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第7話【大暴走!呪いの人形】

「……あら、テラ。今日から謹慎が終わりなのね。」


スピリチュア家にて。

定期テストもひと段落し暇を持て余したレイラは、庭の散歩にでも向かおうとしていたのだが。そこで鉢合わせたのが、彼女の義弟、テラである。

彼は公爵家の跡取りの座を狙っている。それにより数か月前にレイラを陥れようとして返り討ちにされ、昨日まで謹慎が命じられていたのだ。


「心配の素振りとは白々しい。なんとも腐りきった性根だ。ホーラ―の美しい心を見習ったらどうです」

(コイツもホーラ―信者なのか……)

「僕の部屋に毎日アナベリ人形を仕掛けたのは貴女でしょう。メイドに捨てるよう申し付けても、毎日毎日戻ってきて……何がしたい!脅しが目的ですか」

「……何のことかしら?」

「とぼける演技まで板についているとは……。天性の悪女ですね。だって僕は貴女の部屋にアナベリ人形をかくしたのです。だから今、アナベリ人形を持っているのは義姉上でしょう!」


どうやら、暇を持て余すどころでは無くなってしまった。

捨てても捨てても戻ってくる、呪いの人形が大爆誕していたのである。


「……という感じで疑われて迷惑だったんだぞ。何故テラの部屋へ行く」

『黙れやボケカス!!ブッ殺すぞ人間風情が!!』

「口悪っ」

『テメエらの都合なんて知らないね!!こっちはなア、テメエらみたいな愚鈍な生物を不快にさせて恐怖に突き落とし、死に至らしめてやるって決めてんのさア……!』

「悪意がすごい」

『死ね!!!!』

「もう言いたい放題じゃないかお前」


レイラはテラとの会話後、屋敷の中を呪力を用いて大捜索し、アナベリ人形を見つけ出したのだ。まあ相当な曰く付き人形の為邪悪なオーラが出ていたし、発見自体はそこまで難しく無かった。普通に排水溝から出てきた時は「本当に触りたくなくて嫌だな~」と思っていたが、致し方ない。

問題は、アナベリ人形は話が全く通じないのである。


「私、あの時お前のこと捨てたよな?何で戻って来たんだ」

『うるせエ!持ち出した奴のトコロに帰るのは普通だろうが!!!殺すぞ!』

「持ち出した……あー……それでテラがお前の所有者になってしまったという事か」

『不幸になれ!!人間なんて醜くて汚くて心の腐ったゴミの塊!!人間とは、知性を授かったがゆえに、自らの愚行に言い訳を与えることしかできない欠陥品!獣ならば生きるために殺すが、人間は己の肥大化した自尊心を満たすために、同胞の尊厳すら平然と蹂躙する!その有り様は、調和を乱すだけの癌細胞、あるいは世界という精緻な庭園を蝕む『思考する家畜』と呼ぶのが、最もお似合いだア!』

「お前ちょっと語彙があるのは何なんだ」

『自らを万物の霊長と呼び習わして、神の模倣に腐心するその傲慢さったら! 己の無知を棚に上げ、理解できねエものを排除し、都合の良い正義を捏造しては悦に入る!その底の浅い精神性エゴイズムを見るたび、テメエらの存在そのものが、この世界の洗練された美に対する『致命的な瑕疵』だって思うんだア!!』

「お前その文章考えるのに何時間かかったんだ」

『殺すぞ!!しかも排水溝なんかに隠れなきゃいけねエし!!』

「排水溝に隠れてたのに関してはお前の意思だろ」

『殺すぞ!!!!』

「あぁもう分かった、ごめんねうるさかったね」


ひとまずアナベリ人形がテラの部屋に何度も戻る理由は分かった。

この人形自体の「人間に嫌がらせしたい」という意思もあるが、おそらく一番の理由は「持ち主が博物館からテラに変わってしまった」からであろう。

テラはレイラを陥れる為に、この人形を保管場所から盗み出した。そのタイミングで寄生先がテラになり、あとは呪いの人形の習性である「捨てても戻ってくる」を繰り返しているのだ。


レイラは頭が痛くなる思いである。

何てことしたんだ馬鹿義弟という気持ちと、呪物に手を出した者の末路としては妥当だと言う気持ちと、しかしこれを放っておけばテラからレイラへの勘違いが加速して面倒極まりないという気持ち。気は向かないが、少なくとも解決しなければテラは余計にレイラを疎み、更に面倒ごとが降ってくるだろう。

それは避けたい。しかし当の人形がこの調子なので、仮にレイラが説得しても聞かないだろうし。

それに散々な罵倒も聞き飽きていい加減ストレスである。


「……となると、除霊してしまうのが手っ取り早いか」


と、レイラが呟いた、その時。

アナベリ人形がレイラの手の中で暴れだし、無理やり抜け出すとバタバタドチャドチャと暴れ始める。駆けずり回ってその辺にいた人間を殺し、「あ、人間ってこんな流れで死ぬことあるんだ」と思っているレイラを無視し、勢いのまま壁にボスッと頭から突っ込み抜けられなくなっていた。


