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第6話【霊点回避!定期テスト】後編

(……お、アイツらとの会話って、意外と役に立つんだな…)


定期試験。

レイラは歴史の問題用紙を前に、想定以上の手応えがある事に驚いていた。

普段であれば一度分からなければそのまま思い出せる事はないのだが、今回は違う。問題文をよく読むと、自習中の霊達による会話の中で、聞き覚えのあるものが沢山出てくるのだ。


例えばこの、

【パツネ帝国の時期に小アリア海沿いで建国され、ダリフ戦時にはキャビ24世が侵略してここを新首都とした。後期のキャビ35世の時代には、アリア海包囲網戦術を行うなどし隣国を震撼させ、広大な領土を支配した。厳粛な政治が特徴であり、言論統制や緘口令などを初期に取り入れた王朝はどこか。】

という問題。

普段のレイラだったら「全く思い出せないし目が疲れるのでもうお終い」となって次の問題に移ってしまうが、今回の場合は違う。奴らがこれを指差して会話をしていたのを思い出してしまうのだ。



『あら、ここ今は別の名前になってるのね。私の教科書にはトュリハル王朝って書いてあったわ』

『そうなのか?アタシの時には既にこうだったぜ』

「なんだ、お前らは以外と世代が離れているのか」

『そうね。私の方がちょっと先なの』

『ちょっとどころじゃねーだろ。カーシマの方が結構ババ』

『フラワーちゃん』

『お、遮んなよ。何だよ』

『あの、その……今後の発言によっては、殺します』

『もう死んでるのに……?』

『二度と口が開けないように、殺します』

『もう死んでるのに……』


(答えは、トリュハル王朝……)


と、この様に。

前後の不要な会話まで勝手に蘇ってくるが、まァ今回ばかりは仕方ないとする。


他にも例えば、

【聖・ジャカルスが、1192年に建国した国の名前は何か】

という問題。

普段のレイラだったら「良い国(1192)作ろう鎌倉幕府……」と脳が鎌倉幕府に乗っ取られてしまい他の言葉が出てこなくなってしまうのだが、これも今回の場合は違う。奴らがこれを指差して会話をしていたのを思い出すのだ。



『あ、この国は懐かしいぜ』

『おや、フラワー嬢はドラニョウ国に関りがあるのですか?』

『いや無いけど』

『無いんですね』

『なんか公式で呼び名が二つあンだよこの国。アタシは圧倒的にドラニョウ派だぜ。これは強いこだわりみてぇなモンよ』

『ほう。どんなこだわりなんです。』

『ニョウ(尿)ってあるから親近感が沸いて……』

『……』

『名前が良い国だぜ、ドラ尿…』

『……』


(答えは、ドラニョウ国……)


と、この様に。

なんだか汚い思い出なのが少し嫌だが、まァ点数のためなら多少の下ネタには目を瞑る。


本来のレイラであれば点を逃していたであろう問題が、霊たちが会話していた記憶により解答を思い出せるのだ。

歴史のような純粋な暗記問題は、基本的に単語のみで記憶するのは難しい。前世の記憶が混ざって邪魔になるレイラからすると、特に記憶が混同するので難易度は跳ね上がる。

しかし霊たちが勝手に変なエピソードを語っていたせいで、それがヤケに印象的になり、今世での歴史が記憶に残るよう助けていたのだ。

レイラはそれに何だか口角が上がりそうな、暖かな気になるような感覚になって…、ハ、と真剣な顔つきに戻った。


これではまるで、自分が奴らにほだされそうになっているではないか。自分の最終的な目標は、奴らのいないのんびりスローライフ。幽霊と霊媒師が、こんなことで謎に好感度を上げてはいけない。

それに、まだ試験は終わっていないのだ。





(……とはいえ、アイツらには感謝しないとな)

