表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/14

第5話【おそろしや、ヒロインの本性】

『レイラちゃんっ!!生きてたのね。怪我はない?痛いところは?ああ良かった、どうかよく顔を見せてくださいまし』

『レイラあ!アタシらがどんだけ心配したと思ったんだよ!ブッ壊れたって気付いてたくせに、勝手に帰りやがって…無事でよかった!!』


馬車事件の翌日。レイラは登校するや否や、突撃する勢いで押し寄せるフラワーとカーシマに囲まれた。彼女たちはレイラが驚いて固まっている所を突撃の勢いでスッとすり抜け、無言で後ろ歩きをし、何事も無かったようにレイラの左右で大きく騒いでいた。

レイラ自身、多少なりとも心配をかけたであろう自覚はあったが…、まさかここまで大々的に安心されるとは思っていなかった。なのでなんだか決まずくて、彼女は二人から視線を逸らす。

友情という感触は、彼女にはまだ難しい。


(よせ。あまり派手に喜ぶな。むず痒いだろうが)

『何言ってるの!本当に心配したのよ!』

『生きててよかったぜ!』

(そんな素直に嬉しそうにするな。恥ずかしくなる)

『前々から変わった子だとは思ってたけど、とうとうトチ狂ったと思ったのよ』

『てか逆になんで生きてんだお前、ちょっと気持ち悪ィまである!』

(おおびっくりした、舵を切りすぎだろ)


周囲の生徒からの視線も薄々勘づいている。流石に公爵家の馬車が事故にあったとなれば、貴族会を騒がせる程度には大ごとだ。さらに乗車していたのがあの悪名高きレイラ・ヴァン・スピリチュアともなれば、おのずと注目されるものなのだろう。

レイラは面倒だったので確認していないが、さては朝刊の見出しにでもなったのかもしれない。

公爵家の馬車が横転。しかしレイラは生きているどころか、目に見える怪我すらなく登校している。好奇の視線に晒されるのは妥当だろう。

というか家でもそういう目で見られている。侍従達に「人間ですか?」と聞かれたし、陰で「魔人ブウ」と呼ばれていることまで判明した。普通にちょっと嫌な気持ちである。


『んで?どうやって助かったんだよ。』

『気になりますわね。可能性としては、①奇跡的にブレーキが効いた②御者のドラテクで回避した③ぶつかる直前に馬車から飛び降りた…辺りが有力かしら』

『なるほどな!アタシは③でいくぜ!!』

(人の危機をクイズにするな)

『私は②に魂を賭けます』

(賭けるな。無いだろ)

『じゃあアタシはレイラの魂を賭ける!』

(賭けるな。せめて自分のを賭けろ)


レイラは呆れたまま背後を振り返り、曲がり角に向かって促すように首を曲げた。

フラワーとカーシマも釣られるように、レイラの視線の先を追う。

数秒の沈黙の後。

そこからヌッ…と現れたのは、背丈が八尺もあるような長身の美男子である。

ハーシャク・ホワイト。

黒く長い前髪の隙間から白の睫毛がシャラシャラと瞬きして、それが彼の戸惑いを表現していた。


(コイツの力を拝借したんだ。……おいハーシャク、コソコソ隠れるな。)

『申し訳ありません我が白百合。可憐な乙女たちの会話に僕が入るなど身に余る光栄、恥ずかしながら緊張してしまったのです。ぽ、ぽぽ……コホン。シュレッド嬢にカーシマ嬢、お久し振りです。昨日の馬車の事故は、レイラ嬢が僕を口寄せし大事を免れたのですよ。』

『うげ。全方位キザ野郎!』

『まぁ、ホワイト様!お久し振りですわ。なるほど、確かにそうね……、ホワイト様の力があれば、馬車を止められるもの』


フラワーとカーシマが思い思いの反応を見せる。有名な怪異同氏は案外知り合いである場合も多いし、彼と彼女達に関しては、レイラ経由で既に何度か会った事があるのだ。

簡単に言えば怪友(かいとも)である。


ハーシャクが昨日のことを二人に話すのを横目に、レイラは教室へと歩く。

周囲から視線こそ感じるが、特に何か声を掛けられる訳でも無い。何かあったとて、彼女が人間から腫物扱いされているのは変わらないのだ。むしろ死んでいれば都合が良かったと感じる者が何人いる事か……。

レイラの顔がかすかに曇った、その時である。


「レイラ様。少し来てもらっても良いですか。」

「……へ?」


そこにいたのは、ホーラ―であった。

ピンクブロンドのハーフツインが揺れている。

その表情は笑みでこそあるが、引き攣っているようにも、焦りが浮かんでいる様にも見えた。

これは彼女の隠しきれない心情か、それともレイラの彼女への猜疑心がそう見せているのだろうかは分からない。


『な、なんだコイツ!よく顔出せたな!?』

『レイラちゃん、行っては駄目ですからね。何をされるか分からないわ』

『そもそも、身分が下のものから上位貴族に声をかけるのもいかがかと。様子を聞くに、仲がよい訳でも無いのですよね?』

「……私にどんなご用事かしら。少しだけで構わないなら、時間がとれますわ」

『レイラ嬢!?』

『おい、マジかよ!』


霊たちが止めるのを無視し、レイラは背を向けて歩き出すホーラ―の後に続いた。

当然、これがホーラ―仕掛ける罠である可能性は充分だ。むしろその可能性の方が高い。

なので自分でもこの選択が正しいのかは分からないのだが、しかしあくまでホーラ―は、限りなく黒に近いだけのグレーなのである。黒と決めつけて突っぱねるのも周囲からの心象が悪い。

