第三話「リスクテイカー」
「有原さん!」
熊谷が慌てて実験中の俺の元にやってきた。
「どうした?今、手が離せないんだが、、、。」
「例の提案、許可が降りましたよ。」
「そうか、、、。忙しくなりそうだな。」
熊谷は温度差を感じたのか不思議な顔をした。
「有原さんは、どうしてそんなに冷静なんですか?」
俺は実験中の手を止めて、熊谷を正面から見た。
「結局どうしようが会社や世の中は回るからだ。俺たちは所詮組織の歯車なんだよ。」
熊谷は大きく溜息をついた。
「有原さん、、、。それじゃあ生きてて虚しくなりませんか?」
「あのなあ、人生ってのは諦めと妥協の連続なんだよ。大きく成功したければリスクを取らなきゃいけないが、今回のはあまり旨みがない、、、。だからさ。」
熊谷は顎に手を当てた。
「ならなぜ、今回は動いてくれたんです?」
「俺が技術者で、お前が信頼できるやつ、だからだ。」
「、、、なるほど。なんと言ったらいいかわからないですが、変に勘繰ってしまい、すみません、、、。」
「、、、ところで、予算とか納期は言われたのか?」
「そこはざっくり一年以内、と。予算は応相談、と言ってましたね。」
「なるほどな。ある程度は自由にやれるわけだ。それじゃあ次は、、、。」
「専門家探しだ。」
「え?自社でやればいいんじゃないですか?」
「馬鹿言え、自社だけでやるとなると実装する時に困るんだよ。餅は餅屋だ。とりあえず協力してもらえそうな大学教授に片っ端から会っていくぞ。」
「、、、有原さん。」
「なんだ?」
「新しい事業を立てるのってすごく大変だったんですね、、、。」
俺は大きく溜息をついた。
「、、、だから言っただろう。割に合わないんだよ。」
ただ、最後にポツリと言ってやった。
「、、、まあ、こういうのが成長につながるんだよ。俺にとってもお前にとってもな。」
「なるほど、、、。転職する時に生かせますね!」
「馬鹿、そういうつもりで言ったんじゃねえよ。」
能天気な熊谷に、俺は呆れて苦笑いをした。