「スピリチュア嬢。とうとう歴史も攻略なさったかな。この成績ならば、学年のトップも可能性があるでしょう」

「……そんな、恐縮ですわ。」


歴史テストの返却日、レイラの手元にあったのは自分でも見たことのないテストの点数。

クラス内でも上位の、圧倒的な高得点である。

レイラは自席に戻って、丸の多い解答用紙をマジマジと見つめた。普段の歴史の成績からは予想も出来ない様な正答率である。

それに、霊たちの会話を思い出して記入した解答には全て丸が付いていた。

勉強し実際に問題を解いたのはレイラの実力だが、これは流石に、彼らの存在がなければ届かなかった結果だろう。


『やるじゃんレイラ』

『先生の仰っていた通り、これなら学年トップも有り得ますわ!他の教科の点数は言わずもがなですし…苦手な教科を克服したとなれば、もう向かう所敵なしよ、レイラちゃん』

『馬鹿王子の悔しがる姿が目に浮かぶぜ!アイツ成績でレイラに勝てた事一度もねーもんな。それなのに自分が蔑ろにしている婚約者が学年トップ……!惨めったらねぇぞ』

『シュレッド嬢。淑女がそのようなことを言うものではありませんよ。まぁ……痛快というのには賛同です。』

(おい。まだ総合順位は出てないんだ。そんなに喜んでると違った場合に私が恥ずかしいだろ)


様子を見守っていた霊たちがわらわらと集まってきて、レイラの答案を覗き込む。


『何言ってんだよ。決まったようなモンじゃねーか!野郎ども、祝いのパーティーするぞ!』

(だからするな)

『レイラちゃんお寿司をお供えして頂戴な。あとお菓子』

(それはお前が食いたいだけだろ)

『ぽ、クラッカーって線香で代用出来るのでしょうか……』

(そこまでしたらパーティー会場が墓前みたいになるけど平気か?)

『お酒を掛け合うやつやってみたいわ。未成年だからお水で……』

(どんどん墓前になってるけど平気か?)


感謝こそすれど非常に騒がしいのも事実なので、レイラは彼らをシッシと追い払う。パーティーをやりたいなら勝手にやっていて欲しいものだ。これで学年トップでなければ恥ずかしいのはレイラひとりである。というより奴らの場合、暇だから何かしら理由をつけて騒ぎたいだけだろう。

……と、レイラが溜息をつく背後で、ひっそりと彼女に近づく影があった。


「まぁ、レイラ様!間違った答案に丸が付けてありますよ!そこも、そこも……そこもです!」

「……ホーラ―嬢?」

「実際の点数はもっと低くなる筈です。こんなの妙……。まさか、良い成績に改ざんするために、先生を脅したんじゃないですか!?」


同じクラスでありスートの間女、ホーラ―である。

先日の馬車騒動からたいした動きも無く、レイラとの関りも特に無かったため、まさかここで声をかけられるとは思っていなかった。てっきり脅しが効いたのかと認識していたし、彼女もあのような本性を晒したため、レイラに触れにくくなっていると感じていたのだが。……


「ここの正答はトリュハル王朝じゃ無いですよね。ドラニョウ国も、そんな名前の国ありません。教科書にだって……ほら!」

『なんだコイツいきなり声かけてきて、てか声デケ……』

「どうして不正解のものがいくつも丸になっているのかしら。先生がそのようなミスを何度もするはずがないです。みなさんもそう思いますよねっ!」


ホーラ―が声をかけると、クラスメイトの視線がレイラ達に集中する。

先ほどからホーラ―の甲高い声が響いて周囲の関心を集めてはいたが、彼女が呼びかけたことによって、クラスの全員が二人のやり取りに注目した。


「……ホーラー嬢。落ち着きになってくださいまし。まず私は……」

「あっ!先生を脅しただけじゃなく、私のことまで黙らせようとするんですか!?ひどいです……!そこまでして、良い点数になりたいんですか?」

「いえ、ホーラ―嬢。そもそも私は……」

「そんなことして良い点数になったって、レイラ様の力にはならないのに……」

「……」


一方的に囃し立てるだけ騒ぎ尽くして、レイラの言い分を聞く様子が無い。

冤罪を吹っ掛けられているのだから否定したいのだが、レイラの落ち着いた馴染みの良い声は、ホーラ―の劈くような声にかき消されて周囲に届かなかった。これではまるでレイラが、ホーラ―に図星を突かれて黙っているようにさえ見える。