『待てよ人間!!!テメエ今何て言った!!』

「そんなお尻丸出しで聞かれても」

『除霊っつったか!?ハン、たかが霊媒師程度が悪霊と名高いアンナ・ベリーを殺せるとでも思っ……』

「……」

『……除霊の前に、あと数人だけ殺してもいいっすか?』

「良い訳ないだろ」


なんか知らないうちに勝っていた。

アナベリ人形はレイラを呪い殺そうとしたところ、その体から圧倒的な呪力が溢れている事に気が付いてしまったのだ。だからもう死期を悟って、冥途の土産にあと数人殺したいな……という気持ちになったのである。目をクチャッと瞑り、梅干しみたいな顔になり、声がプルプルと震えている。それから大声で泣いた。

レイラは「そんなお尻丸出しで泣かれても」と思ったが、しかし泣いている所を無理やり除霊するのも気が引けるので、壁からアナベリ人形を救い出してやる。


『っ、ほ、ほんとはア……!博物館に帰りたくてエ……!』

「わあそうだったのか、うんうん、話してくれてありがとうな」

『でっ、でもオ!帰ろうとしてる間に夜になっちゃってエ!そしたら体が勝手にこの屋敷に戻ってきちゃってエ……!』

「そうだったのか、うんうん、可哀そうにな」

『てかテメエらの兄弟喧嘩に何で巻き込まれなきゃいけねエンだよ……!』

「そうだよな、ごめんなごめんな」

『むしろ腐れ人間が呪物様を都合よく扱おうとするなんて図々しいにもほどがあンだろ!!殺すぞ!!テメエらは呪物様を前にしてビクビク怯えてしょんべん垂らして泣いて命乞いをするのが本来の姿なんだよ!!それが調子乗りやがって!!!殺すぞクソボケ!!!テメエからまず殺してやろうか!!!』

「同情を見せると頭が高くなるのか……腹立つな……」


どうやら、アナベリ人形自体もこの状況は本意では無いらしい。

レイラも義弟の暴走に巻き込まれただけの被害者なのだが、その言い方をするならコイツも義弟の被害者である。

除霊するのがてっとり早いが、ただそれではこの人形が普通に可哀そうだ。流石のレイラとて、この盗み出された人形に対しての同情が沸いた。


泣き止んだアナベリ人形がその辺をドチャドチャ走り回って電球を齧ったり花瓶の水を飲んで「お花の蜜の味がする……!(バカ)」とコメントしたり廊下をスライディングして止まらなくなって泣いたりしているのを見ながら、レイラは「お前の一番の望みはなんだ?」と尋ねた。


『望み…?』

「そうだ。流石に兄弟間の問題に巻き込んだ罪悪感はあるからな。お前が元いた博物館に戻してやるのが一番なのだろうが……とは言え盗まれた筈の呪物を普通に手渡しして返すわけにもいかない。博物館の前に捨て置いても、気づかれなければまたこの家に逆戻りだろ?となると忍び込んで返すしか無いが……この手段は計画を練る必要があるなら時間がかかる。それでも良いか?」

『……』

「逆にお前に、他にも望みがあるなら可能な範囲で応えてやる。例えばもっと国を脅かすような恐怖を与えたいとか……」

『そんな亊できるのか!!』


アナベリ人形は廊下をスライディングしたまま止まれなくなって泣いていたが、壁に足をタン!とするとUターンが出来る事に気付いたのでレイラの元に戻って来た。

そして瞳のボタンを輝かせ、レイラの提案に食いつく。


「出来るぞ。私の提案に乗ればな」

『乗らせろ!!この国を恐怖の底に沈めてやるよオ……!』

「すごい心意気だ」

『キキキ、恐怖で冷えたその肝を抉りだして、ギャングに輸出してやらア……!!』

「怖っ」

『ショックで色の落ちた白髪はカツラに、悲鳴で開いた口はがま口財布に、全部解体して一滴残らず売りさばく……!』

「怖っ」





後日レイラは、アナベリ人形を隠し持ち王宮へ向かった。

王子妃としての教育があるので、レイラは定期的に王宮に顔を出す必要があるのだ。

その際にスートが「婚約を“していただいている”分際で手土産が無いのは如何ほどか」と口煩いので、毎度毎度いくつか用意してやっていたのだが……今回はその中の一つに、こっそりアナベリ人形を隠し入れてやったのだ。


勿論すぐバレるような隠し方では無いし、王子が「受け取った」らこっそりその場を離れるように指示してある。


「本日ご用意したものは、チェラティ国の名産であるお菓子と、我が領で最近流行しております生地と、隣国の……」

「説明は良い。受け取ってやったからもう戻れ。」

「……」


そうしてスートの手に、アナベリ人形が渡った。

持ち主がスートになったのだ。


レイラが提案した「もっと国を脅かすような恐怖を与える」方法。

それはこの国の象徴である王子に恐怖を与える事だった。

これからスートが何度恐れようと人形を捨てようと、アナベリは何度だって王子の元に戻ってくる。王宮の頑丈なロックを抜けて、警備をものともせず、何度だって持ち主の元に帰るのだ。

勇気の無いスートのことだからそれは必死に怯えるだろうし、きっと周囲に相談するだろう。そしていくら対策をしても、王宮が手を尽くしても、全ては呪いの前では無駄になる。

これこそ「国を脅かす恐怖!」


レイラは去って行くスートを見送り、小さく微笑んだ。

いつもあれだけ無下にされているのだから、ちょっとした仕返しくらい可愛い物だろう。


「カカカ。ま、霊媒師なりの仕返し、だがな。」



第7話【大暴走!呪いの人形】完

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