それにレイラは彼女と話すことによって、「白か黒か」の確信を得られるのではないかと期待しているのだ。


「……馬車が事故にあったと聞きました。お怪我はないですか?」


ホーラ―に連れられて来たのは、周囲に誰もいない裏庭だった。

レイラは周囲を見るが、人の気配どころか、朽ちた木製ベンチや錆びた鳥籠が転がっているような辺鄙な場所。まるで誰にも聞かれたくない話にはピッタリだ。


「まぁ、まさか貴女から心配してもらえるなんて。きっと学園内で話題になってしまっているのね、恥ずかしいわ。ご心配ありがとうホーラ―嬢。」

「あー…いや、別に、そんな。てかそれはどうでもいいっていうか。えっと、怪我は?してないんですか?全く大丈夫なんですか?」

「そんな。貴女にそこまで心配をかけるつもりはありません。そうやって気を遣ってくれる気持ちだけで嬉しいもの。」

「……だからッ!!!怪我すらもねーのかって聞いてんですけど!!!」

「……」

「隠したりしてません!?てか無傷な訳ないですよね!!」

『……ぽ?な、なんなんだ、話には聞いていましたが、彼女は……』

『……あぁ、なるほどね。事故に見せかけて殺すのは失敗したけれども、怪我さえしていれば、場合によっては…王子の婚約者から降ろすことは出来るものね。』


カーシマが冷静に、冷めたように分析する声が、レイラの耳には届いた。

怪我さえしていれば、場合によっては王子の婚約者から降ろすことは出来る。

事故により醜い傷跡を負ってしまったから、国の頂点である王家の婚約者には相応しくない、とか。それは冷たい話だが、日本と違って中世的なこの世界では、そのような価値観はある程度存在する。

むしろ婚約破棄したいレイラとしてはそれが理由で別れられるなら良い方だが、今回は彼女自身の機転により無傷である。わざわざ痛い思いをしたいとも思わない。


「…怪我?そんなものしておりません。奇跡的に、私はこの通り無事ですわ。」

「……なんで?」


なのでレイラは、微笑みながら答えたが。

それに不服なように声を上げるホーラ―の声が、彼女の言葉尻に被さった。


「ホーラ―嬢?」

「なんで無事なんだよ。馬車のブレーキが壊れて!!!!!カーブの道で馬車が大破して!!!!曲がり切れずに衝突したんだろ!?!?大怪我どころか、怪我一つないなんておかしいだろーが!!!!どんな手使ったんだよ!!!」

「お、落ち着いてくださいまし。ホーラ―嬢、運が良かったのです」

(……ああ、この言い方は……)

『黒じゃねーか』


フラワーのため息交じりの声が聞こえた。

ホーラ―の怒声は、もはやレイラの返事を待ってはいなかった。ただ一方的に不満を吐き散らし、素性を隠すつもりもない。レイラを敵視し、彼女が怪我を負う事を望んでいた。

ハーシャクがホーラ―を呪う準備をし、フラワーが水で顔面に狙いを定め、カーシマが足を掴もうとする姿がレイラの目に映る。

流石のレイラとて感じる心の痛みに、ホーラ―に怒ってくれる霊たちの存在がとてもまぶしく映った。


『いいか、まずアタシがコイツの頭にうんこを落とす』

(落ち着け)

『彼女の動きを封じて、その隙に私が足を取りますわ』

(取るな)

『両足取ります』

(両足取るな)

『では僕はポをしてやりましょう』

(ポに関してはもはや何だ)

『いえ、レイラ嬢の苦痛に比べては、1ポでは足りませんね。ポポポポポしてご覧に入れましょう』

(ポって単位だったのか)


と、同時に止めなくてはならなかった。

怒ってくれるのは嬉しいが、自分の目の前で人の頭にうんこが落ちてきて、足が取れて、ポポポポポ(何?)されていたら普通に嫌だからである。

憤る霊たちの動きを封じ、レイラはホーラ―の煮えたぎった瞳を見た。


「ホーラ―嬢。スピリチュア家の馬車を壊したのは貴女ですか」

「……」

「急に黙るのですね。答えないのならばもうよろしい。結構ですわ。」

「……証拠がないわ」

「そうですわね。私は貴女を告発できません。ただ、「舐めるなよ」と、思うだけです」

「……!?」


ホーラ―はレイラの口調が乱れるのを初めて聞いた。

レイラは今まで令嬢として、他者の存在が有るところでは決してボロを出さなかったのだ。ましてやお高く留まっている故、そのような乱暴な言葉遣いは忌避しているとさえ思われていた。

そのような彼女の、低く唸るような「舐めるなよ」という言葉。

これには流石のホーラ―さえゾッとし、去って行くレイラの後ろに声をかける事すら出来なかった。純粋に、得体のしれないものを見てしまった気持がして、怖くて、気味が悪かったのだ。


レイラの姿が見えなくなってから、彼女は俯き、呟く。


「……悪役令嬢の本性って、ことね」


その声を聞いた人間はいなかった。




第5話【おそろしや、ヒロインの本性】完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