レイラ側も声を荒げれば彼女も黙るかもしれないが、それでも結局公爵令状が男爵令状を大声で威圧した構図に見えるだろうし。


『何なのですこの無礼な女性は。呪い殺し……』

「そこまでして王子にいいとこ見せたいのかな」

「ホーラ―様に取られそうで焦ってるから、成績でアピールとか……?」

「……」

『ちょっと、周囲の人も変ですわ。乗せられて陰口なんてみっともない』

『おいレイラ!コイツ黙らせていいか?頭に水ぶっかけて……』


周囲の生徒たちも、ポソポソとホーラ―に賛同しているようだった。

これはいつものことだ。生徒たちの間で、レイラの印象は王子の婚約者である悪女。それゆえ身勝手に振る舞い、ホーラ―や王子はそれを正そうとする。いつもの光景だ。

彼らが証拠を出したことは無いし、そもそもレイラに悪事の証拠なんてないのだが。

それでも人々は無責任に、レイラが不正をしホーラ―が正しいと決めつける。

いつもの光景。レイラはそれを気にしたことは無い。

ただ、そちらが悪意を持って近づいてくるのならば……


「スピリチュア嬢は不正などしていませんよ。」


その時である。

二人の間に立ったのは歴史教師。彼は教室全体に聞こえる声で、そう言い放った。

ホーラ―の顔が勢いよく彼を向いて、敵意のこもった視線を一瞬、しかし次の瞬間には眉尻を下げてメソメソと「お辛い立場ですのね……」と同情の声をかける。


「レイラ様に脅されているんですよね?大丈夫です、私がお助けしますっ」

「脅されていません。スピリチュア嬢は素晴らしい成績です」

「だって!例えば、ここの問題……っ」

「トリュハル王朝もドラニョウ国も、確かにその名は教科書には載っておりません。しかし、公式的に別の呼び名として登録されているのです」

「別の呼び名……?」


ホーラ―の言葉が詰まる。

彼女が静かになったのを見届けて、教師はレイラに向き直った。


「ややこしいので教科書には基本載っておりません。資料集や古い文献に載っている呼び名です。いやはや、この回答をした生徒は久しい。スピリチュア嬢は、深く歴史を勉強なさったのですね」

「……ええ。」


そして褒められた。

視界の端に顔を憤らせながら去って行くホーラ―が映ったが、もはやレイラはどうでも良かった。


(……おい)

『何だよ!今うんこロケット作ってるから待てよ、今クラス中にばら撒いて』

『待ってレイラちゃん、う……おクソのロケットは私は止めたのよ。代わりに全員の足を捥ぎ取って千手観音みたいに……』

(それはもういい。あと結構グロいのはやめろ。レーディングに関わる)

『しかしこのままでは気が済みません。僕は麗しき女性の名誉が傷つけられて黙っていられるほど、紳士ではないのです』

(……いや、いい、その気持ちで充分だ。それよりもするぞ、パーティー)

『……良いのですか?』

(あぁ。むしろ吹っ切れて盛り上がりたい気分だ)

『そうなの?ならばお寿司を備えてお線香をクラッカー代わりにして、水をかけて……あ!あとお花も飾りましょう』

(どんどん墓前になってるけど平気か?)

『めでたいですし、石に名前とか刻みます?』

(もしかしてあえてか?)


レイラはフ、と笑った。

コイツらは鬱陶しいが、まあ、嫌いではない。



第6話【霊点回避!定期テスト】完

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