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第2話【降霊術は程々に】前編

第2話【降霊術はほどほどに】

『スゲ、レイラの部屋はやっぱでけーわ。』

「まぁそうだな。これでも一応公爵令嬢だ」

『こんなに広いと逆に大変そうね、廊下に出る前に迷子になりそう』

「そんな事はないだろ」

『部屋の中をヌーの群れが横切って行った…』

「そんな訳はないだろ」

『それになんてこった、地平線が見えねぇ!』

「見えてるだろ。壁が。」


スピリチュア家、レイラの自室である。

彼女は連れて来た霊二人が楽しそうにウチャウチャしているのを見つめ、隣の部屋へすり抜けようとするバカを止め、窓ガラスに赤い手形を付け始めるバカを止め、ポルターガイストで勝手に模様替えをされているのを「この暴れん坊たちめ、普通に死なすぞ……」「元気な奴らだな全く、こちとら殺人とか抵抗ないタイプだぞ……」と止めていた。

あと普通に、うるさいから連れてこなきゃ良かったなぁと後悔していた。


さておき。

学園の地縛霊たる彼女たちが、何故レイラの部屋まで来れているのかと言うと。


これも霊媒師の能力の一環、【悪霊の封印】である。

封印とは、人に害を与える悪霊を御札などに閉じ込め、外部と干渉できなくなる様に対処すること。

本来であればそのまま悪霊を抹消してしまうのだが、これは使い方を変えれば霊の移動手段に出来るのだ。


つまり、学園でフラワーとカーシマを封印する。二人を封じた御札をレイラが持ち歩く。目的地で封印を解けば、二人はその場に現れることが出来るという事だ。


霊であれば恐怖に慄くはずの封印だが、何故二人はレイラにそれを許してやっているのか。……その理由に親愛が含まれていることに、せっかくの彼女は気付いていないのだが。


『お前の部屋のトイレ何処だよ』

「住み着く気か?」

『公爵家って足の一つや二つないの?』

「あるけどそれは持ち主がいるからな」

『いやソロの足よ』

「ソロの足は無い。欲しいなら死体屋さんとかに行け」


「トイレは作るものだ」と言い出したフラワーを捕まえ、天井まで飛んだら高すぎて怖くなって泣き出したカーシマを降ろしてやり、一か所にまとめて周りを塩で囲んで閉じ込める。二人はパニックになって叫んでいたが、昨日の夕飯の残りのホルモンを供えたら黙ってモチャモチャ噛み始めた。

レイラは「これで良いのか……」と思いながら、沸き上がりそうな頭痛を抑える。


「それ以上騒ぐな。札はまだ余っている。本当に封印したって良いんだぞ」

『な゛ッ!』

『そ、それを持ち出すなんて卑怯ですレイラちゃん!』


レイラが彼女達を自室まで連れてきた理由は、"先日の茶会"の礼であった。

スートとホーラーの策略は、稚拙ではあったが情勢を上手く使っていた。世間の感情が「シンデレラストーリーはなんとなく応援したい」方向に傾いているのを敏感に悟り、強引だが自分達に有利な方向に引き込もうとしていたのである。

馬鹿でも勘だけは良いから厄介だ。

少なくとも霊二人がいなければ、レイラは無傷ではいられなかっただろう。


しかし借をそのままにするのは癪なので、二人に何か望みはないか尋ねたのだ。そしたらレイラの部屋に行ってみたいと言うので、まァそれくらいなら良いかと連れてきたのだが本当に後悔していた。


『封印は脅しの道具じゃねェって言ったんだ…』

「シャンクスか?」

『封印していいのは封印される覚悟がある奴だけよ』

「ルルーシュか?」

『平和を知らねーガキ共と戦争を知らねーガキ共との価値観は違う。頂点に立つものが善悪を塗り替える!!今この場所こそ中立だ!!正義は勝つって!!そりゃあそうだろう!!勝者だけが正義だ!!』

