はいないからだ。

 少なくとも人間には。

「とりあえず、降りてもらいましょうか?」

「そうですね。まずはそこからですか」

 このまま遠巻きに太鼓を聞いていても仕方がない。

 と言うことで、フミニアの言にうなづいた利康たちは、足早にやぐらの下へ。

 親族であるエルフの名士を含んだ村長一家。

 その登場に、村人たちから異常の解消を期待してか安堵の息が。

「僕らでなんとかしてみます」

「安心してください」

 そんな人々に夫婦で声かけなだめながら進んで行くと、黒地に白の法衣に身を包んだ神官の背中が。

 すると、お腹の大きな妻と並んでやぐらを見上げていたエルネストが振り返り、片手をあげて一行を迎える。

「おお、来たかトシ。こいつは勢ぞろいで」

「はい。それで、あの人は?」

 祭を仕切る役を担う神官は、合流した利康に肩をすくめて頭を振る。

「俺が来た時にはもうてっぺん近くにまで登ってた。女のようだが、顔は見てな……」

「ヒヤッハァアアアアアアアッ!!」

 エルネストの言葉を遮り響く奇声と太鼓の連打。

 そのけたたましさに、一同は濃淡様々ながら揃って顔をしかめつつ上を見る。

 昂ぶったをそのままに解き放ったかのような声の高さ。

 そしてマントから見え隠れする旅装に包まれた線の細い体。

 そこから見るに、女ではないかというエルネストの見立ては正しいと思える。

「……彼女がどなたか、心当たりは?」

「は? あるわけないだろ?」

 やぐらの上で荒ぶっている人物。

 もし彼女がレンボルテオラスに由来するのなら、その聞こえし者であるエルネストにも託宣という形で連絡があるかもしれない。

 そう推測しての質問であったが、それもまったく無かったようである。

 とにかく荒ぶる彼女が何物であれ、やぐらから降りてもらわないことには話にならない。

 無視して収穫祭を進行するには、やかまし過ぎて落ち着かないからだ。

「もしもし!? やぐらの上に居座っている方!?」

 利康がやぐらの下から声を張り呼びかける。

「ハァイ! ハイハイハァイッ!」

 しかしてっぺんに陣取った女はさらに発奮。

 より激しさを増して太鼓を打ち鳴らし続ける。

 はなから聞く気がないのか。あるいは騒音と奇声とで押し返してしまっているのか。どちらにせよ利康の声はまったく届いた様子がない。

「どーする? ちょろっと強い風で叩き落とそーか?」

「ちょ、ダメよ姉さん!? そんないきなり!?」

 その態度にアイアノが眉を跳ね上げ、剣呑な提案を。しかしそれは慌てたフミニアが遮り待ったをかける。

「えー……だってさ、しょーじきフミもむかついてるっしょ? ドンドコドーンってやかましくして、トッシーのこと無視してくれてさぁーあ?」

「それは、まぁ……正直に言うと……」

 だが声に波紋を乗せたアイアノが本心を問えば、フミニアも目を泳がせて、皆まで言わないものの否定はしない。

「なーら、いいじゃなーい? この辺りであーんなふざけたことしでかしたーんだし、ちょっくら痛い目あわせたっていーっていーって」

 あまりに礼を失した、おふざけの過ぎる行いへ、ちょっときつめのお仕置きをするだけ。

 その理由を盾に、魔法での折檻も正統な行いに過ぎないと、アイアノは主張する。

 地球いせかいで例えるならば、鳥居や仏像、十字架などを踏み台に、信者の前でへヴィメタルのコピー演奏をしているといったところであろうか。

 問答無用で叩き落されて、簀巻きに捕まえられても仕方のない所業である。

「……でもダメ! もう少し、もう少しだけでもこらえて穏便に!」

「そうだな。やるなとは言わないが、短絡的なのはよくない」

 だがフミニアは、そんな姉の主張をどうにか振りほどくと、過激な手段に訴えるのはまだだ、と。

 そしてミッテウルもまた下の娘に続いて、荒っぽい手を使おうとする長女を引き留める。

 妹と父からのブレーキに、アイアノは唇を尖らせてぶぅぶぅと。