「それはお前がドフラミンゴの名言を言いたかっただけだろ」


ちなみに今レイラが自身の声で話しているのは、この場に彼女達しかいないからである。

周囲に人がいれば霊力で念を飛ばして会話するのだが……疲れるので、可能なら口で喋った方が楽なのだ。


塩から二人を出してやり、「走るな騒ぐな足を狙うな」とせめて最低限だけを伝えて室内に放す。解放されたフラワーが赤いドレスを翻してシャトルランを始めたのを見てレイラは全てを諦め、横で大人しく浮くカーシマに応じた。


『それにしてもレイラちゃんのお部屋ってシンプルね。物は良いけれど質素というか……お花すら無いわ。どうして?貴女くらいの女の子だったら、もっと桃色とかフリルとかで華やかなのがお好きでしょ』

「変なことを言うな。私は今でこそ令嬢かもしれないが、前世は普通に庶民のババアだったんだぞ。今更乙女の趣味なんか持てないだろ」

『あら!過去は大切だけど、今だって大事よ。せっかく女の子なのだし、せっかく生きているんですもの。日常に些細なトキメキは必要だわ』


カーシマの言葉にレイラは上手く返せなくて、黙った。

美しい女の幽霊はブラウンの睫毛がクッキリしていて、彼女が瞬きをする度にシャラシャラと鈴の音がしそうだった。

透き通っている皮膚でさえ、彼女なら硝子細工に見える。

もしも生きていたら、きっとカーシマの身体は血管ではなく葉脈がトクトクと巡り、舞うたびに足元に鈴蘭が咲いたのだろう。

綺麗な女だ。


「……別に、今世をおざなりにしている気は無いが。前世からの趣味も続けているからな。定期的にドキドキさせてもらっているぞ」

『あら、レイラちゃんにも趣味があるのね!教えてください。普段自分の事を喋ってくれないんだもの、聞かせて』

「競馬」

『……うーーん!』

「しかも今世では自立用の資金を貯めてるからな。莫大な金が必要だから基本的に全ベットだ。人生賭かってるからドキドキするぞ」

『うーーん!』

「フ、私の前世での功労は長生きした事だ。おかげで来世でも続く趣味に出逢えた。年金を得たババアの向かう先なんて、パチンコか競馬か競艇しかないからな」

『そんな事ないと思うわよ』


カーシマは途方に暮れた表情をするだけだった。

もっと恋とか、派手に華美に、遊び散らかせばいいのに。

レイラはカーシマの顔を綺麗と言うが、カーシマからすればレイラも引けを取らぬ美貌だと思う。

この娘の死因はきっと、クロユリの窒息死だと思うくらい。

なのに中身がこれだから勿体無いのだ。面白くはあるけど。


「私の話は広げなくて良い。そんな事より、お前達と遊んでやろうと思っていてな」

『私たちと?』

『ッハァ…!なぁ…!アタシはあと何回走れば…ッ!"世界記録"を越えられるんだ…ッ!?』

「まだ走ってたのかお前。世界記録とか無いからこっちに来い。お前にも遊びに参加してもらうぞ」


フラワーを呼び寄せ、レイラは自身の胸元に指を挟む。それからスポンと一枚のコインを取り出した。


「コーク・リリーさん」

『………お?』


コーク・リリーさん。

下町では有名な降霊術の一つ。

狐に殺されて亡くなったリリー・コークの霊を呼び寄せ、質問をすれば真実を教えてもらえる。


「奇数人での降霊術は禁忌だからな。偶数にする為に、お前達にもコーク・リリーさんに参加してもらう」

『ン?おい、ここにいるのは三人だぜ』

「何を勘違いしている。誰も今遊ぶなんて言っていないぞ。」

『?』

『……どういうことかしら』

「行儀は悪いが、夕食時に遊ぶんだ。ゲストに父と母と義弟を迎えてな。こっちが三人(奇数)、向こうも三人(奇数)。

でも、合わせれば六人(偶数)だ。」

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