 それに新種豚亜人マイルド・オークであるポリーヌが困り笑いを。

「トシヤスさん、どうしましょう? なにかいい考えはありませんか?」

 不満たらたらにぶうたれる姉は置いておいて、フミニアは傍らの夫へ尋ねる。

 騒がしいやぐらのてっぺんを思案顔で仰ぎ見ていた利康は、それを受けて顎を引く。

「精霊魔法をお願いします」

「ええッ!?」

「いーよっしゃー! さっすがートッシー師範、分かってるぅ―!」

 続いた利康の思いがけない言葉。

 それにフミニアは目を見開き、アイアノは喝采の声を上げる。

「ど、どうしたんですかトシヤスさん! 一度無視されたからって荒っぽい手段に訴えようだなんて、らしくありません!?」

 慌ててフミニアは夫の腕を取り、その意思を取り消させようと説得を。

 しかし利康はそれに不思議そうに首を傾げる。

 だがすぐにお互いの間にある食い違いを察すると、頭を振る。

「ああ! 違います、違います! 声を届ける魔法をお願いしたかったんです!」

 慌てて伝わっていなかった分の考えもキチンと口に出して、言葉足らずで生じた誤解を解く。

 本人のやかましさで声が聞こえていなかっただろうと考えて、まずは精霊魔法で声を届けてもらおうというのが利康の考えであった。

 しかしそれでも無視して騒ぎ続けるようならばどうするのか。

 ならば、音の通らない結界に閉じ込めて、静かにしてしまおう。

 この二段構えの計画が利康のやぐらを占拠する女への対策である。

「そ、そうでしたか。そうですよね」

 利康の考えを聞いて、フミニアは和装の胸を撫でおろす。

 他の者たちもまた妥当なところだとうなづく。

 沈黙の結界から出て降りてきたのなら捕まえておとなしくさせてしまえばいいだけなのだから。

 しかしその一方で、荒っぽい手が使えると喝采を上げていたアイアノは、ただ一人つまらなそうに唇を尖らせている。

「ほーん……でーもさ、脅かして落っことしちまっても構わーんっしょ?」

「いやダメですよ? 事故なら仕方ないですけど、ワザと脅かすつもりはダメですからね?」

「ちぇー」

 ニヤリと口の端を持ち上げて言うアイアノ。それに利康はやんわりとくぎを刺す。

 それにアイアノはまたに唇を尖らせてそっぽを向く。

「じゃあ、お願いできますか」

「はい。任せてください」

 それをよそに利康は妻であり一番弟子であるフミニアへ精霊へ助力を願うように頼む。

『風の乙女よ……私たちの声をあのやぐらの上にまで届けて……』

 利康の願いを受けて、フミニアは力ある言葉でさっそく風の精霊に依頼を。

 フミニアの声を受けて渦巻き、少女の姿を取った輝く風。

 精霊としての姿を現した風は、フミニアの魔力を帯びた願いにうなづくと、すぐさまその体をほどいて上昇気流に。

 渦巻き昇ったそれがやぐらの頂点に届いたのを確認して、利康はメッセージを送ろうと口を開く。

「ワァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「うわぉ!?」

 だが利康が何か言うよりも早くアイアノが声を張り上げる。

「ちょ、何するの姉さん!」

「あーびっくりした! びっくりしたなぁもう!」

 不意打ちのそれに飛びあがった周りの人間が、声を上げる中、悪戯成功を果たしたアイアノは舌を出して額をぴしゃりと。

 その一方で利康は弾かれたように天を仰ぐ。

 するとやぐらのてっぺんでは、バランスを崩したフードの女が今まさに足を踏み外すところであった。

今回もありがとうございました。

次回の更新予定も日時ともに未定です。気長に待っていただけたらありがたいです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


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